論証を作成・加工する際に「やって良いこと」と「やってはいけないこと」

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自分でいちから論証を作成したり、記憶の負担の軽減や加点密度の向上のために既存論証を短くする際、「理由付け」と「規範」(又は解釈の結論)の論理的な繋がりを過度に意識するべきではありません。

一部の論点・出題を除き、論証の理由付けの丁寧さと正確性は、採点上さほど重視されていない上、自分なりにどんなに論理を繋げようとしてもどうせ論理が飛躍することになるからです。

したがって、論証を作成・加工する際、「理由付け」と「規範」(又は解釈の結論)との間の論理を完全に繋げようとする必要はありませんし、答案を書いている際にどうしても時間が無い場合にはある論点の理由付けを丸々飛ばしても構いません。

もっとも、論証を作成・加工する際の妥協には、「やって良いこと」と「やってはいけないこと」とがあります。

「やって良い」妥協は、理由付けの一部をカットすることにより、「理由付け」と「規範」(又は解釈の結論)の論理的な繋がりを弱くすることです。

「やってはいけない」妥協は、原則・例外、学説の組み合わせといった、論証の基本構造を崩すことです。

後者では、(当該論点の配点の範囲内で)大幅に失点する危険がありますし、場合によっては採点者に悪印象を植え付けることになり、答案全体の評価が下がってしまう危険すらあります(他の答案に比べて懐疑的に答案を読まれることになるため)。


「やって良い」妥協の例:不真正不作為犯の実行行為性

例えば、不真正不作為犯の実行行為性に関する論証を丁寧に書くのであれば、以下の①⇒②⇒③の流れで書くことになります。

①確かに、実行行為とは構成要件的結果を惹起する現実的な危険性を有する行為を意味するところ、不作為も構成要件的結果を惹起する現実的な危険性を有し得るから実行行為たり得る。

②また、不真正不作為犯は、構成要件的行為が作為に限定されている条文で不作為を処罰するわけではないから(不作為も殺人罪等の構成要件に本来的に含まれていると考える)、法律主義(罪刑の法定性)や類推適用の禁止という意味での罪刑法定主義には反しない。

③しかし、予測可能性の保障という罪刑法定主義の要請に照らし、不作為につき作為との同価値性を要求することで、不真正不作為犯の成立範囲を限定するべきである。具体的には、作為義務及び作為の可能性・容易性が必要である。

不真正不作為犯の実行行為性の議論の本質は、「いかなる観点から、どのようにして」不真正不作為犯の実行行為性が認められる範囲を絞るべきか、という点にあります。

そうすると、論証の核心部分は③だけですから、①・②は飛ばして構いません。

したがって、論証では③だけを書けば足ります。

これが、「やって良い」妥協の例です。

「やってはいけない」妥協の例:原則・例外の関係を無視している

例えば、会社法における「瑕疵ある取締役会決議の効力」に関する論証は、下記の①の原則と②の例外から成ります。

①会社法は取締役会決議に瑕疵がある場合については特別の制度を設けていない(830条、831条対照)から、私法の一般原則に従い、瑕疵ある取締役会決議は原則として無効となる。

②もっとも、決議を基礎として諸々の法律関係が進展・形成されていくことによる法的安定の要請も無視できないから、当該瑕疵が決議に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは、例外的に決議は有効であると解すべきである。

①と飛ばしていきなり②から書くと、原則・例外という基本構造が崩れることになりますから、①を飛ばすことはできません。

上記論証を短くするのであれば、①と②の理由付けをぎりぎりまで短くします。以下が、理由付けをぎりぎりまで短くした論証例です。

①私法の一般原則に従い、瑕疵ある取締役会決議は原則として無効である。

②もっとも、法的安定の要請も無視できないから、当該瑕疵が決議に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは、例外的に決議は有効であると解すべきである。


「やってはいけない」妥協の例:学説の組み合わせの明白な誤り

例えば、刑法の正当防衛における「急迫」性については、①「急迫」性について侵害が時間的・場所的に切迫しているか否かという客観的事情のみにより判断するべきか、②主観的事情も考慮できると解する場合にはいかなる主観的事情によって「急迫」性が否定されるのか、という論点があります。

①について客観的事情のみによって判断する見解に立った場合、その時点で、侵害の予期と積極的加害意思があっても「急迫」性が否定されないことが確定します。①について主観的事情も考慮して判断する見解に立つことにより初めて、侵害の予期と積極的加害意思の存在により「急迫」性を否定する余地が出てきます。

したがって、下記の論証は、学説の組み合わせが明白に誤っているといえます。

①確かに、「急迫」性については、その語義通り、侵害が時間的・場所的に切迫しているか否かという客観的事情のみにより判断するべきであるから、予期された侵害であっても当然には「急迫」性は否定されない。

②しかし、予期された侵害に対して被侵害者が積極的加害意思をもって臨んだ場合には、正当防衛の本質である正当防衛状況を欠くといえるから、予期された侵害の「急迫」性が否定されると解すべきである。

なお、予期された侵害については、最高裁昭和52年決定(百選Ⅱ23)では積極的加害意思があれば「急迫」性が否定されると解されていましたが、最高裁平成29年決定(H29重判2)では積極的加害意思が無くても「対抗行為に先行する事情も含めて行為全般の状況」に照らして「急迫」性が否定される余地があることが認められていますから、最高裁平成29年決定に従った論証も用意しておくべきです。

以上が、論証を作成・加工する際に「やって良いこと」と「やってはいけないこと」です。

自分でいちから論証を作成したり、既存論証を短くする際に、参考にして頂ければと思います。

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講師紹介

加藤 喬 (かとう たかし)

加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
司法試験・予備試験の予備校講師
6歳~中学3年 器械体操
高校1~3年  新体操(長崎インターハイ・個人総合5位)
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
労働法1位・総合39位で司法試験合格(平成26年・受験3回目)
合格後、辰已法律研究所で講師としてデビューし、司法修習後は、オンライン予備校で基本7科目・労働法のインプット講座・過去問講座を担当
2021年5月、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立

執筆
・「受験新報2019年10月号 特集1 合格
 答案を書くための 行政法集中演習」
 (法学書院)
・「予備試験 論文式 問題と解説 令和元年」
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