本記事では、選択科目の選び方、選択科目対策を開始する時期、労働法の科目特性、及び労働法の勉強のコツなどについて紹介させて頂きます。
令和4年からは、予備試験の論文科目にも現行司法試験と同じ科目の選択科目が導入されることになるため、司法試験合格を目指す方だけでなく、令和4年以降の予備試験合格を目指す方にも参考にして頂きたいと思います(予備試験論文式における選択科目の導入については、こちらの記事をご覧ください)。
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1.司法試験・予備試験における選択科目対策についての動画(2020.11.11撮影)
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2.選択科目の選び方
選択科目を選ぶ際の重要な考慮要素は、以下の4つです。
(1) 受験生としての自分との相性
(2) 基本7科目との共通性
(3) 自分が関心を持つことができるか
(4) 教材・講座が充実しているか
(1) 受験生としての自分との相性
受験生としての選択科目の勉強は、あくまでも試験対策としてやるものですから、自分が関心を持つことができるか、実務でどれだけ使う可能性・頻度が高いのかといったことだけではなく、受験生としての自分との相性の良さも考慮する必要があります。自分が関心を持っている科目や実務で使う可能性・頻度が高い科目であっても、受験者としての自分との相性があまりにも悪いのであれば、選択科目としては選ばない方が良いと思います。受験後、合格発表前や司法修習中に勉強する機会だって十分あります。
受験生としての自分との相性を考える際に着目するべき選択科目ごとの特徴は、以下の3つです。
㋐記憶の負担の大小
㋑記憶が報われやすい出題か
㋒現場思考要素の有無・程度
例えば、記憶が苦手な人は、学習範囲が広い科目、知識重視の科目との相性はよくありません(㋐)。
労働法は、記憶が苦手な人にとっては、相性が良くない科目であると思います。学習範囲が広い上、判例・裁判例の立場が明確である論点について判例・裁判例に従った規範を定立する必要があるため現場思考による誤魔化しが通用しない、下位基準まで記憶する論点がいくつもあるといった意味で知識重視の科目であるからです。
他方で、労働法は、記憶したことが非常に報われやすい科目であり、勉強量が点数にそのまま反映されやすい科目であるといえます(番狂わせが起きる可能性は低いです)。労働法では、典型論点が正面からバンバン出題される上、判例・裁判例の事案に酷似した事案が出題されることも良くありますし、現場思考要素も少ないからです。しかも、請求や論点の抽出が比較的容易であるため、記憶するべきことをちゃんと記憶しておけば、請求や論点を落とす可能性がかなり低くなります。私は、記憶が得意であり、試験当日には頭の中で自作まとめノートのページを開き、どこに何が書いてあるのかを画像として正確に呼び起せる状態になっていた上、平成26年司法試験の問題では典型論点からの出題ばかりだったため、とても解きやすかったです。
このように、記憶重視の科目は、記憶したことが報われやすい上、記憶が苦手の人に差をつけやすいという意味で、記憶が得意な人にとって相性が良いといえます(㋑)。
逆に、現場思考要素が強かったり、解答の入り口で悩ませる傾向が強い科目だと、記憶が報われにくいです(㋑)。
それから、現場思考要素の強い科目には、読解力・思考力・文章力といった法律知識以前の基礎学力で差が付きやすい、知識だけでは対応することができないといった特徴があります(㋒)。
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(2) 基本7科目との共通性
これは、勉強のしやすさに関することです。選択科目の勉強のしやすさを考える上で、基本7科目との共通性の有無・程度は非常に受講な要素の一つであると言えます。
基本7科目との共通性が弱い科目であれば、その分だけ、知識面でも、思考面でも、書き方でも、学ぶことが多い上、慣れるまでに時間がかかります。逆に、基本7科目との共通性が強い科目であれば、基本7科目の延長線上で勉強を進めすことができるため、その分だけ、条文・論点に関する知識が定着するのも、答案を書けるようになるのも早いです。
労働法は、民法の延長としての側面が強いです。労働法のうち、特に第1問(労働保護法)では、訴訟物(労働契約上の地位確認請求、賃金請求権、損害賠償請求権など)を出発点として、これに対応する法律要件を一つひとつ検討し、その検討過程で論点が顕在化する要件については論点にも言及するという流れで答案を書くことがほとんどです。権利の発生要件、発生障害事由、取得事由、行使要件、行使阻止事由、消滅事由といった視点も民法と同様です。民法の学習により民法的思考をしっかりと身につけておくと、労働法の学習をスムーズに進めることができます。答案の型は民法と同様であり、肉付けに使う条文と論点が労働法関連のものになる、というイメージです。
例えば、労働法第1問の典型論点に関するものとして、以下の事例があります。
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(事例)
Y社に雇用されるXは、11月分の給料(30万円)が支払われていないとして、Y社に対して、11月分の賃金の支払いを求めた。
Y社は、Xの業務上のミスにより生じた損害(30万円)についての損害賠償請求権を自働債権とする相殺により、11月分の賃金請求権は消滅したから、支払いに応じないと主張した。
Xの賃金支払請求は認められるか。解答に当たっては、Xの業務上のミスによりY社に30万円の損害が発生したことを前提にすること。
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(答案)
Xは、Y社との間で労働契約(民法623条)を締結し、11月分の労働をしたのだから、XのY社に対する11月分の賃金請求権30万円が発生している(民法624条1項)。
もっとも、Y社の相殺(民法505条1項本文)により賃金請求権が消滅するのではないか。ここで、Y社のXに対する損害賠償請求権の発生の有無及びその金額(民法415条1項)、並びに使用者による相殺の可否が問題となる。
まず、Xは業務上のミスという労働契約上の「債務の本旨に従った履行をしない」こと「によって」、Y社に30万円の「損害」を被らせている。労働契約上の手段債務の不履行と免責事由の存否とは表裏一体の関係にあるから、Xには免責事由は認められない。したがって、Y社のXに対する債務不履行を理由とする損害賠償請求権が発生する。
次に、損害賠償請求権の範囲が問題となる。報償責任に基づく損害の公平な分担という使用者責任(民法715条)の制度趣旨にかんがみ、使用者から労働者に対する損害賠償請求は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において認められると解すべきである。したがって、Y社のXに対する損害賠償請求権は上記限度の額において認められる。
最後に、賃金全額払の原則(労働基準法24条1項本文)との関係で、使用者による賃金債権との相殺の可否が問題となる。同原則の趣旨は、使用者による一方的な賃金控除を禁止することで、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その経済生活の安定を図ることにある。そこで、使用者による賃金債権との相殺は、使用者による一方的な賃金控除に当たるため、同原則に反し無効であると解する。したがって、Y社による相殺は無効であるから、Xの賃金請求権はその一部においても消滅しない。
よって、Xによる30万円の賃金請求は全額において認められる。 以上
上記答案のうち、黄色のマーク箇所だけが労働法固有の話であり、そこに至るまではずーっと民法の話です。
労働法第2問(労働組合法)では、民法上の請求(裁判所に対する民事訴訟の提起)のほかに、労働委員会に対する救済命令の申し立て(労働委員会による行政処分を申し立てる、特別な制度)も出題されますが、後者の場合であっても、救済命令の発動要件(行政処分の処分要件)である労働組合法7条各号所定の要件への該当性について論点も踏まえながら論じたり、救済命令の申立人適格(行政事件訴訟の原告適格みたいなもの)を確認するだけなので、行政法の延長(見方によっては、民法の延長)に位置づけることができます。
このように、労働法は、基本7科目との共通性が強い科目であるため、勉強を進めやすいです。
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(3) 自分が関心を持つことができるか
人間は感情に大きく左右されるため、何かをやる上で、モチベーションは非常に重要です。モチベーションの高低は、学習効果が影響します。上記①②の観点から自分にとって勉強がしやすい科目であったとして、どうしても関心を持つことができない科目であれば、モチベーションが上がらないということもあります。
したがって、その科目自体の興味を持つことができるか、合格後に実務家として使う可能性・頻度などから、自分が関心を持つことができる科目を選択するということは、モチベーションを上げることができ学習効果を高める上で非常に重要です。
因みに、その科目自体に興味を持つことができるかと、合格後に実務家として使う可能性・頻度とは、別次元の問題です。例えば、労働法と倒産法は、弁護士実務で使う可能性・頻度が非常に高いですが、それよりも知的財産法や環境法に興味があるからそちらを勉強したいと思うことだってあるわけです。
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(4) 教材・講座が充実しているか
科目の特徴に照らして自分にとって学習しやすい科目である上((1)(2))、関心を持つことができる科目であったとしても((3))、その科目について試験対策としての勉強をするための学習環境が整っていないのであれば、試験対策としての学習効果を上げることに苦労することになります。
予備校講座を利用するのであれば、以下の6つを重視しましょう。
㋐入門講座の有無
㋑司法試験過去問講座の有無
㋒司法試験過去問以外の演習問題の講座の有無
㋓インプット講座とアウトプット講座を一人の講師が担当しているか
㋔担当講師の当該科目の合格順位
㋕当該講座の合格実績
㋐選択科目をいちから勉強する場合、基本書を使った独学により勉強するよりも、予備校の入門講座を利用したほうが遥かに効率が良いです。基本書を使った独学により勉強をする場合、どの分野・論点が司法試験との関係で重要であるのかや、科目特性が分からないまま勉強をすることになりますから、非常に効率が悪いです。
㋑選択科目においても、司法試験過去問は必須です。例えば、令和2年司法試験労働法は、約65%が司法試験過去問からの出題です。再度の出題に備えるためだけでなく、出題の形式・角度を把握するためにも、採点上重視されていることを把握するためにも、合格水準を把握するためにも、司法試験過去問は重要です。選択科目は第1問と第2問に分かれており、平成18年から令和2年までで30問もあります。残り6カ月間で自力で再現答案集と出題趣旨・採点実感を使って司法試験過去問の分析をすることには無理がありますから、司法試験過去問講座を利用する必要性が高いです。
㋒司法試験過去問が合計30問あるといっても、司法試験過去問だけから出題されるわけではありませんから、司法試験過去問以外からの出題にも備える必要があります。私のように、インプット教材で記憶を完成させることができ、かつ、問題演習を経験していない分野・論点について合格水準の論述をすることができるタイプの方であれば、司法試験過去問以外の演習問題までやる必要性は乏しいです。これに対し、問題演習を通じてインプットを完成させるタイプの方や、問題演習を経験していない分野・論点については記憶していても合格水準の答案を書くことができないというタイプの方は、司法試験過去問以外からの出題に備えるために、司法試験過去問以外の演習問題までやる必要性が高いです。とはいえ、司法試験過去問のように丁寧にやる必要はなく、事例と参考答案にざっと目を通して、条文・論点の顕在化場面、論証、及び答案全体の流れを確認するくらいで足りると思います。
㋓インプット講座とアウトプット講座の双方を受講する場合、出来るだけ、同じ講師が担当している講座を選択するべきです。ある講師のインプット講座を受講したところ、自分には合わなかった、質が低くすぎたといった理由からアウトプットでは別の講師の講座を選択するというのであれば全然ありですが、そうした事情が無いのであれば、出来るだけ同じ講師の講座を選択しましょう。教材や方法論を丸々盗用するといったことをしていない限り、講師ごとに、テキストの目次、分野・論点ごとの重要度の付け方、分野・論点ごとの説明の仕方、論証の表現、答案の書き方、問題へのアプローチの仕方(思考順序等)が異なります。これらがインプット講座とアウトプット講座とでずれると、その分だけ、修正を余儀なくされる機会が増えることになり、非常に効率が悪いです。
㋔私は、合格順位が予備校講師としての実力に直結するとは考えていませんが、両者の間にそれなりに強い相関関係があるとは思っています。選択科目については、特に、担当講師の当該科目の合格順位が重要であると考えます。選択科目は、基本7科目に比べて学習期間が浅いですから、上位で合格するか、合格後にしっかりと試験対策を意識した勉強を積むなどしない限り、受験生に教えて良いだけのレベルには到達しないと思います。入門講座を担当するのであれば、尚更です。私の予備校講師として経験からもそう思っていますし、6年前に辰已法律研究所で担当した労働法入門講座ではもっと良い講義をしたかったと不甲斐なく思ってもいます。それくらい、入門講座を作るには、実力と経験が必要とされます。
㋕予備校講座の質を判断する上で、合格実績が重要です。合格体験記は勿論のこと、Twitterや合格者ブログ等で言及されているかなども、参考資料になります。これだけ多くの受験生がTwitterやブログをやっているのですから、本当に実績のある講座であれば、何件かはネット上でヒットするはずです。
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3.選択科目対策を開始する時期
新しく勉強する法律科目については、論文試験に耐え得るだけの知識と感覚を身につけるには時間がかかります。
令和2年予備試験論文を受験し、令和3年司法試験合格を目指した勉強を進めている方は、今から選択科目対策を開始しましょう。
予備試験論文の合格発表や口述の合格発表後から選択科目対策を開始するのでは、間に合わないと思います。仮に選択科目対策を間に合わせることができたとしても、直前期に選択科目に偏った勉強をした結果、基本7科目の水準が下がることになります。
令和4年以降の司法試験・予備試験合格を目指す方は、遅くとも1年前には選択科目対策を開始しましょう。
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4.労働法の特徴
労働法選択を検討している方のために、労働法の特徴、労働法の勉強のやり方などについて、紹介いたします。
(1) 労働法はどんな科目なのか
労働法は、労使間に契約自由の原則をそのままの形で適用した場合に労働者が使用者(≒雇主)との関係で不利な立場に置かれがちであるということに配慮して、労使間の実質的対等性を確保することを目的として特別な法的規律を定めている個々の法律の総称を意味します。
労働法は、対象領域の違いに応じて、雇用関係法(労働基準法など)、集団的労働法(労働組合法など)、雇用保障法(雇用保険法など)に分類されます。
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- 雇用関係法は、個々の労働者と使用者との間の雇用関係を規律する法律の総称です。代表的なものとしては、労働基準法と労働契約法が挙げられます。これらは、労働条件の最低水準を定めています。1日・1週間の労働時間の上限、就業規則による労働契約の内容の規律(変更)の可否・限界、賃金の支払方法、懲戒処分・解雇、労働者間での差別など、労働者の労働条件その他の待遇について、様々な規律が設けられています。
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- 集団的労働法は、司法試験・予備試験対策としては、主として、労働組合法を意味します。労働者は、労働条件の最低水準については労働基準法等で確保してもらえますが、最低水準を超える労働条件を実現するためには、使用者との交渉により合意を獲得する必要があります。もっとも、労働者個人で使用者との間で対等な交渉をすることは困難です。労働者としては、労働組合という労働者集団を組織し、集団的な交渉を行うことで、使用者と対等な交渉を実現し、ひいては最低水準を超える労働条件を内容とする合意を獲得しやすくなります。そこで、憲法28条は、団体交渉の助成を基本目的として、団体交渉と、そのための団結・団体行動について、労働基本権として保障しています。これを受けて、労働組合法が定められています。労働組合法では、労働組合の組合員であること等を理由とする解雇その他の不利益取扱い、労働組合からの団体交渉の申入れに対する使用者側の対応、使用者による労働組合の組織・運営に対する支配・干渉、使用者により団結・団体交渉・団体行動を妨害等された場合における行政救済、労働組合と使用者の間で締結される労働協約の効力といった、集団的労使関係について規律を設けています。
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- 雇用保障法は、労働者の就職サポート、職業能力開発支援、失業者の生活保障といったことを目的とした個々の法律の総称です。職業安定法、職業能力開発促進法、雇用保険法などがあります。司法試験・予備試験対策としては、雇用関係法と労働組合法が重要であり、基本的には、司法試験の第1問では雇用関係法メインの出題がなされ、2問では労働組合法メインの出題がなされます。雇用保障法が司法試験・予備試験で出題される可能性は極めて低いです。
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(2) 労働法ではどんな問題が出題されるのか
司法試験の第1問は、主として、労働法保護法(労働基準法、労働契約法等)から出題されます。以下は、一例です。
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- 会社は、労働者との合意によることなく、一方的に就業規則を変更することで、基本給を引き下げることができるか
- 会社から採用内定を受けた後に、採用内定を取り消された者は、会社に対してどういった請求をすることができるか
- 労働者は、会社による転勤命令を拒否することができるか
- 会社は、労働者が懲戒解雇された場合に、退職金の全部又は一部の支給を拒否することができるか
- 派遣労働者は、派遣先企業に対して労働者としての権利を主張することができるか
司法試験の第2問は、主として、労働組合法からの出題です。以下は、一例です。
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- 会社から団体交渉を拒否された労働組合は、いかなる機関に対して、どういった内容の救済を求めることができるか
- 会社と労働組合とが労働協約を締結し、所属組合員の基本給を引き下げることはできるか
- 会社が労働組合の活動を嫌悪し、威嚇又は報復を目的として所属組合員を解雇した場合における法律上の問題点
- 会社は、労働組合のストライキにより損害を被ったとして、ストライキに参加した組員を懲戒することができるか
- 会社の上司が、労働組合の組合員に対して、労働組合からの脱退を促す発言をした場合における法律上の問題点
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5.労働法の勉強のやり方
(1) 全体を俯瞰することを最優先する
これは、全ての法律科目について言えることですが、いちから勉強する科目では、全体を俯瞰することを最優先するべきです。
労働法速修テキスト講義を使った勉強をするのであれば、1周目では、以下の4点まで記憶します。
①労働法の全体像
②分野ごとの全体像
③Aランク論点の典型事例と規範(又は解釈の結論)
④Aランク論点の組み合わせ
1周目では、事例問題において抽出と構成まで出来るようになることを目指します。具体的には、事例問題において、条文と論点を抽出し、結論に至るまで過程で抽出した条文と論点をどういった流れで書くのかについて決定することができるようになることです。
前掲した、「労働者からの賃金請求に対して、会社側が労働者に対する損害賠償請求権を自働債権とする相殺を主張した」という事案であれば、㋐訴訟物は労働契約に基づく賃金請求権、㋑使用者の労働者に対する損害賠償請求は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において認められること、㋒使用者による賃金債権との相殺は賃金全額払の原則(労働基準法24条1項本文)に反し無効であることの3点について抽出し、㋐⇒㋑⇒㋒⇒請求全額認容という流れをイメージすることができるようになれば足ります。
とにかく、抽出と構成により「答案の骨格」を整えられるようになることを最優先しましょう。
論証の理由付けなど、答案の骨格に対する「肉付け」に相当することについては、答案の骨格を整えることができるだけの知識と慣れが身に付いてからやることです。
前掲した答案における、「最後に、賃金全額払の原則(労働基準法24条1項本文)との関係で、使用者による賃金債権との相殺の可否が問題となる。同原則の趣旨は、使用者による一方的な賃金控除を禁止することで、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その経済生活の安定を図ることにある。そこで、使用者による賃金債権との相殺は、使用者による一方的な賃金控除に当たるため、同原則に反し無効であると解する。したがって、Y社による相殺は無効であるから、Xの賃金請求権はその一部においても消滅しない。」という箇所については、1周目では、「使用者による賃金債権との相殺は、賃金全額払の原則(労働基準法24条1項本文)に反し無効である」という論証の結論部分だけを記憶するのもありです。
論点については、③Aランク論点の典型事例と規範(又は解釈の結論)及び④Aランク論点の組み合わせに関する記憶が安定してきたら、徐々に、Aランク論点の理由付け、Bランク論点の典型事例と規範(又は解釈の結論)、Bランク論点の理由付け、・・・という流れで、現実的に可能な限度でインプットの範囲を広げていきましょう。
いちから勉強する科目では、「木(論点)を見て森(全体像)を見ぬ」にならないように注意しましょう。
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(2) 答案練習よりも答案構成を優先する
労働法は、民法の延長に位置する科目であり、労働法固有の書き方というものはほとんどありません。第1問の労働保護法であれば、訴訟物⇒法律要件(請求原因、抗弁)という流れで検討し、法律要件の検討過程で労働法固有の論点が出てくる、というイメージです。これまで書いてきた民法の答案のうち、条文と論点が労働法固有のものに切り替わるだけです。
したがって、答案練習をしなくても、答案を書くことができます(一部、書き方まで重視される問題もありますが、それは最後の仕上げとしてやれば足ります)。
新しい科目であるため、とにかく、浅く広く事例演習を繰り返すことで、知識を使うことに慣れるとともに、「知識を使う場面」と「知識の使い方」を記憶する必要があります。
ここでいう「知識を使う場面」とは、こういった事案で、この請求、この条文、この論点が問題になるという、事案と請求・条文・論点の対応関係を意味し、「知識の使い方」とは、主として、条文や論点の組み合わせを意味します。
知識を使うことへの慣れと、「知識を使う場面」「知識の使い方」の記憶が定着すると、構成レベルのことでは間違えなくなり、答案の「骨格」が安定します。
答案の「骨格」が安定してきたら、記憶範囲を、論証の理由付け、重要判例の当てはめのポイントまで、徐々に広げていきます。これにより、答案の「肉付け」も徐々に完成していきます。
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6.労働法・経済法選択者には当該科目1位の講師が担当する加藤ゼミナールの選択科目対策講座がお薦め
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令和4年司法試験 110名
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