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業務上占有者と非占有者とが横領の共同遂行について合意し、窃盗罪を実現した場合における、非占有者の罪責の処理について

平成27年司法試験では、甲が、新薬の書類について業務上の占有を有していた時点で、非占有者乙との間で、新薬の書類を会社から持ち出すことについて合意し、その後、新薬の書類の書類について業務上の占有を失った時点で会社から新薬の書類を持ち出すことでこれを窃取しています。甲には窃盗罪が成立する一方で、乙には窃盗罪と単純横領罪のいずれの共同正犯が成立するのでしょうか。非身分者である乙には業務上横領罪の認識を認めることができないと考えるのであれば、やわらかな部分的犯罪共同説からは、甲と乙は単純横領罪について共謀したことになり、乙には単純横領罪が成立することになると思います。これに対し、非身分者である乙にも業務上横領罪の認識を認めることができると考えるのであれば、甲と乙は業務上横領罪について共謀し、窃盗罪が実現されたとして、窃盗罪の共同正犯が成立することになると思います。

業務上占有者と非占有者とが横領の共同遂行について合意した場合における非占有者の認識については、業務上横領罪の認識を認める見解と、単純横領罪の認識を認める見解とがあります。平成27年司法試験の出題趣旨・採点実感では、「本件の錯誤は、構成要件を異にするいわゆる抽象的事実の錯誤であるから、このような錯誤の場合にどのように処理するか、故意責任の本質について触れて一般論を簡潔に示した上、業務上横領罪と窃盗罪との関係を論じることになる。」(出題趣旨)、「業務上横領罪と窃盗罪との間に重なり合いが認められた場合には軽い罪の限度での重なり合いを認めることとなろうが、業務上横領罪と窃盗罪とは懲役刑については同一の法定刑が定められているものの、窃盗罪には罰金刑が選択刑として規定されていることを踏まえ、そのいずれが軽い罪に当たるのか述べることが求められる。」(採点実感)というように、業務上横領罪の認識を認める見解を前提とした説明がある一方で、「甲が業務上横領罪を犯した場合、刑法65条の規定によって、乙には単純横領罪が成立するか、少なくとも同罪で科刑されることとなるので、異なる構成要件間の重なり合いを論ずるに当たって、業務上横領罪と窃盗罪の比較ではなく、単純横領罪と窃盗罪を比較するという考え方もあり得るであろう。いずれにしても,自己が取る結論を筋立てて論ずることが求められる。」として単純横領罪の認識を認める見解で書くことも許容されています。もっとも、書きぶりからして、業務上横領罪の認識を認める見解に従った処理を解答の本筋として想定していると思われます。

業務上横領罪の認識を認める見解に立つ場合、甲乙間には意思連絡の時点では罪名レベルでの認識のずれがなかったことになります。したがって、本件については、共同正犯の抽象的事実の錯誤の事例うち、「謀議時点では共同者間の認識にずれがなく、謀議後、共同者の一部が謀議と異なる犯罪を実行したことにより、事後的に共同者間の認識が罪名レベルでずれるに至った場合」として処理されることになります。業務上横領罪の共謀とそれに基づく窃盗罪の実行を認定した後に、「実現された軽い罪に対応する構成要件的故意の成否」として抽象的事実の錯誤の論点を論じます(ここでは、実現された犯罪と乙個人との認識のずれを問題にしています)。ソフトな構成要件的付合説からは、乙に窃盗罪の故意が認められることになります。共同正犯の抽象的事実の錯誤の事例のうち、「謀議後に共同者間の認識が罪名レベルでずれるに至った場合」については、通常、検討の最後に「罪名レベルで故意の内容が異なる者どうしに共同正犯が成立するか」という問題意識に基づく共同正犯の罪名従属性を論じることになりますが、平成27年司法試験の事案では論じません。甲には窃盗時点では窃盗の故意があり、乙にもソフトな構成要件的付合説からは窃盗罪の故意が認められるため、甲乙間における罪名レベルでの故意のずれが解消されているからです。

単純横領罪の認識を認める見解からは、甲乙間には意思連絡の時点から罪名レベルでの認識のずれがあったことになります。したがって、本件については、共同正犯の抽象的事実の錯誤の事例うち、「謀議時点から共同者間の認識が罪名レベルでずれている場合」として処理されることになります。このように、「謀議時点から共同者間の認識が罪名レベルでずれている場合」には、共同正犯の成否の検討過程にける出発点に位置づけられる「共謀」の成否・内容というところで、共同正犯の罪名従属性の論点が顕在化することになります。やわらかな部分的犯罪共同説からは、甲乙間に単純横領罪についての共謀が成立することになりますから、この時点で、乙に共同正犯が成立するとしてもその範囲は単純横領罪に限定されるということが確定します(部分的犯罪共同説からは、共同正犯の成立範囲が共謀した罪名に限定されるため)。そして、「謀議時点から共同者間の認識が罪名レベルでずれている場合」については、共同正犯の罪名従属性の論点が抽象的事実の錯誤の論点を包摂することになるため、抽象的事実の錯誤の論点は顕在化しません(詳細につき、大塚裕史「基本刑法Ⅰ」第3版381~382頁)。したがって、抽象的事実の錯誤に関する構成要件的付合説を論じるまでもなく、乙には65条1項の適用により単純横領罪の共同正犯が成立することになります。なお、65条1項2項の意味と、65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれるという2の論点にも言及する必要があります。

2020年09月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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