加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成18年司法試験において、P社がQ社に約1/5のディスカウントをしてスポーツ事業部門を譲渡したことには、120条2項後段の推定規定の適用を介して利益供与が成立するのではないか

平成18年司法試験設問では、P社が、スポーツ事業部門の客観的価値が50億円を下回らないものであったにもかかわらず、Q社に対して、10億円で譲渡しています。Q社がP社の議決権総数の40%に当たるP社株式を保有していることも踏まえると、本件事業譲渡は、「株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社・・の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないとき」として「株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定される」(120条2項後段)ことにより、利益供与(120条1項)に当たるのではないでしょうか。

仮に、本件事業譲渡は120条2項後段の推定規定の適用を介して利益供与に該当するのであれば、設問2では、「会社法上の問題点」として、①利益供与に当たる本件事業譲渡を可決する株主総会特別決議には決議内容の法令違反があるとして無効原因が認められるということを、適法な株主総会特別決議を経ない事業譲渡の効力という論点の前提として論じることになるとともに、②Q社に対する120条3項に基づく返還請求、取締役に対する120条4項に基づく支払請求、③利益供与という法令違反を理由とする任務懈怠に基づく損害賠償請求(423条1項)も論じることになります。

もっとも、問題文では、本件事業譲渡に至った事情として、「Q社はかねてP社のスポーツ事業部門の買収に関心を有して」いた、「P社は業績が思わしくなく、特にスポーツ事業部門が不振であったため、P社の取締役会においては、ホテル事業に傾注して業績の立て直しを図るべきであり、スポーツ事業部門をQ社に譲渡することに賛成の意見が多数を占めた。」ということが記載されていますから、仮に120条2項後段の推定規定が適用されるとしても、「株主の権利の行使に関し」てなされたことの推定が覆されることは明らかです。しかも、約1/5のディスカウントは競業避止義務排除条項も考慮したものであると思われるため、P社「の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないとき」に該当しないとして、120条2項後段の適用が否定される可能性もそれなりにあります。したがって、利益供与の成立は認められないと思います。平成18年司法試験の出題趣旨・ヒアリングでも利益供与については言及されていない上、「株主の権利の行使に関し」てなされたものでないことを明確に示す事情が問題文に分かりやすく書かれていることからすると、司法試験委員会としては、本問で利益供与に言及することは解答筋として想定していないと思います。なので、仮に論じるとしても、軽く言及するにとどめるべきです。

2020年09月09日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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