加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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目的手段審査における立法事実の使い方

令和1年司法試験の憲法で、「20XX年、我が国においても、甲県の化学工場の爆発事故の際に、「周囲の環境汚染により水源となる湖が汚染されて、近隣の県にも飲料水が供給できなくなる。」という虚偽のニュースがSNS上で流布され、複数の県において、飲料水を求めてスーパーマーケットその他の店舗に住民が殺到して大きな混乱を招くこととなった。」という立法措置①に関する立法事実について、手段適合性の当てはめにおいて、虚偽表現が社会的混乱をもたらすおそれを根拠づける事実として検討しようと思いました。これまでは、手段適合性の当てはめで論じてきたからです。しかし、試験直前に受けた全国模試において、目的審査の段階で立法事実による裏付けを論じるといった趣旨の解説に接し、リスク回避の観点から、目的審査の段階で上記の立法事実を使いました。どちらの構成が正しいのでしょうか。加藤先生のご意見を伺えたら嬉しいです。宜しくお願い致します

令和1年司法試験の立法措置①に関する立法事実については、目的審査で使う構成と、手段適合性の審査で使う構成、どちらもあり得ます。厳密には、本事例では、目的審査と手段適合性の審査の双方において、ご指摘の立法事実を使うことになると考えております。

厳格審査の基準・中間審査の基準では、目的・手段の双方につき、立法事実を根拠とした心証形成が必要とされます。立法事実を根拠とした心証形成という点における両者の違いは、立法事実として要求される客観性の程度です。例えば、有害図書規制の憲法21条1項適合性等が問題になった岐阜県青少年保護育成条例事件(最小三判平成元・9・19・百Ⅰ50)では、手段適合性の審査において、「有害図書が・・青少年の健全な育成に有害であるという」因果関係を裏付ける立法事実として、「科学的証明」までは不要であり、「社会共通の認識」で足りるとしています。同事件の伊藤正己裁判補足意見によれば、最高裁が「社会共通の認識」をもって立法事実ありとしたのは、「ある表現が受け手として青少年にむけられる場合には、成人に対する表現の規制の場合のように、その制約の憲法適合性について厳格な基準が適用されないものと解するのが相当である」と考え、違憲審査基準の厳格度を通常よりも下げたからであると理解されています(おそらく、本来であれば厳格審査の基準が適用されるところを、中間審査の基準にまで下げた、と理解することになります。)。

以上を前提として、目的審査における使い方から説明します。立法措置①の目的は、「公共利害関係事実について虚偽表現を流布すること」によりもたらされるであろう「社会的混乱」を防止することにあります(1条)。このような目的が必要不可欠であるといえるか・重要であるといえるかについて判断をする前提として、ここでいう「社会的混乱」の内容・規模を明らかにする必要があります。仮に、「社会的混乱」の内容・規模が明らかにならないのであれば、目的が抽象的であるとして目的の必要不可欠性や重要性が否定されますし、「社会的混乱」の内容・規模が明らかになってもそれがたいした混乱でないのなら、やはり、目的の必要不可欠性や重要性が否定されます。そして、厳格審査の基準・中間審査の基準では、立法事実を根拠とする心証形成が必要とされるため、「社会的混乱」はこういった内容・規模のものであるということについて、観念上の想定として認められるのでは足りず、立法事実を根拠として認められる必要があります。そこで、立法措置①に関する20XX年の事件を根拠として「社会的混乱」の規模・内容を明らかにしたうえで、これくらいの重大な混乱を防止しようとしているのであるから、目的は必要不可欠である・重要である、と説明することになります。

手段適合性における使い方は、以下の通りです。手段適合性が認められるためには、㋐規制対象が立法目的にとって有害であるという因果関係と、㋑当該規制手段が規制対象による立法目的の阻害を阻止するという効果を有することが認められる必要があります。立法事実による裏付けは㋐で問題になります。つまり、規制対象である「公共利害関係事実について虚偽表現を流布すること」が「社会的混乱」をもたらすおそれがあるという因果関係を欠くのであれば、㋐を欠くとして手段適合性が否定されることになります。そして、厳格審査の基準・中間審査の基準では、立法事実を根拠とする心証形成が必要とされるため、上記の因果関係については、立法事実を根拠として「あり」といえる必要があります。そこで、立法措置①に関する20XX年の事件を根拠として、実際にこういった虚偽表現によりこのような社会的混乱が発生したのだから、因果関係ありとして、㋐を肯定することになります。なお、規制対象が立法目的にとって有害であるという因果関係を根拠づける立法事実の有無について、目的審査で言及する答案例もあるようですが、手段適合性で言及するというのが司法試験委員会の理解です。例えば、平成30年司法試験採点実感では、第3の2の4段落目において「規制図書類に接することにより青少年の健全育成が害されるという想定の適否について、実証的な根拠が薄弱であるなどとの批判的な視点にも触れた上で、岐阜県青少年健全育成条例事件の判示も援用しつつ自らの立場を示すことができていた答案は高く評価された。例えば、特に規制区域で取扱いが全面禁止されることについて、陳列そのものがなぜ青少年の健全育成を阻害することになるのかを問う指摘などは鋭い指摘といえる。」とあり、これと区別された形で、6段落目において規制目的の重要性に関する記述があります。

2020年09月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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