加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和2年司法試験論文と司法試験過去問との関連性「民事訴訟法」 5位/50%

今回の記事では、令和2年司法試験「民事訴訟法」論文と司法試験過去問との関連性について説明いたします。

司法試験過去問との関連性は50%です。

平成29年から令和1年までの3年間は、司法試験過去問よりも旧司法試験過去問との関連性が強い出題が多かったのですが、令和2年司法試験「民事訴訟法」論文は司法試験過去問との関連性のほうが強いです。

また、分野・論点レベルでの再度の出題可能性に備えるためだけでなく、「司法試験特有の出題の角度」と「書くべき一般論の範囲」を学ぶ上でも司法試験過去問「民事訴訟法」は非常に重要であるといえます。

 

設問1「課題1」


設問1「課題1」では、「賃貸建物の明け渡しを受けたこと条件として敷金を返還することを命ずる条件付き給付判決」という意味での将来給付を命ずる判決を求める将来給付の訴えの請求適格が問われています。

条件付き給付判決という意味での将来給付を命ずる判決を求める将来給付の訴えの請求適格については、「被担保債権の弁済をすることを条件として、抵当権設定登記の抹消登記手続をすることを命ずる条件付き給付判決」という意味での将来給付を命ずる判決をすることの可否の一環として、平成22年司法試験設問4(2)でも出題されています。

 

設問1「課題2」


設問1「課題2」では、明渡時点で発生する具体的金額が確定された敷金返還請求権と明渡前から発生している条件付き権利としての敷金返還請求権との区別を意識しながら、条件付き権利としての敷金返還請求権の存在を確認対象とする確認の訴えの利益について検討することが求められています。

確認の訴えの利益については、平成25年司法試験設問1(遺言無効確認の訴え)と平成28年司法試験設問2(反訴としての確認の訴え)にも出題されていますが、いずれも本問とは問題の所在を異にするため、本問を解くうえであまり参考にならないと思います。

 

設問2


設問2では、①和解手続における当事者の発言内容が裁判所の事実認定の際の心証形成の資料に当たらないことと、②和解手続における当事者の発言内容を裁判所の事実認定の際の心証形成の資料とすることができるとすると、どのような問題が生ずるかということの2点が問われています。

現場思考要素の強い問題であり、直接参考になるような司法試験過去問は見当たりません。

もっとも、訴訟上の和解に関する現場思考問題が設問1~3を通じて問われた平成26年司法試験が何らかの参考になるかもしれません。例えば、②では、訴訟上の和解の機能等に遡って論じることになると思われるところ、このように②の論述の出発点として出てくる訴訟上の和解に関する一般論については平成26年司法試験(特に、設問2)でも問題となり得るという意味で、平成26年司法試験と少し関連していると思います。

それから、①・②は現場思考問題であるものの、①では裁判所が事実認定をする際の心証形成の資料が「口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果」である(247条)こと、②では訴訟上の和解の機能等といった、平均的受験生であれば当然に知っているであろう判例学説以前の基本的な教科書知識を出発点として、それを土台にして現場思考して論じることになるという意味で、「出題の角度」がこれまで司法試験過去問「民事訴訟法」で出題された現場思考問題と共通します。

特に、民事訴訟法224条3項が定める文書提出命令違反の効果に関する学説(転換説、軽減説、擬制説、心証説)の比較検討が問われた平成20年司法試験設問4(1)と、頭の使い方(=出題の角度)が非常に似ていると思います。

 

設問3「課題1」


設問1では、「本件訴訟が通常共同訴訟であれば、共同訴訟人独立の原則(39条)が適用されるため、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができる。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であれば、40条2項が適用されるため、XはY2に対する訴えのみを取り下げることができない」という問題意識の下で、通常共同訴訟と固有必要的共同訴訟の区別が問われています。

平成23年司法試験設問3でも、土地所有者NのL・Mに対する土地所有権に基づく建物収去土地明渡請求訴訟の係属中にL・Mが土地所有権の確認を求める中間確認の訴えを提起し、その後、Mだけが「本訴請求を認諾し、中間確認請求を放棄する」旨の陳述をしたという事案において、「本訴請求が通常共同訴訟であれば、共同訴訟人独立の原則が適用されるため、Mだけによる本訴請求の認諾はMとの関係でその効力を生じる。本件訴訟が固有必要的共同訴訟であれば、40条1項が適用されるため、Mによる本訴請求の認諾はMとの関係でもその効力を生じない」「中間確認請求が通常共同訴訟であれば、共同訴訟人独立の原則が適用されるため、Mだけによる請求の放棄はMとの関係でその効力を生じる。中間確認請求が固有必要的共同訴訟であれば、40条1項が適用されるため、Mによる請求の放棄はMとの関係でもその効力を生じない」という問題意識の下で、通常共同訴訟と固有必要的共同訴訟の区別が問われています。

しかも、本問における本件訴訟は、賃借人の共同相続人を共同被告とする賃貸借終了を原因とする建物明渡請求訴訟(訴訟物は債権的請求権)であり、平成23年司法試験設問3における本訴請求は、地上建物の所有者の共同相続人を共同被告とする土地所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求訴訟(訴訟物は物権的請求権)であり、両者は異なる訴訟類型に属するものの、不可分債務(民法430条、436条)という「実体法上の管理処分権の帰属態様」と固有必要的共同訴訟であると解するならば手続上の不経済と不安定を招来するおそれがあるという「訴訟政策的観点」の考慮・加味の仕方も共通します。つまり、後者の訴訟類型に関する判例理論(最二小判昭和43・3・15・百99)は前者の訴訟類型にも妥当します。この意味でも、本問は、平成23年司法試験設問3と共通します。

このように、設問3「課題1」は、平成23年司法試験設問3に酷似しているといえます。

 

設問3「課題2」


①通常共同訴訟人間の証拠共通の原則

設問3「課題2」では、「仮にXがY2に対する訴えのみを取り下げることができる」と仮定した上で、「第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日記の取調べの結果を、X・Y1間の訴訟における事実認定に用いてよいか」という大きな問いに答えるために、①「共同訴訟における証拠調べの効果」及び②「それが訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」について検討することが求められています。

「仮にXがY2に対する訴えのみを取り下げることができる」と仮定するということは、本件訴訟が共同訴訟人独立の原則(民事訴訟法39条)の適用を受ける通常共同訴訟であることを前提として、①及び②について検討するということを意味します。

そうすると、「第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日記の取調べの結果を、X・Y1間の訴訟における事実認定に用いてよいか」という大きな問いとの関係で問題となる①「共同訴訟における証拠調べの効果」とは、通常共同訴訟人間の証拠共通の原則を意味することになります。

通常共同訴訟人間の証拠共通の原則は、平成18年司法試験設問2で出題されていますから、設問3「課題2」のうち①は、平成18年司法試験設問2と共通します。

②現場思考問題の対処法

通常共同訴訟人間の証拠共通の原則を肯定する立場からは、②「共同訴訟における証拠調べの効果…が訴えの取下げによって影響を受けるかどうか」という問題について、Y1はY2が提出した本件日誌の取調べの結果により自己に有利な事実認定を受け得る地位を得ていたのだから、XがY2に対する訴えのみを取り下げたことによりY1の既得の地位が奪われるのは、X・Y1間の公平に反するという価値判断を踏まえて、XがY2に対する訴えのみを取り下げてもY1がいったん享受した本件日誌の取調べの結果は失われないという結論を導くための抽象論を展開することになります。

ここで大事なことは、上記の価値判断に基づく裸の利益衡量からダイレクトに結論を導くのではなく、法的三段論法に従った論述形式を守るために、上記の価値判断に従って結論を導くための抽象論を展開してから、結論を導くということです。

これについては、平成23年司法試験設問3の採点実感でも、「結論の具体的妥当性を追求するということは、妥当な結論を導くための理論構成を考えるということであって、個別的な事情から裸の利益衡量をして妥当と思われる結論を導くということではない」として、明言されています。

平成23年司法試験設問3で、結論の具体的妥当性を図ることを目的として原則的帰結を修正するために、裸の利益衡量からダイレクトに結論を修正するのではなく、結論を修正するための抽象論を展開してから結論を修正するということを訓練しておくと、本問「課題2」でも法的三段論法に従った論述形式を守って説得力のある論述をすることができると思います(もちろん、他年度、さらには他科目の過去問でも、こうした力を培うことができます)。

現場思考問題の対処の仕方が似ているという意味で、本問「課題2」は平成23年司法試験設問3との関連性を有するといえます。

 

以上が、令和2年司法試験「民事訴訟法」論文と司法試験過去問との関連性についてです。

民事訴訟法では、「分野・論点単位での再度の出題可能性に備える」、「司法試験特有の出題の角度」に慣れる、「書くべき一般論の範囲」を学ぶ上で、司法試験過去問を正しい方向性に従って分析することが非常に重要です。

これから司法試験過去問をやる方、司法試験過去問をやっているのに答案の水準が上がらない方などには、科目・分野ごとの「知識」だけでなく科目・分野ごと「読解・思考のコツ、書き方のルール」が集約された『秒速・過去問攻略講座2021』を受講することで、確実で効率的な過去問学習をして頂きたいと思っております。

 

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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