加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

伝聞法則 検察官請求証拠を被告人の弁解供述の信用性を弾劾する証拠として使用することはあるのか?

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検察官請求証拠を被告人の弁解供述の信用性を弾劾する証拠として使うことの可否


たまに、刑事訴訟法の伝聞の問題で、検察官請求証拠を被告人の弁解供述の信用性を弾劾するために使おうとする答案を目にします。

刑事訴訟法では、検察官が犯罪事実の存在について積極的に立証しない限り、「疑わしきは被告人の利益」の原則(=無罪推定の原則)が適用され、被告人は無罪となります。

そうすると、検察官としては、有罪判決を下してもらうためには、犯罪事実の存在について積極的に立証する必要があります。

そして、被告人の弁解供述の信用性の弾劾に成功したからといって、検察官立証が成功するわけではありません。

したがって、少なくとも司法試験・予備試験の論文試験では、検察官請求証拠を被告人の弁解供述の信用性を弾劾する証拠として使うことはないと考えられます。

少なくとも、司法試験・予備試験対策としては、そのように理解しておきましょう。

なお、研修所の刑事裁判起案では、有罪判決を導く際に、「検察官立証が成功していること⇒被告人の弁解供述が信用できないこと」という流れで論じます。

もっとも、これは、検察官立証が成功していなくても、被告人の弁解供述が信用できないのであれば被告人を有罪にすることができる、という趣旨ではありません。

検察官立証の成否に言及することなく、「被告人の弁解供述は信用できないから、被告人は有罪である」という趣旨の論述をすることのないよう、気を付けましょう。

 

平成17年旧司法試験第2問


以下では、平成17年旧司法試験第2問を使って説明いたします。

 問題文

放火事件で起訴された被告人甲は、捜査・公判を通じて、「自分は犯人ではない。犯行現場には行ったこともない。」と述べて犯行を否認していたが、起訴前に、テレビ局のイ ンタビューを受けたことがあり、当該インタビューにおいては 「放火があったとき、現場付近にいたことは確かだが、自分は犯人ではない。」と述べていた。捜査機関が、テレビ放映された当該インタビューをビデオテープに録画していたところ、検察官は、甲の犯行を立証するための証拠として、当該インタビューの内容を使用しようと考え、このビデオテープを証拠調べ請求した。裁判所は、このビデオテープを証拠として採用できるか。

 事案整理

被告事件:甲による放火

争  点:甲の犯人性

証拠構造:間接証拠型(検察官は、積極的間接事実の一つとして、「放火当時、甲が放火現場にいたこと」を主張)

認  否:「私は犯人ではない。放火現場に行ったことはない」

証  拠:「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述が録音・録画されたビデオテープ(テレビ放送されたインタビュー動画を捜査機関が録画したもの)

この事案で理論上考えられる推認過程は、以下の3つです。

①ビデオテープ(証拠)⇒「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(補助事実)⇒「自分は・・犯行現場には行ったこともない」旨の被告人の弁解供述の信用性を減殺

②ビデオテープ(証拠)⇒「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(間接事実)⇒「放火当時、甲が現場付近にいた」こと(間接事実)⇒甲の犯人性(主要事実)

③ビデオテープ(証拠)⇒「放火当時、甲が現場付近にいた」こと(間接事実)⇒甲の犯人性(主要事実)

本記事のメインテーマは①に関することですが、②の可否についても気になる方がいると思うので、②の可否についても説明いたします

①の推認過程

この事案では、「放火当時、甲が現場付近にいた」という積極的間接事実の存否について、ビデオテープ(証拠)における甲の供述と甲の罪状認否における弁解供述とが矛盾しています。

そのため、ある種の論点主義的な思考により弾劾証拠に引きずられ、検察官は、ビデオテープにより、甲の自己矛盾供述の存在(補助事実)を立証することで、甲の弁解供述の信用性を弾劾しようとしていると考えて、ビデオテープの要証事実を甲の供述の存在自体と捉えてしまう答案が、一定数あります。

しかし、上記の通り、甲の自己矛盾供述の存在を立証することで甲の弁解供述の信用性を弾劾したからといって、検察官立証が成功するわけではありません

しかも、ビデオテープを供述の信用性を減殺するための証拠として用いる事案であれば、弾劾証拠が出題された旧司法試験平成20年第2問・新司法試験平成29年第2問のように問題文に「・・証明力を争うために、証拠調べ請求した」旨の記述があるはずですが、本問では「甲の犯行を立証するための証拠として・・」とあります

したがって、①の推認過程を前提としてビデオテープの要証事実を『「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(補助事実)』と捉えることはできません。

②の推認過程

確かに、 「放火があったとき、現場付近にいたことは確かだ」という自らのアリバイを否定する嘘をつくことは不自然です(経験則)から、甲は「放火があったとき、現場付近にいた」からこそ上記の供述したのだという推論も成り立つ余地があります。

仮に、このような推認過程が経験則に適う合理的なものとして許容されるのであれば、㋐ビデオテープ(証拠)⇒㋑「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(間接事実)⇒㋒「放火当時、甲が現場付近にいた」こと(間接事実)⇒㋓甲の犯人性(主要事実)という推認過程を前提として、『「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(間接事実)』と捉えることができます。

しかし、②の推認過程のうち、㋑⇒㋒推論については、甲の知覚・記憶・表現・叙述に誤りがある場合には成り立たないようというように、甲の知覚・記憶・表現・叙述に誤りにまつわる反対仮説が多分に存在します。そのため、上記推論は、経験則に適う合理的なものであるとはいえません。

信用性テストを経ない供述証拠による不確かな推認による事実認定の誤りを防止するという伝聞法則の趣旨(これは、証拠⇒事実という推認過程に関するもの)は、要証事実設定のために推認過程を組み立てる場面(事実⇒事実という推認過程)にも拡張されます

そうすると、要証事実を設定する際に前提とすべき推認過程は経験則に適った合理的なものでなければならず、不確かな(弱い)推認過程を前提として要証事実を設定することは、伝聞法則の趣旨の潜脱として、禁止されることになります。②の推認過程を選択するということは、㋐⇒㋒⇒㋓という推認過程を前提としてビデオテープの要証事実を㋒と捉えることができるにもかかわらず、これだと伝聞法則の適用を受けることになってしまうため、非伝聞として伝聞法則の適用を免れるために便宜的に、㋐⇒㋒の間に㋑を介在させることで、㋐⇒㋑⇒㋒⇒㋓という不確かに推認過程を選択するということを意味します。脱法目的での迂回融資のようなイメージです。

したがって、㋐⇒㋑⇒㋒⇒㋓という推認過程が伝聞法則の趣旨に抵触するものとして禁止される結果、この推認過程を前提としてビデオテープの要証事実『「放火があったとき、現場付近にいた」旨の甲の供述の存在自体(補助事実)』と捉えることが禁止されます。

③の推認過程

ビデオテープ(証拠)⇒「放火当時、甲が現場付近にいた」こと(間接事実)⇒甲の犯人性(主要事実)という推認過程は、経験則に適う合理的なものです。

本事案では、③の推認過程を前提として、ビデオテープの要証事実を『「放火当時、甲が現場付近にいた」こと(間接事実)』と捉えることになります。

この要証事実との関係で、甲の公判廷外供述の内容の真実性が問題になるため、ビデオテープは伝聞証拠に当たります。

なお、証拠がビデオテープであるという点は、テレビ局によるインタビュー録画及び捜査機関による放送番組の録画という2段階の録画過程を経て作成されているという点も含めて、伝聞例外要件である原供述者甲の署名・押印(刑事訴訟法322条1項前段)の要否として論じることになります。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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