質問コーナー「
刑法 」
62件の質問
不法原因給付物を客体とする盗品等関与罪(刑法256条)の成否については、①不法原因給付物を客体とする前提犯罪(詐欺罪、恐喝罪、横領罪)の成否(256条1項でいう「財産に対する罪に当たる行為」の成否)、②盗品等関与罪の保護法益論との関係(256条1項でいう「物」への該当性)に分けて考え、論文試験では①→②の流れ論じます。 まず、①前提犯罪の成立が否定されれば、「…財産に対する罪に当たる行為によって領得された物」に当たらないため、盗品等関与罪の保護法益論に入るまでもなく、盗品等関与罪不成立という結論になります。 次に、②前提犯罪の成立が肯定されても、不法原因給付物については民法708条本文類推適用 […]
司法試験・労働法フルパックを受講して頂き誠にありがとうございます。 特に出題可能性が高いと考える学説対立は以下の通りです。 因果関係における相当因果関係説と危険の現実化説の対立(R2司法) 間接正犯事例の故意なき幇助的道具における学説対立(H21司法) 間接正犯の実行の着手時期における利用者標準説と被利用者標準の対立(H25司法) 殺人罪の不真正不作為犯と保護責任者遺棄致死罪の区別に関する学説対立(H30司法) 被害者の承諾における法益関係的錯誤説と条件関係的錯誤説の対立 実行の着手時期における形式的客観説、従来の実質的客観説、新しい実質的客観説(危険性+密接性)の対立 原因において自由な行為 […]
刑法でも、論点つぶしになるような構成を選択しているという認識はありませんが、構成によってはいたずらに答案が複雑化することがあるので、こうした事態にはならないように配慮していることはあります。また、解答速報の段階では、理想的な構成に言及した上で、現実解も示すという意味で、敢えて構成を簡略化していることがあります(例えば、令和3年予備試験刑法の解答速報の後半部分など)。 現行の試験では、あり得る構成であれば、選択した構成ごとに配点が設けられていますから、ある構成を選択したことにより消滅する論点が生じたとしても、これにより失点するということにはなりません。仮に、問題文でもろに誘導されている論点が消滅 […]
当てはめでは、問題文の事実を答案に摘示し、それに対する評価を書くことになります。このように、当てはめは、問題文の事実の「摘示」とそれに対する「評価」から構成されています。したがって、事実を摘示するだけでは足りませんし、事実の摘示を飛ばしていきなり評価から書くこともできません。特に、司法試験の刑事系では、設問で「具体的事実を摘示しつつ論じなさい。」というように、事実の摘示について明確な指示があることが多いです。 答案に問題文中の事実を摘示する方法には、①問題文中の事実をほぼそのまま引用する方法と、②(大幅に)意味が変わらない範囲で要約して摘示する方法とがあります。 特に司法試験では、問題文が長い […]
判例の独立燃焼説の立場からは、「その火は、木製の床板に燃え移り、同床板が燃え始め…、その燃え移った火は、同床板の表面の約10センチメートル四方まで燃え広がった」時点で、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継続する状態に達したといえ、「焼損」が認められます。 判例の独立燃焼説に対しては、既遂時期が早すぎるとの批判があり、学説には、こうした批判を踏まえて、「独立燃焼開始後、ある程度の燃焼継続可能性を要求すべきであろう。」として、独立燃焼説を維持ししつつ「焼損」の意義を判例の独立燃焼説よりも限定的に捉える見解があります(山口各論第2版385頁等)。 この学説の立場からは、「その […]
詐欺未遂犯に関する平成30年最高裁判決(最判H30.3.22)の山口厚補足意見を読む限り、①実行行為との密接性の当てはめがメインで、②既遂結果発生の客観的危険性の有無についてはほとんど①の当てはめを前提として自動的に導かれています。 したがって、行為者の主観面(故意、犯行計画)は①の当てはめで使うことになります。 一度、上記の補足意見を読んで頂くことをお薦めいたします。
大塚裕史先生の刑法通信では、因果関係についての危険の現実化説と不能犯についての具体的危険説は両立しないと解説されています。 https://www.lec-jp.com/shihou/column/ootsuka/220307.html もっとも、試験的には、因果関係と不能犯の双方が出題された場合に、因果関係については危険の現実化説を採用し、不能犯については具体的危険説を採用するという書き方でも構わないと思います。 令和2年司法試験では、因果関係と不能犯の双方が出題されましたが、出題趣旨及び採点実感では、因果関係に関する判断枠組みと不能犯に関する判断枠組みとの間における論理的関係についてまでは […]
放火の対象及び方法からして建造物の独立燃焼が発生し得なかったというケースなら、「焼損」について独立燃焼説に立った場合、既遂結果としての「焼損」の要件に入る前に、実行行為レベルのところで不能犯の議論が出てきます。 上記ケースでは、実行行為レベルのところで、独立燃焼説について論じたう上で、独立燃焼説からは不能犯が問題となる、と書くことになると思います。要するに、既遂要件に属する「焼損」概念に関するが論点が実行行為レベルのところまで繰り上がって問題となるわけです。
確かに、令和3年司法試験刑法第2問小問2では、「論点ごとに論拠を示しつつ反論すること。」とあるため、反対説の論拠までは求められていなかった令和1年司法試験刑法第2問とは異なり、反対説の論拠たる理由付けまで求められています。 しかし、1000番付近の受験生が反対説の論拠まで言及できるかと言えば、そうではないと思います。また、それ故に、反対説の論拠については、その場で思いついたことを適当に書くだけでも、他のことをちゃんと書けていれば、十分A評価に入れると思います。 したがって、反対説の論拠までおさえる必要性はさほど高くありません。 少なくとも合否には影響がありませんから、刑法で高得点を目指すなら意 […]
共同正犯の成立要件について質問様のように理解する見解もありますが、それだと、実行共同正犯の場合でも”常に”正犯意思についてまで言及する必要があるため、書きにくいですし、司法試験委員会の理解とも整合しないように思えます(少なくとも、これまでの司法試験の出題趣旨・採点実感・ヒアリング、予備試験の出題趣旨において、実行共同正犯の場合に正犯意思についてまで言及するべきとの指摘は一度もありませんので)。 試験対策としては、”原則として”、実行共同正犯の成立要件は「特定の犯罪を共同遂行する旨の意思連絡という意味での共謀、共謀者全員の共謀に基づく実行行為」、共 […]
令和3年司法試験設問1は、甲と丙とが①窃盗罪又は業務上横領罪と②①の隠ぺいするための狂言強盗について意思連絡をした後で、乙と丙が③強盗について意思連絡をし、その後、甲と乙が①窃盗罪又は業務上横領罪を実現した(いずれの犯罪が成立するかは、本件バッグの占有が丙に帰属していたかによる)という事案に関するものです。 本件バッグの占有が丙に帰属していると認定する場合、甲と丙とは、業務上横領罪の共謀に基づいて、業務上横領罪を実行したことになりますから、丙には業務上横領罪の共同正犯が成立し、甲には単純横領罪の共同正犯(※判例の立場からは業務上横領罪の共同正犯)が成立します。 乙については、共謀共同正犯の成立 […]
これまでの予備試験過去問を見る限り、刑法では、1つの問題で、幅広く複数の分野・論点から出題されています。幅広く複数の分野・論点から出題することにより、基礎知識の有無を試しているのだと思います。 制限時間の短い予備試験論文で多角的検討を要する出題をする場合、1つの問題で出題できる分野・論点がだいぶ狭くなりますから、幅広く複数の分野・論点から出題することにより基礎知識の有無を試すということができなくなってしまいます。 このように考えると、予備試験では、刑法で学説対立をはじめとする多角的検討を要する出題がなされる可能性は低いといえます。 したがって、予備試験論文対策としては、刑法では、自説(判例・受 […]
特に出題可能性の高いものを10個厳選するのであれば、以下の通りです。 故意行為を利用した間接正犯事例における故意ある補助的道具に関する学説対立 方法の錯誤における抽象的法定符合説と具体的法定符合説の対立 併発結果の事例における一故意犯説と数故意犯説の対立 被害者の承諾及び自殺関与罪・同意殺人罪における法益関係的錯誤説と条件関係的錯誤説(重大な錯誤説)の対立 原因において自由な行為の理論における学説対立 共同正犯の抽象的事実の錯誤における犯罪共同説と行為共同説の対立 承継的共同正犯に関する学説対立 共同正犯関係からの離脱において物理的因果性だけが残存する場合おける学説対立(離脱肯定説、離脱否定説 […]
中止犯の任意性に関する主観説は「行為者ができると思ったのに止めたのか、それともできないと思って止めたのか」を基準にする見解であり、客観説は「行為者の認識した事情が経験上一般に犯行の障害となるようなものか否か」を基準とする見解です(山口厚「刑法総論」第3版301頁)。 客観説も、全ての事情について「経験上一般に犯行の障害となるようなものか否か」を問題にするのではなく、「行為者の認識した事情」について「経験上一般に犯行の障害となるようなものか否か」を問題にする見解であるため、主観説と客観説とで結論が異なるケースはさほど多くありません。 とはいえ、行為者が、経験上一般に犯行の障害となるような事情につ […]
間接正犯類似説は、原因行為を実行行為と捉える見解ですから、ご質問の事例だと、原因行為である飲酒行為を殺人罪の実行行為と捉えることになります(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版226頁)。 そして、間接正犯類似説では、実行行為である原因行為時と結果行為時において殺人罪の故意が必要とされます(大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ」第3版227頁。これを、二重の故意といいます)。ご質問の事例では、飲酒行為の時点では暴行又は傷害の故意しかないのですから、二重の故意の問題に言及するまでもなく、実行行為時における殺人罪の故意がないとして、殺人未遂罪の成立が否定され、原因行為と被害者重症との間の因果関係が認められるのであ […]
2項強盗殺人罪では、①「強盗」要件との関係で236条2項の強盗罪を侵したことが必要とされ、②これが認められた場合に初めて、殺人罪の実行行為又は「実行に着手」が問題となります。 ①では、単に2項強盗罪における実行行為である「暴行又は脅迫」が認められれば足りるのですから、ここでは殺人の実行行為又は「実行に着手」まで認定する必要はありません。したがって、①と②は別次元の要件であり、①は②に先行して認定される要件であるという位置づけになります。 もっとも、①について、②の結論を先取りする形で認定する場合もあります。それが、令和2年司法試験設問3の事案において、Aに睡眠薬を飲ませた第1行為について、㋐「 […]
ご質問について、平成25年司法試験の事案を簡単なものに修正した上で、説明いたします。 暴力団組長である甲は、末端組員である乙に対して、自動車内にVが監禁されている事実及び自らのV殺害計画を秘したまま、自動車を燃やして処分するように指示した。 乙は、了承の上、事情を知らないまま、自動車の走行を開始した。 乙は、途中で、自動車内にVが監禁されている事実を知り、これにより甲のV殺害計画にも気が付いた。 乙は、組長甲からの命令であることに加え、Vに対して個人的な恨みを持っていたことから、自動車を燃やしてVを殺害しようと決意し、自動車の走行を継続した。 乙は、目的地に到着し、自動車に放火して、Vを焼き殺 […]
まず、「甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る具体的な事実として…考えられるものを3つ挙げた上で、上記の結論を導く理由を事実ごとに簡潔に述べなさい」という設問は、①「甲に殺人既遂罪が成立しないという結論の根拠となり得る具体的な事実として…考えられるものを3つ挙げ」ることと、②「上記の結論を導く理由を事実ごとに簡潔に述べなさい」の2つに分けることができます。 ①事実については、簡潔にではなく、具体的に摘示する必要があります。 これに対し、②「理由」である理論面及び当てはめは、「簡潔」に書けば足ります。具体的には、問題提起に属することを書くというイメージです。規範を導く理由付けを書い […]
確かに、全体的考察により一個の過剰防衛の成立余地を認める判例・通説については、「違法阻却段階での全体的考察は、構成要件段階におけるそれの反映ということになる」(平成21年重要判例解説刑法2解説2)との理解もありますから、この理解を前提にするならば、過剰防衛の一体性に関する[論点2]は第1行為と第2行為の双方を対象とした客観的構成要件該当性の最初の段階で先出しして論じ、その結果が責任段階における過剰防衛の成否と連動することになる、と考えることになります。 しかし、試験対策としては、上記の書き方は避けるべきです。[論点2]が出題された平成23年司法試験の出題趣旨・採点実感でも、上記のような書き方は […]
同時傷害事例のうち後行者について承継的共同正犯の成否が問題となるのは、傷害結果が①「後行者の共謀加担前における先行者の暴行」と②「後行者の共謀加担後における先行者又は後行者の暴行」のいずれから生じたのが不明である場合です。 仮に①により傷害結果が生じている場合には、先行者の暴行①と傷害結果との間に問題なく因果関係が認められるため、傷害結果が先行者に帰責されます。②により傷害結果が生じている場合には、先行者の暴行②により傷害結果が生じているときは問題なく先行者に傷害結果が帰責され、後行者の暴行②により傷害結果が生じているときは一部実行全部責任の原則(60条)により先行者にも傷害結果が帰責されます […]

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年 新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
答案を書くための 行政法集中演習」
(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
憲法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成30年」
行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成29年」
行政法(法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 平成23~
25年」行政法(法学書院)