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不実の登記簿上の取締役について、908条2項類推適用により対会社責任(423条1項)を肯定することができるか

平成26年司法試験設問2では、不実の登記簿上の取締役であるEが取締役会の承認を得ることなく甲社の代表取締役としてHから2億円を借り入れたという事案において、本件借入れの効果が甲社に帰属するかどうかを検討する過程で、908条2項の適用により貸主Hとの関係でEを甲社の代表取締役であると擬制することができるかが問題となります。そこで思ったのですが、不実の登記簿上の取締役であるEが取締役会の承認を得ることなく甲社の代表取締役として、Hから借り入れた2億円を乙社に対して貸し付けたところ、貸付金を乙社から回収できないことが確実になったことについてのD・Eの対会社責任(423条1項)が問われている設問3において、不実の登記簿上の取締役の対第三者責任(429条1項)に関する908条2項類推適用説を使ってEの対会社責任(423条1項)を肯定することは出来るのでしょうか。

確かに、判例は、Eのように適法な選任手続を経ない登記簿上の取締役について、「その不実の登記事項が株式会社の取締役への就任であり、かつ、その就任の登記につき取締役とされた本人が承諾を与えたのであれば、同人もまた不実の登記の出現に加功したものというべく、したがつて、同人に対する関係においても、当該事項の登記を申請した商人に対する関係におけると同様、善意の第三者を保護する必要があるから、同条の規定を類推適用して、取締役として就任の登記をされた当該本人も、同人に故意または過失があるかぎり、当該登記事項の不実なことをもつて善意の第三者に対抗することができないものと解するのを相当とする。」として、旧商法14条の類推適用により旧商法266条の3第1項に基づく取締役の対第三者責任を肯定しています。この旧商法下における判例理論の射程は、会社法908条2項類推適用による会社法429条1項に基づく取締役の対第三者責任にも及びます。

しかし、登記簿上の取締役に908条2項を類推適用するのは、不実登記に対する第三者の信頼を問題とし得る対第三者責任(429条1項)の場面だけですから、第三者の信頼が問題とならない対会社責任(423条1項)の場面では、908条2項を類推適用することで登記簿上の取締役が423条所定の「取締役」に当たると解することはできません。

したがって、不実の登記簿上の取締役について、908条2項の類推適用により対会社責任(423条1項)を肯定することは出来ません。本事例におけるEについては、事実上の取締役理論(423条1項類推適用)により対会社責任を検討することになります(平成26年司法試験設問3・出題趣旨)。

2020年09月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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