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未遂犯の成立要件としての因果関係

平成30年司法試験刑法の採点実感では、「他方で、未遂犯であるにもかかわらず、因果関係について、しかも、どの「結果」との間の関係かも曖昧なままに長々と論じている答案が多数あった。これらは、論証パターンを無自覚に書き出したものと思われるが、仮に未遂犯においても結果の発生を必要とする見解に立つのであれば、殺人未遂罪が問われている本問では、甲の不作為と乙が死亡する危険との間の因果関係を検討すべきであった。」とあります。私は、未遂犯の成立要件は「実行に着手」することだけであり、結果発生は不要であると理解していました。上記の採点実感における「甲の不作為と乙が死亡する危険との間の因果関係」とは、何を意味しているのでしょうか。

未遂犯の成立要件については、①㋐「犯罪の実行に着手」したことと、㋑構成要件的結果が発生しなかったことだけで足りるとする見解のほか、②「行為自体の危険」と「結果としての危険」を区別した上で、㋐「犯罪の実行に着手」したこと、㋑構成要件的結果に至る具体的危険が発生したこと、及び㋒構成要件的結果が発生しなかったことと整理する見解もあります(高橋則夫「刑法総論」386頁)。

②の見解からは、未遂犯の成立には、「犯罪の実行に着手」したことにより構成要件的結果に至る具体的危険が発生したこと(㋑)という意味で、因果関係が必要となります。

平成30年司法試験刑法の採点実感で「仮に未遂犯においても結果の発生を必要とする見解に立つのであれば、殺人未遂罪が問われている本問では、甲の不作為と乙が死亡する危険との間の因果関係を検討すべきであった。」とあるのは、②の見解に立つのであれば、㋐としての「行為自体の危険」に言及するだけでなく、㋑「犯罪の実行に着手」したことと「結果としての危険」との間の因果関係についても言及する必要がある、ということを意味しています。

2020年09月11日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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