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会社が取締役を株式引受人として有利発行をすることは、直接利益相反取引に当たるか

会社が取締役を株式引受人として有利発行をすることは、直接利益相反取引に当たるのでしょうか。

例えば、甲社が、甲社取締役Aを株式引受人として有利発行をした場合(払込金額を時価10万円の1/2である5万円として、100株発行した場合)、形式的には、「株式会社」甲社の「取締役」Aが「自己・・のために」「株式会社」甲社と「取引」する場合として、直接利益相反取引(356条1項2号)に当たりそうです。

しかし、株式発行は経済的出捐を伴わない資金調達手段ですから、上記の有利発行では、時価1000万円の不動産を500万円で売却する廉価売買と異なり、会社が1000万円の経済的出捐を伴う一方でその対価として500万円しか利得することができないという利益状況にはなりません。

有利発行により経済的不利益を被るのは、会社ではなく、株式の経済的価値が希釈される既存株主です。有利発行では、株式の経済的利益が既存株主から新株主に移転します。例えば、株式の経済的価値の算定方法について純資産額方式(純資産額÷発行済株式総数=1株あたりの経済的価値)を用いた場合、甲社が純資産額1000万円・発行済株式総数100株という状態で上記の有利発行をした場合、1株あたりの経済的価値が1万円(1000万円÷100株)から7500円(1500万円÷200株)まで低下することになるため、1株当たり2500円分の経済的不利益が生じるという既存株主の犠牲において引受人Aが1株当たり2500円の経済的利益を得ることになります(株式発行後に時価が7500円になる株式を5000円で取得しているため)。このように、有利発行は、既存株主と引受人(取締役A)との間における株式の経済的価値についての利益対立問題であり、会社と新株主(取締役A)との間における利害対立問題ではありません。そうすると、有利発行は、類型的にみて引受人たる取締役と会社との間の利益衝突がなく、会社に損害が生じ得ない行為であるとして、356条1項2号でいう「取引」に当たらないことになります。

2020年09月09日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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