今回は、「結論の方向性」を判断するための読解のコツについて、平成28年司法試験民法設問2(3)を使って説明いたします。
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平成28年司法試験民法設問2(3)
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【事実】
16.~19 …略…
20.平成26年4月15日、Eは、Kから、返済期日を平成27年5月30日、利息を年15%、遅延損害金を年21.9%として、500万円を借り受け、LがEの債務を連帯保証する旨の契約書がE、K及びLの3人の間で作成された。当該契約書では、500万円は、平成26年5月31日に、KからEに交付されることになっていた。
21.しかし、Kは、…略… 平成26年5月31日の経過後も、500万円をEに交付しなかった。また、そのことは、Lには知らされなかった。
22.~24 …略…
25.平成27年6月1日、Kは、Lに対し、Eに500万円を交付していなかったが、平成26年4月15日付契約書があることを奇貨として、Lに連帯保証債務の履行を請求した。Lが直ちにEに照会したところ、Eは、間違えて、「事業はうまくいっておらず、Kに対する債務は利息を含め1円も支払っていない。」と説明した。LはEに対し、「仕方がないので連帯保証債務を履行する。」と述べた。
26.平成27年6月29日、Lは、Kに対し、連帯保証債務の履行として、合計584万円を支払った。584万円の内訳は、元本が500万円、利息が75万円、遅延損害金が9万円である(利息75万円=元本500万円×利率年15%×1年、遅延損害金9万円=元本500万円×利率年21.9%×30日/365日)。
27.平成27年7月末になったが、Eは、Hに対しても、Mに対しても、利息を含め1円も支払っていない。
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〔設問2〕 【事実】1から27までを前提として、以下の⑴から⑶までに答えなさい。
⑴ …略…
⑵ …略…
⑶ Lは、Eに対して584万円の支払を請求することができるか。Lの請求の根拠を説明し、その請求の当否を論じなさい。なお、不法行為に基づく請求については、検討を要しない。
司法試験・予備試験の論文試験では、多くの場合、結論自体はどちらでもよく、結論を導く過程が採点対象とされています。
例えば、憲法では、法令や処分の合憲性の結論は合憲・違憲のどちらでもよく、結論を導く過程である違憲審査の中身が採点対象とされています。
もっとも、稀に、結論の妥当性まで採点対象とされることがあります。
例えば、平成28年司法試験設問2(3)の出題趣旨・採点実感では、「LはEの保証委託を受けた結果としてKに対して584万円を支払っており、その支払の際にEに事前の通知をしているのだから、Kの無資力の危険をLが負うとするのは不合理である。単に付従性のみを論ずるのではなく、そうした結論の妥当性も視野に入れた上で、Lを保護する法律構成を見いだすことが、本問では期待されている。」(出題の趣旨)、「結論的にLを保護すべきであるとする答案は、民法に内在する価値基準が受験者の身に付いていることを示すものとして、積極的に評価することができる。」(採点実感)として、結論の妥当性まで採点対象にする旨が明示されています。
本問は、KがEに対して貸金を交付していないためKE間の貸金返還債務が発生していないにもかかわらず、受託保証人Lからの事前通知に対して債務者Eが主債務の不成立について説明しなかったため、Lが主債務の不成立を知らずに弁済したという事案において、LのKに対する事後求償(民法459条1項)等の可否が問われています。
保証人の求償権の成立には主債務の発生が必要であるところ、貸金の交付がないため要物契約としての金銭消費貸借契約(民法587条)は成立しませんし、書面による諾成的消費貸借契約(民法587条の2第1項)は成立するものの貸金返還債務は発生しませんから、主債務たる貸金返還債務が発生していないとして、求償請求は認められないのが原則です。
この原則的な結論を前提にすると、Lが弁済金相当額を取り戻すためには、Kに対して、弁済の無効を主張して、不当利得返還請求をすることになります。
そのため、LがKの無資力の危険を負担することになります。
反対に、LのEに対する求償請求を認めるという結論になるのであれば、EがKに対して、Kが受領した弁済金相当額について不当利得返還請求をすることになるため、EがKの無資力の危険を負担することになります。
本問では、LがKに対して弁済をする前に、Eに対して事前の通知をしたにもかかわらず、Eが貸金の交付を受けていないことをLに説明しなかった(それどころか、主債務の成立を前提とする説明をしている)ため、LはKに対して弁済をしてしまったのです。
そのため、弁済金相当額を回収する際にKの無資力の危険を負担するべきは、LではなくEである、という価値判断が働きます。
問題文では、こうした価値判断を出発点として、原則的な結論を修正することでLのEに対する事後求償等を認めさせることを意図して、敢えて事実25でヒントを与えてくれています。
したがって、主債務の不成立ゆえに事後求償は認められないという原則的な結論を説明した上で、上記の価値判断に基づき、事後求償等によりEから弁済金相当額を回収することを認めるための法律構成を示し、その法律構成を大前提とする当てはめをすることで、事後求償等が認められるという修正された結論を導くことになります。
現場思考問題の対処法という意味でも、この読解・思考のコツは身につけておきましょう。
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