加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和2年司法試験論文と司法試験過去問との関連性「憲法」 2位/70%

今回の記事では、令和2年司法試験「憲法」論文と司法試験過去問との関連性について説明いたします。

司法試験過去問との関連性は70%です。

規制①と②に共通していること


  • 被侵害権利として取り上げるべき人権、規制ごとの規制目的、規制の仕組み(何のために、何を、どう規制するのか)、規制の問題点について、問題文で分かりやすく誘導してくれています。この傾向は、平成26年以降の司法試験に共通することです。誘導が親切である分、人権選択から目的手段審査による当てはめに至るまで、問題文の誘導にちゃんと従う必要があります。
  • 規制①と②いずれについても、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」という違憲審査の基本的な枠組みにより違憲審査することが予定されています。判断枠組みレベルのことで難しいことは問わず、「保障⇒制約⇒違憲審査基準の設定⇒当てはめ」という違憲審査の基本的な枠組みを使いこなすことができるかが重視されているという点も、これまでの司法試験過去問と共通しています。
  •  司法試験の設問の形式は、平成18年から平成29年までは三者間形式であり、平成30年から法律意見書形式に変更されました。令和2年司法試験でも、法律意見書形式が維持されています。もっとも、令和2年司法試験では、令和1年に比べて、設問の指示がシンプルになりました。指示の内容は、㋐法律家甲として規制①②の「憲法適合性」について意見を述べること(違憲である場合における修正案等は不要)、㋑「参考とすべき判例」にも言及すること、及び㋒「自己の見解と異なる立場」にも言及することの3点です。㋒については、「確かに~(異なる立場)、しかし~(自己の見解)」という形式で言及すればよく、「反論」という表現を用いる必要はないと思います。
  • ㋐「職業選択の自由」には選択した職業を継続する自由も含まれる、「居住、移転・・・の自由」の意義、「居住、移転・・・の自由」の3つの側面といった、人権の保障の内容・趣旨といった教科書知識、㋑違憲審査基準の定立・適用も含めて「違憲審査の基本的な枠組み」を正しく使いこなすことができること、㋒個別法の仕組みを把握する力があること、㋓問題文のヒントに食らいつき、違憲審査の基本的な枠組みに落とし込む形で問題文のヒントを法的に構成し、その内容を文章化して答案に反映するために必要とされる読解力・思考力・文章力という4点が極めて重要であり、これら4点で大差がつきます。判例・学説知識で大差がつくのではありません。こうした点も、これまでの司法試験と共通しています。これらのうち、特に㋓が重要であるという点は、問題文の誘導が親切になった平成26年以降の司法試験との共通性が強いです。


規制①


規制①は、全体的に平成26年司法試験との共通性は極めて強いす。

  • 会話文の最終段落では、規制①に関する問題点として、「これまで高速専業だった乗合バス事業者からは、生活路線バスに参入しないと高速路線バスの運行ができなくなる・・という意見も寄せられている」と書かれているため、規制①について、「これまで高速専業だった乗合バス事業者が高速路線バスの運行を継続する」という意味での職業継続の自由が問題になっていることが分かります。職業継続の自由は狭義の職業選択の自由・職業廃止の自由と並んで「職業選択の自由」として憲法22条1項により保障される権利であり、その侵害が問題になっているという点で、A県B市内の自然保護地域におけるタクシー運行の許可制を定める条例の憲法22条1項適合性が問題となった平成26年司法試験と共通します。
  • 平成26年司法試験では、選択対象となる「職業」の単位を「自然保護地域でタクシー事業を営むこと」というように狭く捉えるのではなく、「タクシー事業を営むこと、又はA県B市内でタクシー事業を営むこと」と広めに捉える場合には(「職業」の単位の捉え方については「別冊法学セミナー司法試験の問題と解説2014」16頁参照)、A県B市内の自然保護地域におけるタクシー運行の許可制はタクシー事業の遂行方法又はA県B市内におけるタクシー事業の遂行方法に対する制約にとどまり、狭義の職業選択の自由に対する制約に当たらないのではないかということが問題になります。令和2年司法試験の規制①でも、これまで高速専業だった乗合バス事業者も生活路線バスに参入すれば高速路線バスの運行を継続することができるのだから、高速路線バス事業の遂行方法について生活路線バスと並行することという条件が付されているにすぎないという意味で、職業遂行の自由に対する制約にとどまるのではないかという形で、職業継続の自由に対する制約の有無が問題となります。この点について、薬事法判決(最大判昭和50・4・30・百Ⅰ97)を前提として、会話文のヒントを使って、「実質的には職業継続の自由に対する制約的効果を有する」のではないかという観点から職業継続の自由に対する制約の有無を論じるという点で、平成26年司法試験と共通しています。
  • 令和2年司法試験の規制①と平成26年司法試験の許可制は、いずれも職業規制なのですから、薬事法判決を参考にして、主として規制の態様と目的を考慮して違憲審査基準を設定するという点でも共通します。
  • 平成26年司法試験の許可制は、「輸送の安全」、「自然保護地域の豊かな自然の保護」及び「観光振興を図ること」を目的とする複合目的規制であり、これらのうち「自然保護地域の豊かな自然の保護」と「観光振興を図ること」については、判例上その存在が認められている消極目的・積極目的・財政目的のいずれにも該当しないため、目的の性質を踏まえて裁判所による規制を支える立法事実の司法的把握可能性がどれだけあるのかを自力で判断することで、「規制の目的」に関する評価を下し、違憲審査基準の厳格度を決することになります。令和2年司法試験の規制①についても、その規制目的が消極目的・積極目的・財政目的のいずれにも該当しないため、目的の性質を踏まえて裁判所による規制を支える立法事実の司法的把握可能性がどれだけあるのかを自力で判断することで、「規制の目的」に関する評価を下し、違憲審査基準の厳格度を決することになります。この点においても、令和2年司法試験の規制①は平成26年司法試験と共通しています。
  • 平成26年司法試験の許可制では、条例の制定過程でA県B市内に営業所を構える既存のタクシー事業者の優遇・優先を図ったのではないかと窺われる事情あるため、A県B市内の既存のタクシー事業者の優遇・優先を「隠れた立法目的」とするものであり、不当な競争制限に当たるのではないか(立法目的の合憲性が否定されるのではないか)という現場思考論点も問題になっています。令和2年司法試験の規制①でも、地域における住民の移動手段である生活路線バスを確保するという究極目的を達成するために、既存の生活路線バスを運行する乗り合いバス事業者を優遇・優先することを中間目的として設定し、この中間目的を達成するための手段として高速路線バスの運行の事業主体の制限を定めているため、実は既存の生活路線バスを運行する乗り合いバス事業者を優遇・優先することを隠れた究極目的とする不当な競争制限なのではないか、という点が問題になると思います。そうすると、隠れた立法目的が問題になるという点でも、平成26年司法試験と共通します。
  • 目的手段審査では、上記の「隠れた立法目的」という点も含め、問題文のヒントを使い、目的・手段の双方について具体的に検討することになります。実質的関連性の基準を採用するのであれば、問題文のヒントを目的の重要性・手段適合性・手段必要性・手段相当性に結び付ける形で答案に散りばめて網羅的に摘示・評価することになります。こうしたことも、司法試験過去問と共通します。

  • このように、令和2年司法試験の規制①は、人権の選択から目的手段審査に至るまで、司法試験過去問と強く共通します。

規制②


  • 会話文の最終段落では、規制②に関する問題点として、「自家用車での移動が規制されることには批判の声もあります」と書かれているため、規制②については「自家用車での移動の自由」が問題になっていることが分かります。規制されている移動は、主として住所・居所の決定・変更を伴わない一時的な移動であるため、住所・居所の決定・変更を伴わない一時的な移動の自由を被侵害権利として把握することになると思われます。住所・居所の決定・変更を伴わない一時的な移動の自由が「居住、移転・・・の自由」として憲法22条1項により保障されるかという論点は、平成28年司法試験において、性犯罪者継続監視法に基づく禁止命令等の可能性を想定した先取り的な仮想論点にとどまるものとしてではあるものの、出題されています。
  • 目的手段審査では、問題文のヒントを目的・手段にそれぞれ結び付ける形で答案に散りばめて網羅的に摘示・評価することになるという点は、規制①と同様、司法試験過去問と共通します。

以上が、令和2年司法試験「憲法」論文と司法試験過去問との関連性についてです。

憲法では、人権・論点という単位での再度の出題可能性に備えるだけでなく、全年度又は大部分の年度で共通して問われていること(「規制①と②に共通していること」参照)をしっかりと身につけることが、論文対策として極めて重要です。これは、司法試験と予備試験の憲法論文に共通していえることです。

これから司法試験過去問をやる方、司法試験過去問をやっているのに答案の水準が上がらない方などには、『秒速・過去問攻略講座2021』を受講することで、分野・論点単位での知識だけでなく、全年度又は大部分の年度で共通して問われていることも身につけることで、憲法論文を得意科目にして頂ければと思います。

 

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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