加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

不任意自白の派生的証拠の証拠能力の論じ方(その1)

いつも大変お世話になっております。

平成27年司法試験第2問(刑訴)の設問2に関連して、自白法則と排除法則の関係性について、質問がございます。
本件文書及び本件メモの証拠能力について、排除法則によって検討する際、新しい毒樹の果実論(「先行手続き(起点となる手続き)と証拠(第1次的証拠・派生証拠を問わず)との関連性」)を規範にしようと考えました(伊藤裁判官補足意見の毒樹の果実論とは少し異なる規範です)。
本事案では、先行手続たる甲の自白獲得手続と、本件文書及び本件メモとの関連性を検討するかと思います。具体的には、①先行手続に違法があるのか、②先行手続きに違法があるとしても「重大な違法」かどうか、③先行手続に重大な違法があるとしても、証拠(本件文書・本件メモ)との密接関連性があるかどうか、を検討するかと思います。
仮に、自白法則で虚偽排除説を採る場合、上記判断枠組み(①から③)のどこで自白法則を論じることになるのでしょうか?そもそも、虚偽排除説を採る場合は、上記判断枠組みからは外れ、別途自白法則を検討することになるのでしょうか?別途自白法則を検討するとしても、虚偽排除説ですと、先行手続きの違法性には着目していないため、上記判断枠組みには当たらなそうに思います。すると、本事例では、仮に自白法則で虚偽排除説を採るならば、新しい毒樹の果実論ではなく、伊藤裁判官補足意見の毒樹の果実論(第1次的証拠と派生証拠との関連性を検討する見解)を採用すべきなのでしょうか?
また、本事例で、新しい毒樹の果実論を採るならば、自白法則は違法排除説を採用した方がよいのでしょうか?
宜しくお願いいたします。

まず、①不任意自白の派生的証拠の証拠能力については、初めに自白法則について検討するべきです。虚偽排除説に立つのであれば、ご指摘の通り、自白法則により甲の自白の証拠能力が否定されるからといって当然に甲の自白の獲得手続(先行手続)が違法と評価されるわけではありませんから、派生的証拠について違法収集証拠排除法則の枠組みで論じるのであれば甲の自白の獲得手続が違法と評価されることを別途指摘する必要があります。

次に、②派生的証拠について違法収集証拠排除法則の枠組みで論じる場合、㋐第一次証拠・派生証拠の双方について違法性承継論で一元的に処理する見解(古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版418頁)、㋑第一次証拠については違法性承継論で処理する一方で派生証拠については毒樹の果実論で処理する見解(大津事件・最二小判平成15・2・14・百92)、及び㋒先行手続に重大な違法があることを前提に先行手続と第一次証拠及び派生証拠との間に将来の違法捜査抑止の観点からの証拠排除の相当性を肯定できるだけの関連性があるかどうかを検討する川出説とがあります。質問者様の仰っている『新しい毒樹の果実論(先行手続き(起点となる手続)と証拠(第1次的証拠・派生証拠を問わず)との関連性)』を問題にする見解は㋒の川出説だと思います。

そして、③「本事例で、新しい毒樹の果実論を採るならば、自白法則は違法排除説を採用した方がよいのでしょうか」という点についてですが、確かに、前記①の通り、虚偽排除説からも、派生的証拠について違法収集証拠排除法則の枠組みで論じることが可能です。しかし、その際、自白法則による甲の自白の証拠能力の否定が先行手続(甲の自白の獲得手続)の違法に直結しないため、別途先行手続(甲の自白の獲得手続)の違法性について黙秘権侵害等の観点から論じる必要があるという意味で、迂遠です。先行手続の違法を認めるために黙秘権侵害等を認定するのですから、虚偽排除説による当てはめをした後に、人権擁護説又は違法排除説からの当てはめをしていることになるからです。なので、派生的証拠について違法収集証拠排除法則の枠組みで論じるのであれば、自白法則については、そこでの当てはめが先行手続(甲の自白の獲得手続)の違法に直結する人権擁護説か違法排除説を採用するべきであると考えます。

なお、④虚偽排除説から派生的証拠について毒樹の果実論を転用する見解(堀江・松戸・堀江「リーガルクエスト刑事訴訟法」第2版446~447頁)に立つのであれば、先行手続(甲の自白の獲得手続)の違法を認定することなく派生的証拠について毒樹の果実論を使うことができますから、迂遠な説明にはなりません。

2020年12月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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