加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の関係

判例上、公務執行妨害罪における「公務」には一切の公務が含まれると解されているにもかかわらず、短答の解説でも、強制力を行使する権力的公務ではないから威力業務妨害罪が成立するといった記載がされていることに腑に落ちません。強制力を行使する権力的公務以外の公務であれば公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の双方の客体に当たるために、公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の二罪が成立し、両者は観念的競合(54条1項前段)として処理されるのではないでしょうか。

判例は、公務執行妨害罪における「公務」について、「ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる」と解しています(最一小判昭和53・6・29)。他方で、判例は、威力業務妨害罪における「業務」について、強制力を行使する権力的公務以外の公務が含まれると解しています(最一小決昭和62・3・12)。そうすると、強制力を行使する権力的公務以外の公務については、公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の双方で保護されます。したがって、行為者が権力的公務以外の公務に従事する公務員に対して「暴行又は脅迫」を行い、これが「威力」にも当たるという場合には、公務執行妨害罪と威力業務妨害罪の二罪が成立し、科刑上、観念的競合として処理されます(大塚裕史「基本刑法Ⅱ」第2版112~113頁、高橋則夫「刑法各論」第2版190頁)。だからこそ、公務執行妨害罪の「公務」にはすべての公務が含まれるとする見解には、公務に二重の保護を与えることには合理性がないとの批判があるわけです(西田典之「刑法各論」第3版446頁)。

罪数処理については、法条競合(特別関係)として公務執行妨害罪一罪が成立するとの見解もありますが(大塚裕史「基本刑法Ⅱ」第2版112~113頁、高橋則夫「刑法各論」第2版190頁)、この見解だと厳密には威力業務妨害罪が成立しないことになってします。短答試験では、おそらく公務執行妨害罪のみならず威力業務妨害罪も「成立する」ということを前提とした出題がされると思われるため、観念的競合として処理されるとする見解で覚えておいたほうがいいと思います。

2020年09月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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