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詐欺罪における財産的損害の位置づけ

詐欺罪において、財産的損害について形式的個別財産説と実質的個別財産説の学説対立がありますが、これは、詐欺罪の成立要件のどこで検討するべきでしょうか。そもそも、財産的損害は、欺罔行為、錯誤、錯誤に基づく処分行為により財物・利益の移転という条文上の要件から独立した要件なのでしょうか。

詐欺罪における財産的損害については、①詐欺罪における財産的損害の内容は、「欺」罔行為のところで、法益関係的錯誤の対象事項(判例でいう「交付の判断の基礎となる重要な事項」)の解釈に取り込まれる形で「欺」罔行為の要件に吸収されているとして、書かれざる構成要件要素として独立の要件に位置づけることを否定する見解(山口厚「刑法各論」第2版267頁、山口厚「新判例から見た刑法」第2版292~297頁)と、②書かれざる構成要件要素として独立の要件に位置づける見解(高橋則夫「刑法各論」第2版323頁)があります。著者によって判例の立場の理解について対立があるものの、山口厚「新判例から見た刑法」第2版295頁では、①が判例の立場であると説明されています。

①は、法文上は財産的損害が独立要件にされていないこと等を理由として財産的損害を詐欺罪の独立要件とすることを否定した上で、欺罔行為は「交付の判断の基礎となる重要な事項」に関する錯誤の惹起に向けられていることを要するとして、詐欺罪の法益侵害性を欺罔行為に属する問題に位置づけるわけです。つまり、②では詐欺罪の法益侵害性を財産的損害という独立要件を設ける形で直接的に問題にするのに対し、①では詐欺罪の法益侵害性を「欺」く対象の重要性という形で間接的に問題にするにとどまるわけです。

②の見解でも、欺罔行為の対象事項を「交付の判断の基礎となる重要な事項」に限定しないというわけではありません。理論上はおかしいと思いますが、②の見解では、欺罔行為の対象事項を「交付の判断の基礎となる重要な事項」に限定するとともに、財産的損害を独立の要件に位置づけることにより、詐欺罪の成立範囲を画定しようとしている、と理解しておきましょう。

論文試験では、原則として①の見解に従い、形式的個別財産説と実質的個別財産説の対立が顕在化する事案のうち両説の対立を「欺」罔行為では論じにくい場合に限って②の見解を使う、という整理で良いと思います。

なお、交付罪のうち恐喝罪については、詐欺罪のように財産的損害の内容を実行行為たる「恐喝」の要件に吸収されることは困難であるため、財産的損害を書かれざる構成要件要素として独立の要件に位置づけざるを得ないと思います。

2020年09月13日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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