会社法では、民事訴訟法と異なり、判例・論点について深い理解が問われることは稀ですし、仮に問われたとしてもそこで差は付きません。条文・手続・論点といった検討事項をどれだけ網羅することができるかで差が付きます。記憶が定着していることであっても落としてしまうということが、往々にしてあり得るからです。
こうした会社法の特性を踏まえると、特定の判例・論点の理論面について理解を深めるよりも、記憶したことを確実に事案から抽出するための工夫をすることを優先するべきです。
これには、現場における工夫と、試験前における工夫とがあります。
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現場における工夫:事実関係を「図」として把握する
現場における工夫は、事実関係図を書くことにより、会社同士の関係、株主・役員の構成、公開・非公開、取引関係といった事実関係を「図」として一目で確認できるようにすることです。
ある事実が、別の事実を結合することによって、会社法上の制度との関係で法的な意味を持つことがあります。
事実関係を文字として認識しているだけでは、どうしても、一つひとつの事実をぶつ切りの状態で認識してしまいがちですが、複数の事実を「図」という形でまとめて認識することにより、複数の事実を会社法上の制度と関連付けて法的に意味を与えて認識できるようになります。
令和2年予備試験商法の問題文の抜粋を使って説明いたします。
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【事例】
1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は、飲食店の経営、飲食店の経営を行う会社の株式を保有することにより当該会社の事業活動を支配・管理すること等を目的とする会社であり、種類株式発行会社ではない。甲社の発行済株式の総数は1000株であり、そのうち、創業者であるAが400株を、Aの息子であるBが300株を、Aの娘であるCが300株を、それぞれ保有していた。
甲社の取締役はAのみであり、監査役は置いていない。
2.甲社は、Aが店長兼料理長となっている日本料理店を営むとともに、いずれも飲食店の経営等を目的とする乙株式会社(以下「乙社」という。)と丙株式会社(以下「丙社」という。)の発行済株式の全てを保有していた。乙社の取締役はBのみであり、乙社はBが店長兼料理長となっているフランス料理レストラン(以下「レストラン乙」という。)を営んでいる。丙社の取締役はCのみであり、丙社はCが店長兼料理長となっているイタリア料理レストラン(以下「レストラン丙」という。)を営んでいる。甲社における乙社及び丙社の株式の帳簿価額は、それぞれ3000万円であった。
・・・中略・・・
6.本件買取りをきっかけとして、A及びBとたもとを分かつ決心をしたCは、甲社から独立してレストラン丙を経営したいと考え、Aと交渉を行った。その結果、令和2年8月12日、Cが保有する甲社株式を甲社に譲渡するのと引換えに、甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する旨の合意(以下「本件合意」という。)が成立した。
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〔設問2〕
本件合意の内容を実現させるために甲社及び丙社において会社法上必要となる手続について、説明しなさい。なお、令和2年8月12日現在の甲社の分配可能額は5000万円であり、その後、分配可能額に変動をもたらす事象は生じていない。
本件合意の内容を実現するために丙社において会社法上必要となる手続としては、譲渡制限株式(会社法107条1項1号)の譲渡の承認手続(同法136条以下)の要否が問題となり、結論として、一人会社における譲渡制限株式の譲渡であるため譲渡承認手続は不要となります。
事例2では、①「甲社は、…丙社…の発行済株式の全てを保有していた」、②「丙社の取締役はCのみであ…る」とあります。
事例6では、「本件合意」の一内容として、③「甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する」とあります。
②は、丙社は取締役会設置会社ではない(会社法331条5項)⇒丙社は公開会社ではない(会社法327条1項1号)⇒丙社の株式の全部の内容として定款による譲渡制限がある(会社法2条5号対照、107条1項1号)ことを意味します。
②と③とが結合して、③「甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する」ことは譲渡制限株式の譲渡に当たるから、原則として丙社において譲渡承認手続を要する(会社法136条以下)、という帰結が導かれます。
①は、丙社が甲社を唯一の株主とする1人会社であることを意味します。
②③と①とが結合して、「甲社が保有する丙社株式をCに譲渡する」ことは一人会社における譲渡制限株式の譲渡であるから、譲渡承認手続は不要ではないかという論点が導かれることになります。
このように、①、②及び③は、結合することにより、会社法上の制度との関係で上記の意味を持つことになります。
正解筋だけ見てみると、なんだ簡単じゃないかと感じると思います。しかし、試験本番に限られた時間の中で「譲渡制限株式の譲渡+一人会社における譲渡制限株式の譲渡における会社の承認の要否」をちゃんと抽出することができる人は、そこまで多くないと思います。予備試験論文受験者の半分、多くて2/3くらいだと思います。
記憶したことを事案から確実に抽出することができるように、試験本番では事実関係図を書くとともに、試験本番で自分にとって使い易い事実関係図を素早く書くことができるように普段の答案練習で事実関係図を書くことに慣れていきましょう。
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試験前における工夫:典型事例と会社法上の複数の手段をメモして記憶しておく
まずは、インプット及びアウトプットの過程で、条文・手続・論点の典型事例を一元化教材等にメモしてみましょう。これは、会社法に限らず、他の科目でも同様です。
次に、会社法に特有の出題として、「株主〇や会社債権者△が~~するための会社法上の手段を複数検討させる」問題があります。こうした問題で会社法上の手段を確実に網羅するために、事前に会社法上の複数の手段を一元化教材等にメモしておきましょう。
例えば、「甲社の株主Xが、甲社を消滅会社、乙社を承継会社とする吸収合併の実現を阻止するために、会社法に基づき、どのような手段を採ることができるか。合併の効力が発生する前と後とで分け、それぞれ理由を付して論じなさい」(平21年司法試験設問6参照)といった典型問題に対応するために、事前に、合併の効力発生前における会社法上の手段と合併の効力発生後における会社法上の手段を一元化教材等にメモしておくといいでしょう。関連して、Xの目的が「合併の実現を阻止する」ことに限定されているか否かにより、反対株主の株式買取請求(効力発生前)と損害賠償請求(効力発生後)まで書くべきかが変わるということまでメモしておきましょう。
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記憶したことを確実に事案から抽出するための工夫の必要性とその方法については、こちらの「令和2年予備試験論文「商法」解答速報」の動画での前半でも説明していますので、こちらの動画の前半部分も参考にして頂ければと思います。
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