加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

0

ある犯罪について直接正犯と間接正犯が同時に成立することはあり得るのか

加藤先生、いつもブログ拝見しています。刑法の間接正犯について質問です。
被利用者の道具性が失われた場合、利用者標準説に立つと利用行為の時点で実行の着手が認められる以上、利用者に間接正犯の未遂犯が成立し、被利用者(であった者)には直接正犯が成立するという理解でよろしいでしょうか。それとも、被利用者の道具性が失われた場合、間接正犯が成立する余地はなく、利用者の「教唆犯と間接正犯の限界」を論じるべきでしょうか。
何卒ご教授していただけたらと思います。

ご質問について、平成25年司法試験の事案を簡単なものに修正した上で、説明いたします。

  • 暴力団組長である甲は、末端組員である乙に対して、自動車内にVが監禁されている事実及び自らのV殺害計画を秘したまま、自動車を燃やして処分するように指示した。
  • 乙は、了承の上、事情を知らないまま、自動車の走行を開始した。
  • 乙は、途中で、自動車内にVが監禁されている事実を知り、これにより甲のV殺害計画にも気が付いた。
  • 乙は、組長甲からの命令であることに加え、Vに対して個人的な恨みを持っていたことから、自動車を燃やしてVを殺害しようと決意し、自動車の走行を継続した。
  • 乙は、目的地に到着し、自動車に放火して、Vを焼き殺した。

乙が甲によるV殺害計画に気が付いた時点で、殺人罪との関係では、乙の道具性が失われることになります。利用者標準説からは、甲が乙に自動車を燃やして処分するように指示をした時点で殺人罪の実行の着手が認められるため、少なくとも、甲には殺人罪未遂罪の間接正犯が成立します。もっとも、甲の利用行為⇒乙の故意に基づく殺害行為⇒V死亡という因果経過における介在事情の異常性と寄与度の高さから、危険の現実化としての因果関係が否定されますから、甲には殺人既遂罪の間接正犯は成立しません。殺人”既遂”の点については、甲には、乙を直接正犯として、殺人既遂罪の教唆犯が成立し得ます。

同じ行為又は結果について、直接正犯と間接正犯が同時に成立することはあり得ません(これが学説の圧倒的多数の立場です)が、上記の場合、殺人”既遂”の点については、甲には間接正犯が成立していないため、乙を直接正犯とする教唆犯の成立を認めても、同じ結果について直接正犯と間接正犯の双方の成立を認めたということにはなりません。

参考にして頂ければと思います。

2021年04月06日
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ