7月10日(土)から令和3年予備試験論文式がスタートします。
明後日から予備試験論文式を受験する皆様に、私からメッセージを送らせて頂きたいと思います。
1.自信をもって臨む
自信がないと、問題文を読んだ後のファーストインプレッションを信じることができず、深読みしすぎてしまう危険があります。
論点Aが問題になっているという心象を頂いたものの、この心象を信じることができず深読みしすぎた結果、問われていない論点Bを書いてしまうなどです。
また、考えすぎて問題処理に時間がかかってしまう可能性もあります。
自分を追い込むのは、試験前日までです。
試験当日は、これまで予備試験に向けて勉強をしてきた自分を信じて、自信を持って問題を解いて欲しいと思います。
2.ほとんどがAランク・Bランクからの出題である
予備試験では、マイナー分野・論点はあまり出題されない傾向にあります。
実際、令和2年は、3分の2がAランク、残り3分の1のうち公害防止協定以外はBランクからの出題です(因みに、令和2年刑事訴訟法で出題された一事不再理効も、私はAランク論点であると認識しています)。詳細については、「令和2年予備試験論文と総まくり論証集の対応関係(100%)」という記事をご覧ください。
しかも、司法試験ほど捻った出題もされません。
とにかく、基本です。
Aランク・Bランクをしっかりと復習しましょう。
3.設問の指示に従う
論述の内容・形式・方向性、大きな問いと小さな問いの関係などについて、ちゃんと確認し、従う必要があります。
これを全科目で出来るだけでも、相対評価においてだいぶ上に行くことができます。
例えば、令和2年憲法では、「以上の立法による取材活動の制限について、その憲法適合性を論じなさい」として、「立法…の憲法適合性」すなわち法令違憲審査だけを論じることと、「取材活動の制限」すなわち取材活動の自由に対する制限を論じることが指示されています。これは、論述の内容に関する指示です。
令和2年行政法では、設問2において、「本件通知は、取消訴訟の対象となる処分に当たるか。Bの立場に従って、想定されるA市の反論を踏まえて、論じなさい」として、(1)本件通知の処分性について、本件通知の取消訴訟を提起したいと考えている「Bの立場に従って」論じることと、(2)その際には「想定されるA市の反論を踏まえて」論じることが指示されています。(1)は論述の方向性、(2)は論述の形式に関する指示です。特に注意するべきは論述の方向性に関する(1)です。Bの立場に従って処分性を検討するのですから、裁判官目線ではなく、原告B側の立場に従ってなるべく処分性を認める方向で検討する必要があり、仮に否定する場合には相当な理由付けが必要となります。
それから、例えば、「〇〇の請求は認められるか。下線を付した事実が法律上の意義を有するかどうかを検討した上で、理由を付して解答しなさい。」という設問では、(1)「〇〇の請求は認められるか。」が大きな問いであり、(2)「下線を付した事実が法律上の意義を有するかどうかを検討した上で…」が大きな問いに解答する過程で言及するべき事柄の一つについて指示をしている小さな問いである、という整理になります。
4.現場思考問題・分からない問題における対処法
現場思考問題、分からない問題(既存論証を記憶していない場合を含む)では、脳内で元ネタになっているであろう判例・裁判例や予備校・法科大学院の授業内容を検索するのではなく、まずは問題文に立ち返り、何についてどう論じることが求められているのかについて確認します。
その上で、問題文のヒントから出題者が求めている当てはめの内容及び方向性を把握し、その当てはめをすることができる規範を理由とともに導くことで、論証を作り上げましょう。
具体的には、以下の流れを辿ります。
(1)問題文から問題の所在を把握する
↓
(2)問題文から出題者が求めている当てはめの内容及び方向性を把握する
↓
(3)求められている当てはめをすることができる規範を導く
↓
(4)規範を導けるような理由付けを後付けで考える
例えば、令和2年行政法設問1における公害防衛協定の法的拘束力についても、論証を記憶していなくても、上記の手法により合格水準の論述をすることが可能です(詳細は、こちら)。
5.取捨選択をする際には大きめの配点項目を優先的に拾う
取捨選択をする際には、大きめの配点項目を優先的に拾うべきです。
配点項目は、大・中・小に分類することができます。
刑法であれば、大:罪名、中:理論体系・犯罪成立要件・論点、小:事実の摘示・評価となります。
大きめの配点項目を落とした場合、その分だけ大きく失点することになりますから、出来るだけ、小さめの配点項目を捨てたり簡潔に切り上げることで大きめの配点項目を網羅できるようにする必要があります。
司法試験・予備試験の論文試験は、限られた時間をどのように使うことで効率的に配点項目を網羅することができるかという、点取りゲームっぽい側面が強いです。
6.科目ごとに試験本番で留意すること(基本7科目)
憲法
- 近年の予備試験では、被侵害権利として取り上げるべき人権、規制ごとの規制目的、規制の仕組み(何のために、何を、どう規制するのか)、規制の問題点について、問題文で分かりやすく誘導してくれていますから、人権選択から当てはめに至るまで、何をどう論じるべきかについて問題文のヒントに従って考えることが極めて重要です。
- 判例の枠組みに引きずられすぎないようにしましょう。エホバの証人剣道受講拒否事件を元ネタにした令和1年でも、取材活動の制限が問われた令和2年でも、無理をして判例の判断枠組み(令和1年なら裁量論、令和2年なら博多駅事件決定の利益衡量論)をそのまま採用する必要はありません。もともと、判例と学説とでは前提としている判断枠組みが違うのですから、学説が保障→制約→違憲審査基準の定立→当てはめ(目的手段審査)という違憲審査の基本的な枠組みを採用している領域では、違憲審査の基本的な枠組みを採用して構いません。大事なことは、問題文のヒントを違憲審査の枠組みに落とし込んで答案で使いまくることです。
行政法
- 設問における論述の内容・形式・方向性に関する指示に従いましょう。
- 令和2年の公害防止協定の法的拘束力のように、記憶していないマイナー論点が出題された場合には、抽象論を飛ばしていきなり当てはめに入るのではなく、上記4の手法を用いて抽象論を示した上で当てはめに入りましょう。
- 処分の違法事由の検討において、法律構成が分からなくても、行政裁量や要件解釈による規範定立など、何らかの法律構成を示しましょう。事実の摘示・評価は、法律構成という皿の上でしなければ、ほぼ評価されません。大事なことは、法律構成の内容ではなく、法律構成を示した上で事実の摘示・評価をするという論述の形式です。
民法
- いきなり論点主義的に考えるのではなく、まずは訴訟物又は請求の根拠(請求原因の組み方)から考えましょう。請求の当否が問われている場合に限らず、請求に対する反論の当否が問われている場合も同様です。訴訟物又は請求の根拠によって、実体法上の要件、請求原因と抗弁以降の要件事実、これらに紐づけられた論点が明らかになるからです。
- ある請求や抗弁(再抗弁以下を含む)が認められるという結論を導く場合、その請求や抗弁に対応する要件を全て認定する必要があります。これに対し、ある請求や抗弁が認められないという結論を導く場合、充足しない要件のところまで検討すればよく、それ以降の要件についてまで検討する必要はありません。
もっとも、後者の場合であっても、要件検討の論理的順序を守る必要があります。例えば、不当利得返還請求なら、「利得・損失⇒因果関係⇒法律上の原因の不存在」という流れで検討する必要がありますから、法律上の原因の不存在が認められない場合であっても、利得、損失及び因果関係を先に認定する必要があります。
- 民法における現場思考問題では、条文の形式的適用による原則的結論を示す→問題文のヒントから伺われる修正の必要性(原則的結論が妥当でないという価値判断)に従って修正論の検討に入る→原則的結論を修正するための抽象論(理由+規範)を示す、という手順で処理するものもあります。
- 令和2年設問2のように、要件を一つ一つ認定することがメインで、論点はおまけにすぎないという出題もあります。こうした問題では、論点よりも、要件を網羅的に認定することを重視しましょう。
商法
- 商法の問題では、検討事項が多く最後まで書き切るのが難しいこともあります。令和2年商法も検討事項が多く、最後まで書き切るのが難しい問題でした。こうした問題では、最後まで書き切るだけで、相対評価で上に行くことができますから、とにかく最後まで書き切りましょう。
- 条文操作をする際、条文番号を指摘することは必須ですが、過剰なまでに文言を引用することにならないよう、気を付けましょう。条文の文言のうち核になっている部分さえ引用すれば足ります。答案の形式に過度に囚われるのではなく、答案の中身を優先しましょう。
- 会社法では、会社同士の関係、株主・役員の構成、公開・非公開等といった事実関係を「図」の形にして把握することが重要です。会社同士の関係、株主・役員の構成、公開・非公開等といった事実関係を「図」として一目で確認することにより、初めて気が付くことができる検討事項というものがあります。事実関係を会社法上の制度に関連付けて把握することができなければ、ちゃんと記憶していたAランクの条文・手続・論点でも落としてしまうというのが、会社法の怖いところです。
- 会社法では、利益相反取引、一人会社・一人株主間の利益相反取引、株主全員の同意、特別利害関係株主による議決権行使は、本当に落としやすいですから、必ず確認しましょう。
- 仮に手形法から出題された場合、対応できる受験生は少ないですから、仮に出来なかったとしても気にしないようにしましょう。試験は相対評価です。なお、最低限押さえておくべきポイントについては、こちらのtweetが参考になると思います。
民事訴訟法
- 予備試験の民事訴訟法は、司法試験と同じくらい難しいことがあります。試験は相対評価ですから、難しい問題が出題されても、焦らないで、今の自分が書けることをちゃんと書いてきましょう。
- 民事訴訟法では、理論体系に従って考えることが論点抽出にとって非常に有益です。例えば、「~の判決をすることができるか」という問いであれば、まずは処分権主義(246条)との関係で訴訟物レベルのことを確認し、次に弁論主義との関係で「~の判決」をするために判決の基礎にすることになる事実についての主張の要否及び有無を確認し、最後に当該事実についての証明不要効(179条)の有無を確認することになります。また、判決の拘束力が問われているのであれば、判決主文のうち訴訟物に対する判断、判例主文のうち責任に対する判断、判決理由の相殺の抗弁における自働債権(対抗額に限る)に対する判断及び判決理由のうち相殺の抗弁における自働債権(対抗額に限る)以外に対する判断のうち、どこの拘束力が問題になっているのかから考えます。
刑法
- 構成と答案作成のいずれの段階でも、客観的構成要件(主体、客体、行為、結果、因果関係)→主観的構成要件(故意、主観的違法要素)→違法性→有責性→刑罰権の発生(客観的処罰条件、一身処罰阻却事由)→刑の免除・減軽(心神耗弱、中止犯、過剰防衛など)という理論体系を意識しましょう。
- できるだけ、論点は条文の文言に引き付けて論じましょう。これにより、論点と理論体系との繋がりも明確になります。
- 刑法の問題では、検討事項が多く最後まで書き切るのが難しいこともあります。令和2年刑法も検討事項が多く、最後まで書き切るのが難しい問題でした。こうした問題では、最後まで書き切るだけで、相対評価で上に行くことができますから、とにかく最後まで書き切りましょう。
刑事訴訟法
- 当てはめでは、事実の摘示・評価を区別しましょう。その上で、個々の事実ごとの評価だけでなく、個々の事実の集積により導かれる事実群に対する評価まで書くことができれば理想的です。
- 当てはめでは、重要事実に対する評価をイメージし、稚拙な表現や分かりにくい表現になっても構いませんから、そのイメージを具体的に文章化して答案に反映しましょう。
- 限界事例における当てはめでは、結論はどちらでも構いません。採点では、結論自体ではなく、結論を導く過程が重視されますから、「確かに、… しかし、…」といった構成により、「確かに、…」のところで自分の結論を導く上で不利な事実の摘示・評価をした上で、「しかし、…」のところで自分の結論を導く上で有利な事実の摘示・評価に入ります。
- 刑事訴訟法では、推認過程を説明する場面が多いです。これが最も重視されているのが伝聞非伝聞の区別においてですが、それ以外でも重視されています。おかしな推認過程になってしまっても構いませんし、稚拙な表現や分かりにくい表現になっても構いませんから、推認過程をイメージし、それを文章として具体的に答案に反映することにより、自分がイメージした推認過程を採点者に伝えましょう。
皆様がこれまで積み上げて来たことを本試験で最大限発揮することができるよう、願っております。
予備試験論文式、頑張ってください!
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