伝聞法則における伝聞・非伝聞の区別の場面で、「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述の存在自体から甲の犯人性を推認するという推認過程を前提として、要証事実を『「甲がVを刺した」旨のWの供述の存在』と捉えることができるのかについて、説明いたします。
具体的には、甲のVに対する殺人罪を公訴事実とする被告事件において、甲の犯人性が争点になっている場合に、「甲がVを刺しているところを見た」旨のWの公判廷外供述が記載された供述書について、Wの供述調書(証拠)⇒Wの発言の存在自体(間接事実)⇒甲がVを刺した犯人である(主要事実)という推認過程を前提として、要証事実を『「甲がVを刺した」旨のWの供述の存在』と捉えることで、非伝聞とすることが許されるのかということです。
伝聞・非伝聞の区別を検討する過程では、立証趣旨に従って、当該証拠(書面等)をいかなる主要事実を証明するために(=証拠と主要事実の対応関係)どう使うのか(推認過程)を確定することで、当該推認過程における証拠の直接の立証事項を要証事実として把握することになります。
もっとも、要証事実を設定する際に前提とする推認過程は、経験則に適った合理的なものでなければいけません。
ここでは、信用性テストを経ない供述証拠による不確かな推認による事実認定の誤りを防止するという伝聞法則の趣旨(これは、証拠⇒事実という証明の過程に関するもの)が、要証事実設定のために推認過程を組み立てる場面(事実⇒事実という推認の過程)にも拡張されているわけです。これについては、古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版[23][24]の解説がとても参考になります。
確かに、Wの供述書(証拠)から、「甲がVを刺しているところを見た」旨のWの公判廷外供述の存在(間接事実)を証明することは可能です。また、Wは甲がVを刺しているところを実際に見たからこそ、「甲がVを刺しているところを見た」と発言しているのだという推論もあり得ますから、「甲がVを刺しているところを見た」旨のWの公判廷外供述の存在という間接事実には「甲がVを刺した犯人である」という主要事実を推認する力が全くないとまでは言い切れません。
しかし、Wは甲がVを刺しているところを実際に見たからこそ「甲がVを刺しているところを見た」と発言しているのだという推論については、見間違いである、Wには甲を陥れたい動機があるといった反対仮説が多分に存在するため、経験則に適う合理的な推論であると認めることは出来ません。
そして、信用性テストを経ない供述証拠による不確かな推認による事実認定の誤りを防止するという伝聞法則の趣旨(これは、証拠⇒事実という推認過程に関するもの)は、要証事実設定のために推認過程を組み立てる場面(事実⇒事実という推認過程)にも拡張されます。そうすると、要証事実を設定する際に前提とすべき推認過程は経験則に適った合理的なものでなければならず、不確かな(弱い)推認過程を前提として要証事実を設定することは、伝聞法則の趣旨の潜脱として、禁止されることになります。
「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述の存在自体から甲の犯人性を推認するという推認過程を前提として、要証事実を『「甲がVを刺した」旨のWの供述の存在』と捉えるということは、「甲がVを刺した」という公判廷外供述の内容たる事実を要証事実にすることができるにもかかわらず(この場合は、直接証拠型)、これだと伝聞法則の適用を受けることになってしまうため、非伝聞として伝聞法則の適用を免れるために便宜的に、証拠と主要事実との間に「主要事実を内容とする供述の存在自体」という間接事実を介在させることで、「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述(証拠)⇒「甲がVを刺したところを見た」旨のWの供述の存在(間接事実)⇒甲がVを刺した(主要事実)という不確かな推認過程を選択しているということです。脱法目的での迂回融資のようなイメージです。
このように、「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述(証拠)⇒「甲がVを刺したところを見た」旨のWの供述の存在(間接事実)⇒甲がVを刺した(主要事実)という不確かな推認過程が伝聞法則の趣旨に抵触するものとして禁止される結果、この推認過程を前提としてWの供述書の要証事実をWの供述の存在自体と捉えることも禁止されることになります。
残る推認過程は「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述(証拠)⇒甲がVを刺した(主要事実)という直接証拠型のものですから、Wの供述書の要証事実は、Wの供述の内容たる事実、すなわち「甲がVを刺した」という主要事実になります。この要証事実との関係では、Wの知覚・記憶・表現・叙述の正確性が問題となるため、要証事実との関係で公判廷外供述の内容の真実性が問題になるとして、Wの供述書が伝聞証拠に当たることになります。
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