令和4年司法試験の出題趣旨が公表されていますが、出題趣旨を読む際には、来年以降の司法試験で使えそうなことを獲得するために読んでいるということを明確に意識する必要があります。
こうした意識を持ちながら出題趣旨を読むことで、理解記憶するべき出題趣旨の範囲が試験対策として必要な範囲に限定されるとともに、必要に応じて出題趣旨の記述を一般化して把握できるようになります。
常に、「ここに書かれていることは本問に固有のことであり来年以降の司法試験で使うことはないのではないか」、「ここに書かれていることは別の問題にも共通することであり一般化が可能なのではないか」ということを考えながら出題趣旨と向き合うべきです。
これができているか否かで、出題趣旨の読み方も、出題趣旨を読むことによる学習効果も大きく変わってきます。
例えば、憲法における「本問は、大学の自治と学問の自由との関係…について問うものである。…行政機関とは異なり、大学が研究・教育の内容や方法について自律的に決定し得ること、本来は学問の自由の保障のために認められる大学の自律性に基づく決定が、個々の研究者の学問の自由と対立する側面があることにも、留意しなければならない。」という記述は、大学における学問の自由の保障を担保するための制度的保障である大学の自治に基づいて大学における学問の自由を制約する場合には、制度的保障における制度とそれにより保障が担保されるべき自由とが衝突しているため、大学の自治を強調して違憲審査基準を緩和することはできないのではないか?という問題意識が示されています。これは、「制度的保障における制度とそれにより保障が担保されるべき自由が衝突している場合には、当該制度を強調することはできない」という形に一般化することができます。上記の出題趣旨をこのように一般化すると、例えば、エホバの証人剣道実技受講拒否事件のように、政権分離原則と少数者の信教の自由が衝突している場面では、政教分離原則違反の判断を緩やかに行うべきであるという形で、応用することができます。このように、出題趣旨を別の問題でも活かすことができるような汎用性のある分析をすることが重要です。
また、憲法における「学問の自由については、学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由が含まれることについても、留意する必要がある。」という記述は、「「…の自由」の内容についての解釈として判例や学説がある場合には、「…の自由」の内容を明らかにした上で本問の自由がこれに該当するから「…の自由」として憲法〇条により保障されると論じるべきである」という形で一般化することができます。上記の出題趣旨をこのように一般化すると、例えば、宗教的行為の自由が問題となる事案では、「信教の自由」(憲法20条1項前段)には信仰の自由のみならず宗教的行為の自由も含まれるということを一般論として論じた上で、問題となっている行為ないし活動は宗教的行為の自由に当たるから「信教の自由」として憲法21項前段により保障されると論じるべきであるという形で、転用することができるわけです。
さらに、民法、商法及び民事訴訟法の3科目では、判例や条文というルールの射程(類推適用を含む)の論じ方(=論証の基本構造)が示されています。
例えば、賃貸不動産の譲渡担保の場合に対する民法605条の2第1項の類推適用の可否が問われている民法設問2では、出題趣旨として真に理解するべきは、様々な理論構成ではなく、「Fの反論の当否及び請求3の可否を論じるに当たっては、それに先立ち、法第605条の2第1項の趣旨を確認する必要がある。同項は、不動産の賃借権が対抗力を備えている場合、賃貸不動産の譲渡に伴い、特段の事情がない限り、当然に賃貸人の地位が譲渡人から譲受人に移転するものとした平成29年改正前民法下の判例法理(最判昭和39年8月28日民集18巻7号1354頁)の趣旨を明文化したものとされている。その趣旨の理解については、(合理的)当事者意思の推定を根拠とするという説明が一般的になっているが、賃貸人の債務の性質、法律関係の複雑化の回避など、当事者意思の推定以外の説明が記載されていた場合も、その説得力に応じて相応に評価される。」という部分だけです。ここでは、民法605条の2第1項(ルール)の趣旨を示した上で、その趣旨が賃貸不動産の譲渡担保の場合にも妥当するかを検討することで類推適用の可否を論じるという、論証の基本構造が示されています。
定款変更による任期短縮に伴う取締役退任の場合に対する会社法339条2項の類推適用の可否が問われている商法設問1でも、「会社法第339条第2項の規定の類推適用又は適用を検討する場合には、同項の趣旨を踏まえつつ、類推適用の基礎は何であるか、何をもって実質的な解任であると評価するかを意識した検討をする必要がある。」という記述から、339条2項(ルール)の趣旨を示した上で、その趣旨が定款変更による任期短縮に伴う取締役退任の場合にも妥当するかを検討することで類推適用の可否を論じるという、民法設問2と共通する論証の基本構造が示されています。
訴えの主観的追加的併合の否定説(判例)の射程が問われている民事訴訟法設問2でも、「設問2では、本件訴訟の被告が乙と確定されることを想定し、Xが甲に対する給付判決を得る上で便宜な手段として主観的追加的併合の申立てがあるところ、最判昭和62年7月17日民集41巻5号1402頁が主観的追加的併合を認めた場合の問題として主に4点を指摘していることを踏まえ、Xによる主観的追加的併合の申立てが認められるような立論を上記4点を踏まえて検討することが求められている。」という記述から、判例の否定説(ルール)の根拠を示した上でその根拠が本問の具体的事案にも妥当するかを検討することで否定説の射程の縮小の可否を論じるという、論証の基本構造が示されています。
以上で見た通り、民法設問2、商法設問1及び民事訴訟法設問2では、いずれにおいても、条文や判例の類推適用・縮小といった「ルールの射程」が問われており、ルールの根拠を示した上でその根拠が当該場面や事案に妥当するるかを検討することで射程の拡張(≒類推)や縮小の可否を論じるという論証の基本構造が共通しています。こうした論証の基本構造を抽出することができると、ルールの射程が問われている問題全般に共通する論じ方を習得することができるわけです。逆に、こうした一般化をすることなく表面的に出題趣旨を細部も含めて読んでいるだけでは、本問に固有の情報しか得ることができないため、当該問題以外でも活かすことができる汎用性のある知識や方法論を習得することができません。
このように出題趣旨と向き合うと、出題趣旨の趣旨の読み方がだいぶ変わってくると思います。特に、出題趣旨のうち熟読して理解記憶するべき箇所はかなり限定されることが分かると思います。
以上が私の考える出題趣旨の正しい読み方です。
受験生の皆様に参考にして頂きたいと思います。
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