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同時傷害の特例(刑法207条)に関する最高裁平成28年決定から導かれる論点

秒速・総まくり2021「刑法」のテキストでは、「2人以上の暴行のいずれかと死亡との間に因果関係が肯定された場合と同時傷害の特例の適用の可否」について判断した最高裁決定平成28年3月24日(H28重判6)を引用して、「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間の因果関係が肯定される場合に207条を適用するできるか」という論点が論じられています。
しかし、本決定では、「暴行」と「死亡」の因果関係が一方との間で肯定される場合については同時傷害の特例を認める旨、記載がある一方で、傷害の場合については明示されていないのと思います。調査官解説や
「平成28年度重要判例開解説」事件6解説(高橋則夫)でも「暴行」と「死亡」の因果関係が一方との間で肯定される場合「暴行」と「死亡」の関係を論じているだけであり、「暴行」と「傷害」の因果関係が一方的に肯定される場合」という論点は明示されていないのではないかと思います。
どうして、最高裁平成28年決定から、「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間の因果関係が肯定される場合に207条を適用するできるか」という論点が導き出されて、肯定されるのかについて、お聞きしたいです。

確かに、最高裁平成28年決定は、「2人以上の暴行のいずれかと死亡との間に因果関係が肯定される場合」における刑法207条の適用の可否について明示的に言及するにとどまり、「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間に因果関係が肯定される場合」における刑法207条の適用の可否については明示的に言及していません。

しかし、暴行による傷害致死の事案では、暴行と死亡との間に死因となった傷害が介在しているため、傷害致死罪に刑法207条を適用する前提として、死亡結果の原因である傷害について刑法207条の適用要件を満たす必要があります。

したがって、「2人以上の暴行のいずれかと死亡との間に因果関係が肯定される場合」における刑法207条の適用を肯定することは、「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間に因果関係が肯定される場合」における刑法207条の適用を肯定することを含意していると考えられます。

「平成28年度重要判例開解説」事件6解説(高橋則夫)の3の2段落目における「本決定の意義は、いずれの暴行が傷害(本血種)を生じさせたのか不明であれば足りるとしたことにあり、「傷害を生じさせた」者が不明である以上、207条の適用が肯定される帰結を導いた点にある」という記述も、最高裁平成28年決定の判示が「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間に因果関係が肯定される場合」における刑法207条の適用が肯定されることを含意していることを前提にしたものであると思われます。

「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間に因果関係が肯定される場合」にも刑法207条の適用が肯定されることについて明示的に言及した最高裁決定令和2年9月30日も、最高裁平成28年決定を参照した上で刑法207条の適用を肯定しています。

なお、刑法207条に関する最高裁決定令和2年9月30日については、秒速講座受講者様向けの「令和2年最新重要判例の補講」で解説しております。

2020年12月01日
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コメント

  • アバター

    令和2年決定及びそれをモデルにした補講の事例問題で、右第6肋骨骨折については、先行者に因果関係が認められるのに、後行者に同時傷害の特例が適用されているので、「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間の因果関係が肯定される場合に207条が肯定されるか」という論点が肯定されているのだなと思います。
    この論点は、「承継的共同正犯の事案においても207条が適用されるのか」という論点に吸収されていて、明示されてはいないということだと理解しました。(双方の論点の問題意識は同じ)。

    令和2年決定では、右側頭部切創に関しては、先行者の暴行から生じたもので、後行者に同時傷害の特例が適用される余地がないとの解説をいただきました。
    「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間の因果関係が肯定される場合に207条が肯定されるか」という論点は、傷害に関して、ある者の暴行との間に因果関係が肯定されるが、もう一人の暴行との間で因果関係が「不明」な場合に顕在化するとの理解でよろしいでしょうか?(ある者の暴行により傷害が発生したと因果関係が肯定される一方、もう一人の暴行と傷害との間に因果関係がない場合には207条の適用の余地がなく、この論点も当然に出てこない)。

    • kato_admin

      まず、①「2人以上の暴行のいずれかと傷害との間の因果関係が肯定される場合に207条が肯定されるか」という論点と②「承継的共同正犯の事案においても207条が適用されるのか」という論点とでは、ご指摘の通り、問題意識が同じです。いずれも、「傷害結果について責任を負う者がいるのにもかかわらず、刑法207条を適用しても良いのか。この場合にまで刑法207条を適用することは同条の趣旨を逸脱するのではないか」という問題意識に基づく論点です。

      次に、①の論点は、「傷害に関して、ある者の暴行との間に因果関係が肯定されるが、もう一人の暴行との間で因果関係が「不明」な場合」に顕在化するはずです。自己の暴行と傷害との間における因果関係の不存在を立証した者については刑法207条の適用による傷害罪の成立が否定されるからです(総まくり2021テキスト160頁・ウ)。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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