加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

既判力の作用と既判力の主観的範囲の関係(平成28年司法試験民事訴訟法設問3)

お世話になっております。先生の秒速・過去問攻略講座2021を受講している者です。平成28年司法試験民事訴訟法設問3で質問があります。
先生は、模範解答においてXY間の前訴の既判力がZには拡張されないという前提に立ちつつ(課題①)、その訴訟の既判力が後訴であるYZ間の訴訟に作用すると示されていますが(課題②)、前訴と後訴の当事者が異なっており、しかも既判力が及ぶ関係に立たない者同士の間における前訴の既判力が後訴に作用するというのは、一般的な理解なのでしょうか?
今まで、ほとんどの事案で既判力が作用する場面は同一当事者間の事例が多かったのですが、平成28年司法試験設問3ではそうではないため、戸惑っております。前訴と後訴で訴訟物が同一、先決、矛盾関係に立ちさえすれば、前訴と後訴の当事者が違っていても既判力が作用するのかについて気になったため、ご回答いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

既判力の作用の有無(訴訟物どうしの関係)と既判力の主観的範囲(当事者どうしの関係)は、別次元の問題です。既判力が後訴に作用するが、後訴に作用する既判力は後訴の当事者には及ばない(拡張されない)という結論はあり得ます。

平成28年司法試験設問3は、権利能力なき社団Xが本件不動産についての総有権確認訴訟を抵当権設定登記名義人Yに対して提起するとともに、提訴非同調者たる構成員Zを被告に回しており、X勝訴判決が確定した後に、YがZを被告として抵当権の無効を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起したという事案に関するものです。

課題②では既判力の作用及び既判力の遮断効が問われているところ、前訴の訴訟物である本件不動産についてのXの総有権が、後訴において請求原因事実(抵当権設定契約時における本件不動産についてのZの所有権の存在)を基礎づけるという意味で、前提問題に位置づけられているため、先決関係を根拠として、前訴の既判力が後訴に作用します。

前訴の訴訟物たる権利関係の当事者と後訴の訴訟物たる権利関係の当事者が一致しなくても、先決関係(や矛盾関係)が認められることはあります。これらの関係が認められれば、既判力が後訴に作用します。その上で、後訴に作用する既判力が後訴の当事者に及ぶかという話が別途問題になります。

2021年04月06日
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コメント

  • アバター

    ご丁寧にご回答くださり、誠にありがとうございます。
    既判力の作用と、主観的範囲が違う問題だということは理解できました。
    しかし、既判力が作用すると、既判力の消極的作用として遮断効が認められることになると思いますが、この遮断効は前訴での手続保障があったから正当化されるものだと思います。しかし仮に本問のように前訴の既判力がZに及んでいないのであれば、Zに既判力の消極的作用を認めてしまうのは酷だと思うのですが、その点についてはどのように理解すればよろしいのでしょうか。お忙しいところを申し訳ありませんが、ご回答くださると幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

    • kato_admin

      既判力の「作用」と「主観的範囲」の話が、ごちゃ混ぜになっていると思います。確かに、既判力が後訴に「作用」すると、後訴において既判力の遮断効(消極的作用)が認められることになります。しかし、遮断効が「及ぶ」のは、既判力の主観的範囲に属する者たちだけですから、既判力の主観的範囲に属しないZ(さらには、その相手方当事者であるY)には既判力の遮断効は及びません。既判力の遮断効の話(後訴の当事者の主張のうち、いかなる主張が遮断されるか)が顕在化するのは、既判力の「作用」と「主観的範囲」の話をクリアした後です。
      既判力の「作用」では、既判力が後訴の「訴訟物」に及んでいるか(既判力と後訴訴訟物との関係)、既判力の「主観的範囲」では、既判力が後訴の訴訟物に作用するとして後訴の当事者を拘束するか(既判力と後訴当事者との関係)、既判力の「遮断効」では、既判力が作用する後訴においていかなる主張が遮断されるのか(既判力と後訴における主張の関係)が問題になっている、というイメージです。

  • アバター

    とても分かりやすいご説明をしてくださり、誠にありがとうございます。
    既判力の主観的範囲が認められて初めて遮断効の問題が顕在化することが分かりました。
    最後に一点だけお聞かせいただきたいことがあります。先生の模範解答7頁23行目〜8頁1行目で、Zの主張が既判力により遮断されないと書かれていると思うのですが、これは先生のご説明を前提にすると、主観的範囲の問題はクリアしたからこそ遮断効の問題に言及できるということになると思うのですが、本問では主観的範囲の問題は先生のご指摘通りクリア出来ていないように思います。
    そのため、遮断効の前提となる主観的範囲の問題について言及しないことが気になったのですが、この点につきましてはどのように理解すればよろしいでしょうか。お忙しい中大変恐縮ですが、ご回答いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

    • kato_admin

      ご指摘の通り、課題①でXY間訴訟(前訴)の既判力が後訴の当事者YZには及ばないと結論付けた場合には、課題②で既判力が後訴に作用することを認めても、ZとYは既判力による拘束を受けない以上、Zの主張と既判力により確定されている法律関係を比較するまでもなく(Zの主張が既判力が生じている判断と矛盾するかどうかを検討するまでもなく)、Zの主張は既判力により遮断されないことになります。
      もっとも、課題②では、会話文166~167における「仮に前訴判決の既判力がZに及ぶことになるとしても」という仮定して検討することになりますから、課題①で主観的範囲の問題がクリアされていることを前提として論じることになります。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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