加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

伝聞法則「会話の存在と内容」という立証趣旨から導かれる要証事実との関係で供述の内容の真実性が問題とならない理由

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平成22年司法試験では、甲が乙に対する拳銃譲渡を公訴事実として起訴され、罪証認否において甲が「自分は、乙に対して拳銃を譲り渡したことはない」旨述べて否認しているという事案において、検察官が、「甲乙間の本件拳銃譲渡に関する甲乙間の会話の存在と内容」を立証趣旨として、甲乙間における拳銃譲渡を窺わせる甲乙間の会話部分を含む捜査報告書を証拠調べ請求しています(説明の便宜上、甲丙間の会話部分は度外視します)。

拳銃譲渡に関する甲乙間の会話の使い方としては、①要証事実を甲乙間の会話の内容の真実性を前提としたものにする(甲乙間の会話の内容たる事実を要証事実とする)、②甲乙間でそのような内容の会話がなされたことを要証事実とする、③甲乙間で何らかの会話がなされたことを要証事実とする、という3パターンが想定されます。

①は、捜査報告書中の会話部分(証拠)から「甲と乙が拳銃譲渡の合意をした」という主要事実を直接に証明するというものです(直接証拠型)。この場合、要証事実との関係で甲乙の会話の内容の真実性が問題となるため、会話部分は伝聞証拠です。

③は、捜査報告書中の会話部分(証拠)から「甲乙間で何らかの会話がなされた」という間接事実を証明することにより、この間接事実から「少なくともその時点では甲と乙が面識を有していた」という間接事実を推認し、ひいては甲乙間の共謀等の主要事実を推認するというものです(間接証拠型)。この場合は、会話部分は非伝聞証拠です。

①③では、証拠から主要事実の証明に至るまでの過程に、検察官の立証趣旨が示している間接事実である「甲乙間の本件拳銃譲渡に関する甲乙間の会話の存在と内容」が出てきませんから、①③は検察官の立証趣旨に反する推認過程となります。

検察官の立証趣旨から導かれる推認過程は、②です。

②は、捜査報告書中の会話部分(証拠)から「甲乙間で拳銃譲渡を窺わせる内容の会話がなされた」という間接事実を証明することにより、この間接事実から「甲と乙が拳銃譲渡の合意をした」という主要事実を推認するというものです(間接証拠型)。①と違い、要証事実は「甲乙間で拳銃譲渡を窺わせる内容の会話がなされた」という間接事実です。

ここで、要証事実に「会話の存在」だけでなく「会話の内容」も出てきているのだから、甲乙間の会話の内容の真実性が問題になるのではないか?、仮にそうだとすれば会話部分は非伝聞証拠ではなく伝聞証拠に当たるのではないか?という疑問を抱く方もいると思います。

②の推認過程で問題になる供述過程における誤りとしては、イメージしやすいものとして、甲乙間の会話の過程における冗談(表現の誤り)・言い間違え(叙述の誤り)を挙げることができます。

確かに、甲乙間の会話の過程において冗談・言い間違えがあった場合、「甲乙間で拳銃譲渡を窺わせる内容の会話がなされた」(間接事実)→「甲と乙が拳銃譲渡の合意をした」(主要事実)という推認が妨げられることになります。

しかし、捜査報告書中の会話部分(証拠)→「甲乙間で拳銃譲渡を窺わせる内容の会話がなされた」(間接事実)という推認は妨げられません。

そして、伝聞証拠の定義における「要証事実との関係で公判廷外供述の内容の真実性が問題になる」とは、証拠から要証事実(直接の立証事項)を(証明)推認する際に公判廷外供述の内容の真実性が問題になることを意味します。

そうすると、甲乙の会話の過程に誤りがあったとしても、証拠から要証事実を証明(推認)することの妨げにはならないのですから、「甲乙間で拳銃譲渡を窺わせる内容の会話がなされた」(間接事実)という要証事実との関係では、甲乙間の会話の内容の真実性は問題にならない、と理解することになります。

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コメント

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    こんばんは。いつも大変勉強になる記事を書いていただきありがとうございます。
    本事例(拳銃の会話の存在を間接事実とする推認が許される)と下記事例(「刺した」旨のWの供述の存在を間接事実とする推認は許されない)との差異はどこにあると考えればよいのでしょうか?
    特定内容の公判廷外供述の存在を間接事実として特定内容の真実性を推認する場合における、伝聞法則の潜脱になる場合とならない場合の区別がいまひとつ分かりません。
    宜しくお願い致します。
    https://t.co/MR6JZrLzq7

    • kato_admin

      伝聞法則の潜脱になるのは、供述の存在自体から、供述の内容となっている事実を推認する場合です。例えば、「甲がVを刺した」旨のWの供述は、その内容の真実性を問題にすることにより、「甲がVを刺した」事実(これがWの供述の内容となっている事実です)を直接推認する証拠として用いられるものです。そうではなく、「甲がVを刺した」旨のWの供述(証拠)→Wの供述の存在(間接事実)→「甲がVを刺した」事実(主要事実)という使い方をするのは、伝聞法則の適用を回避するために推認過程に「Wの供述の存在(間接事実)」を介在させているだけであり、伝聞法則の潜脱に当たります。
      平成22年司法試験の事案において、拳銃譲渡に関するものであると窺われる会話(証拠)→拳銃譲渡に関するものであると窺われる会話の存在(間接事実)→拳銃譲渡の事実(主要事実)という推認過程を用いても、供述の存在自体から供述の内容となっている事実を推認するものではありませんから、伝聞法則の潜脱には当たりません。
      こちらのQ&Aも参考にして頂けると思います。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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