加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

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共同正犯における抽象的事実の錯誤の事例で罪名従属性を論じる必要性

いつもお世話になっております。
秒速講座受講生です。お忙しい中、質問に答えて頂き大変勉強になっています。
平成27年司法試験刑法における乙の罪責について質問があります。
本問は、甲が乙との間で業務上横領罪について共謀し、窃盗罪を実現したという事案であり、共同正犯における抽象的事実の錯誤の事例のうち、謀議時点では共同者間に不一致がない場面に属します。そのため、①共謀の成否⇒②共謀に基づく実行行為⇒③錯誤論⇒④共同正犯の本質論を書くと思ったのですが、模範答案では、④共同正犯の本質論の記載がありません。他方で、平成20年の模範答案では④共同正犯の本質論まで書いてあります。平成27年と平成20年との違いが分からず、困惑しております。
ご回答して頂けますと幸いです。

共同正犯者間の抽象的事実の錯誤の事例において、③故意又は客観的構成要件該当性に属する抽象的事実の錯誤は「個々の共謀者と実現された犯罪とのズレ」に関する論点であるのに対し、④罪名従属性(共同正犯の本質)は「共謀者間での故意のズレ」に関する論点です。

平成27年司法試験では、甲が乙との間で業務上横領罪について共謀し、窃盗罪を実現したという事案です。模範答案では、業務上占有者と共謀した非身分者には単純横領罪の認識ではなく業務上横領罪の認識を認める見解に立った上で、乙の③錯誤論について「重い罪の認識で軽い罪を実現した場面」として、乙について実現事実である窃盗罪の故意を認めることができるかを問題にしています。そして、ソフトな構成要件的符合説から、業務上横領罪と窃盗罪とは窃盗罪の限度で実質的に重なり合うとして、乙に窃盗罪の故意を認めています。

そうすると、③錯誤論による処理を終えた段階で、甲と乙の双方に窃盗罪の故意が認められることになりますから、甲乙間の故意のズレが解消されていることになります。したがって、異なる故意を有する甲乙間に共同正犯の成立を認めることができるかという問題意識に基づく④罪名従属性の論点は顕在化しません。

このことは、平成27年司法試験の解説13頁で明示していますから、再度ご確認頂けますと幸いです。

2020年12月16日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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