立証趣旨と要証事実の関係について、検察官請求証拠を念頭において、説明いたします。
立証趣旨は、争点となっている主要事実を立証するための証拠の使い方の指針みたいなものです。
立証趣旨をそのまま前提にするとおよそ証拠として無意味になるような例外的な場合を除き、立証趣旨を踏まえて要証事実を設定することになります。
このように、要証事実(証拠の直接の立証事項)は、原則として、立証趣旨を踏まえて把握することになります。
もっとも、立証趣旨を踏まえて要証事実を把握した場合に、必ずしも、立証趣旨と要証事実が同一事実を意味することになるわけではありません。
立証趣旨は、証拠により窮極的に証明しようとしている主要事実を指していることもあれば、間接事実による主要事実の推認過程におけるある間接事実を指していることもあります。
例えば、平成30年司法試験設問2小問2では、詐欺既遂の被告事件おいて、「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受け取ったこと」を立証趣旨とする領収書について、「本件領収書の証拠能力について、立証趣旨を踏まえ、立証上の使用方法を複数想定し、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。」とあります。
仮に、立証趣旨を踏まえて把握される要証事実が立証趣旨と同一事実を意味するのであれば、立証趣旨を踏まえて把握される要証事実は1つしかあり得ず、「立証上の使用方法を複数想定」することはできません。
立証趣旨を踏まえて要証事実を把握するということは、立証趣旨から想定される証拠の使い方に従って証拠構造(又は推認過程)を組み立てて、要証事実を把握するということです。
そのため、立証趣旨を踏まえて把握される要証事実が立証趣旨と同一事実を意味していることもあれば、立証趣旨と異なる事実を意味していることもあります。
後者は、立証趣旨と要証事実が、立証趣旨から想定される一つの推認過程における別次元の事実を意味している場合です。
以上を踏まえて、平成27年予備試験設問2について解説いたします。
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平成27年予備試験設問2
司法警察員Pらは、甲が携帯していたサバイバルナイフでVの左腕を切りつけ、Vに傷害を負わせたという傷害事件の捜査のために、甲方内(同居人として乙がいる)を令状捜索し、寝室内の机の上段の引き出しを開けたところ、引出しの中に血の付いたサバイバルナイフを発見し、その左横に、甲名義の運転免許証及び健康保険証を認め、その状況を写真撮影することとし、サバイバルナイフ及び運転免許証等を1枚の写真に収まる形で近接撮影した。
Pらは、サバイバルナイフを差し押さえた。
サバイバルナイフに付いた血がVのものと判明したことなどから、検察官Rは、地方裁判所に甲を傷害罪で公判請求した。
甲は、「身に覚えがない。サバイバルナイフは乙の物だ。」と供述し、犯行を否認している。
検察官Rは、「甲方の寝室内には、机及びベッドが置かれていた。机には、上下2段の引出しがあり、このうち、上段の引出しを開けたところ、手前側中央付近に、サバイバルナイフ1本が置かれており、その刃の部分には血液が付着していた。そして、同サバイバルナイフの左横に、甲名義の運転免許証及び健康保険証があった。」旨の説明文が記載されている上、前記写真が添付されている本件書面(Pが作成したもの)により、前記サバイバルナイフと甲との結び付きを立証したいと考え、同書面の証拠調べ請求をした。
問題文では、立証趣旨という表現は用いられておらず、「前記サバイバルナイフと甲との結び付きを立証したい」という検察官Rの証拠(調べ)請求の狙い(平成27年司法試験採点実感参照)が記載されています。
要証事実を設定するためには、推認過程(証拠構造)を組み立てる必要があり、推認過程を組み立てるためには証拠の使い方を確定する必要があります。
証拠の使い方とは、「当該証拠を、いかなる主要事実を証明するために、どのように使うのか」ということです。
これは、①証拠と主要事実の対応関係と、②①の主要事実を立証するための証拠の使い方(証拠構造)に分類されます。
まず、①から確定します。
甲は、「身に覚えがない。サバイバルナイフは乙の物だ。」と供述し、犯行を否認しています。
ここから、甲は、主として、犯人性を否認していることが分かります。
このことに、罪体立証が問題となっていることを窺わせる事情が問題文にないことも踏まえると(なお、被害者供述やサバイバルナイフ等から立証可能)、本件書面に対応する主要事実は甲の犯人性であるといえます。
次に、②として、甲の犯人性を証明するための本件書面の使い方を確定します。
本件書面から甲の犯人性を直接に証明することはできませんから、直接証拠型ではなく、間接証拠型であることが分かります。
そして、甲が「サバイバルナイフは乙の物だ」と供述している状況下で、検察官Rが「同書面によって前記サバイバルナイフと甲との結び付きを立証したいと考えている」ことから、検察官Rとしては、サバイバルナイフが甲のものであるという間接事実⇒甲の犯人性という推認過程を想定しているといえます。
ここで、本件書面から直接にサバイバルナイフが甲のものであるという間接事実を立証することができるのであれば、本件書面の要証事実はサバイバルナイフが甲のものであるという間接事実と把握することになるのが通常です。
しかし、本件書面から直接にサバイバルナイフが甲のものであるという間接事実を立証することは困難ですし、本件書面の内容からしてこのような使い方は不自然です。
問題文には、Pはサバイバルナイフの保管(発見)「状況を写真撮影することとし」とあります。
この問題文のヒントからしても、検察官Rは、本件書面(証拠)⇒サバイバルナイフの保管(発見)状況(甲方の寝室内の机の上段の引出の中に、サバイバルナイフ1本が置かれており、その左横に、甲名義の運転免許証及び健康保険証があった)(再間接事実)⇒サバイバルナイフが甲のものであること(間接事実)⇒甲の犯人性(主要事実)という推認過程を想定していると考えるべきです。
したがって、本件書面の要証事実は、サバイバルナイフの保管(発見)状況(甲方の寝室内の机の上段の引出の中に、サバイバルナイフ1本が置かれており、その左横に、甲名義の運転免許証及び健康保険証があった)という再間接事実です。
なお、同種の証拠構造(推認過程)は、平成21年司法試験設問1の写真撮影④でも出題されています。
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