加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

0

振り込め詐欺と還付金詐欺について成立する財産犯の種類

振り込め詐欺の事案では、形式的には預金債権という利益を取得することになるものの、自己の口座に振り込まれた金銭を自由に払い戻せる状態になるのだから、金銭の占有を取得したのと同視しうるとして、1項詐欺罪の成立が認められています(判例)。これに対し、還付金詐欺の事案では、税金還付等に必要な手続を装って被害者にATMを操作させ、口座間送金により自己の口座に金銭を振り込ませるのだから、素直に考えれば、被害者を利用した窃盗罪の間接正犯が成立することになると思うのですが、電子計算機使用詐欺罪が成立するとされています。

振り込め詐欺の事案については、1項詐欺罪説と2項詐欺罪説とが対立しており、判例は1項詐欺罪説に立っています(大判昭和2・3・15)。犯人は、自己の管理する銀行口座に金銭を振り込ませることで、その金額の預金を自由に払い戻せる状態になるのだから、犯人と被害者との間で現実に「財物」たる現金の授受(占有移転)があったのと同視できるというのが、その理由です(大塚裕史「基本刑法Ⅱ」第2版288頁)。これについては、松澤伸教授の論説が参考になると思います(「論説  振込め詐欺を巡る諸問題  松澤伸」)。

これに対し、還付金詐欺について、大阪高判平成28・7・13では、電子計算機使用詐欺罪(未遂)の成立が認められています。電子計算機使用詐欺罪を含む詐欺罪(246、246条の2、248条)は、法定刑が「10年以下の懲役」とされており、選択刑として「罰金」が規定されている窃盗罪(235条)よりも重い犯罪であると理解されています。そのため、両罪は法条競合の関係に立ち、詐欺罪の構成要件該当性が認められる行為については、詐欺罪が優先的に成立することになるため、仮に窃盗罪(の間接正犯)の構成要件に該当するとしても、窃盗罪は成立しません(このように理解しないと、相手方の処分行為を要する詐欺罪・恐喝罪については、常に、相手方(被害者又は第三者)の行為を利用した窃盗罪の間接正犯も成立するという、おかしなことになってしまいます)。したがって、上記裁判例における還付金詐欺に関する行為が電子計算機使用詐欺罪の構成要件に該当する以上、窃盗罪の成立が排斥されることになります。

2020年09月11日
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ