加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

令和2年予備試験「行政法」の参考答案・解説(解説動画あり)

解説動画

解説レジュメ(問題文・解説・参考答案)を使い、問題文の読み方、現場での頭の使い方、科目ごとの答案の書き方、コンパクトなまとめ方、出題の角度といった問題の違いを跨いで役立つ汎用性の高いことについても丁寧に解説しています。

 

設問1

公害防止協定の法的拘束力に関する抽象論

設問1では、公害防止協定の法的拘束力というマイナー論点が出題されています。

公害防止協定の法的拘束力は、「公害防止協定の法的拘束力を認めることは、法律の根拠なく個人の自由を制限するものとして、法律による行政の原理に照らし、許されないのではないか」という問題意識から出発します(櫻井・橋本「行政法」第6版124~125頁)。塩野「行政法Ⅰ」第6版214頁でも、「この場合も法律による行政の原理の厳格な適用をすると、法律が規律していない場合には、法は契約方式であれ、企業活動に対する規制を否定する趣旨であるとか、法律が一定の規律をしている場合にはそれより厳しい規制を契約方式によって行うのは法律による行政の原理に反する、という議論が成り立ちうる。」とあります。

もっとも、公害防止協定は、事業者と国又は地方公共団体とが合意により締結するものであり、行政側が一方的に行うものではありませんから、法律による行政の原理に直接抵触することにはなりません。

次に、公害防止協定が実質上は権力的作用の代替物であることに着目すると、公害防止協定の法的拘束力を認めることは、規制行政の契約への逃避を一般化し拡大することにより、法律による行政の原理が蔑ろにされるおそれがあるのではないか、という問題意識が生じます。

これについては、地域住民の生命・健康を公害から守るという重大な法益の保護を目的とする公害防止協定についてその法的拘束力を認める必要性がある、企業側の自由が全面的に禁止されるわけではない、国・公共団体といえども国民と対等な法主体として現れると解さざるを得ず両者間に事実上の支配・従属関係が現れることがあるというのは私人間での契約でも同様であるといった理由から、一定の要件の下で公害防止協定の法的拘束力を認めてもよいとする見解が有力です。

最高裁判決にも、公害防止協定には一定の要件を満たせば法的拘束力が認められることを前提としたものがあります(最二小判平成21・7・10・百選Ⅰ93)。

最後に、公害防止協定に法的拘束力を認めるための要件が問題となります。

要件については、中原「基本行政法」第3版178~179頁、「行政判例百選Ⅰ」第7版事件93解説・2、及び櫻井・橋本「行政法」第6版125頁を参考にすると、①行政機関の職務の範囲内で定められたものであること、②任意の合意に基づくこと、③当該義務に関する法令の趣旨や比例原則等の一般原則に反しないこと、及び④義務の内容が具体的に特定されていることの4つが法的拘束力の発生自体に必要であると整理した上で、⑤職員の立入検査権などの強制的な行政調査について定めたり、代執行・直接強制などの義務履行確保手段を規定することと、⑥罰則を定めることは許されず、⑤・⑥に反する協定は部分的に法的拘束力が否定される、と理解することができます。

秒速・総まくり2021「行政法」テキスト61~62頁でも、上記のように整理してあります。

 問題文のヒントと設問の指示から、問題の所在を把握するとともに、要件を導く

公害防止協定については、多くの受験生がマイナー論点として認識していたと思いますから、問題の所在や要件について正確に記憶していた人は少ないと思います。

こうした問題でこそ、問題文のヒントと設問の指示から、問題の所在を把握するとともに、要件を導くという、受験技術が大事になってきます。

まず、「開発協定は、法や条例に根拠を有するものではない」との問題文と、「本件条項の性質を示した上で」との設問の記述から、法令の根拠に基づくことなくBに義務を課す本件条項は法律による行政の原理に抵触するのではないか、という問題意識が出てきます。なので、法律による行政の原理との関係で法的拘束力の有無を検討するという論証の核になっている部分には、気がつくことができます。

次に、公害防止協定の上記6要件のうち、本問で書くべき要件は①~④までです。①~④のうち、少なくとも、②と③は、問題文のヒントと設問の指示から導くことができます。

②は、「Bは、本件条項を含む開発協定の締結には当初難色を示したが、周辺住民との関係を改善することも必要であると考え、協定の締結に同意した」との問題文のヒントから、③は、「法第33条第1項及び条例の定める基準には、本件条項に関係するものは存在しない」との問題文のヒント、「法の定める開発許可制度との関係を踏まえて」との設問の指示、及び「今後一切の例外を認めない」との問題文のヒントから導くことができます。

それから、侵害行政ではなくとも法律の優位原則や比例原則等の一般原則の適用を受けることになるという基本的な論文知識があれば、自然と、③の要件が導かれるとも思います。

マイナー論点からの出題に備えるためにも、現場思考問題に対応する力を身につけるためにも、上記のように、問題文のヒントと設問の指示から問題の所在を把握したり規範を導く(規範については、ヒント・指示から想定される当てはめから逆算して導く)ための読解・思考のコツや、基本的な知識を土台として問題の所在や規範を導くという読解・思考のコツを身につけておくといいでしょう。

 

設問2

処分性の論じ方

処分性を論じる際には、処分性の判断枠組みを定立することになります。その際、いきなり「公権力性、法的効果、直接具体性」といった講学上の要件を書くのではなく、最初に「処分とは、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を画定することが法律上認められているものをいう」とする昭和39年判決の定式(最一小判昭和39・10・29・百Ⅱ148)を示した上で、これを「公権力性、法的効果、直接具体性」といった講学上の要件に置換することになります。

本問のように、法的効果やその直接具体性が無くても例外的に権利救済の必要から処分性を肯定することの可否まで検討する場合には、判断枠組みを定立する段階で「権利救済の必要」にも言及する必要があります。判断枠組みとして「公権力性、法的効果、直接具体性」についてしか言及してないにもかかわらず、当てはめでいきなり「法的効果、直接具体性」に結び付けない形で権利救済の必要性について言及すると、判断枠組みと当てはめが整合しなくなる(つまり、法的三段論法の型が崩れる)からです。

権利救済の必要性の位置づけは非常に難しく、判例も場面に応じて使い方を変えているようですが、本問では、「法的効果、直接具体性」が無い、あるいは微妙である事案において、権利救済の必要性を根拠にして処分性を認めることの可否が問題となっています。

こうした場合における権利救済の必要の使い方には、㋐「法的効果、直接具体性」が微妙であることをカバーすることにより「法的効果、直接具体性」を肯定する、㋑「法的効果、直接具体性」が無くても例外的に処分性を肯定するという、2つがあります。

病院開設中止勧告の法的効果に明言することなく権利救済の必要を強調して処分性を肯定した最二小判平成17・7・15・百選Ⅱ160について、中原「基本行政法」第3版396~397頁は㋑の理解に立っています。「行政判例百選Ⅱ」第7版事件160の角松生史解説も㋑の理解と整合的です。さらに、平成30年予備試験の出題趣旨では、勧告とその後続行為としての公表の処分性が問題となった事案において、「勧告の処分性については 「公表を受け得る地位に立たされる」という法効果が認められるか否か、条例第49条に基づく手続保障の存在が処分性を基礎付けるか否か、勧告段階での実効的な救済の必要が認められるか否か、の3点について当事者の主張を展開することが求められる。同様に、公表の処分性についても、公表のもたらす信用毀損等が法的な効果に当たるか否か、公表に制裁的機能が認められるか否か、公表に対する差止訴訟を認めることが実効的な権利救済の観点から必要か否か、の3点について当事者の主張を展開することが求められる。」とあり、ここでは法効果性と権利救済の必要が区別されているため、司法試験委員会としても㋑の理解に立っていると思われます。

本件における論点

本件通知の処分性について問題となる論点は、以下の3つであると考えられます。

1つ目は、本件通知については都市計画法でも条例でも明記されていないため、法令上の根拠を欠くとして、公権力性を欠くのではないかという点です。

これについては、法令の合理的解釈により法令上の根拠を肯定した労災就学援護費の不支給決定に関する最一小判平成15・9・4・百選Ⅱ157等を参考にしながら、論じることになると思われます。

2つ目は、本件通知そのものには法的効果又はその直接具体性を認めることはできないが、協議条項違反による開発行為の着手(条例4条違反)⇒勧告(条例10条)⇒工事中止命令(条例11条)という一連の流れを前提として、本件通知と工事中止命令との強い連動性に着目した前倒し的な法的効果の読み込みにより、「工事中止命令を受けるべき地位に立たされる」との直接具体的な法的効果を認めることができないかという点です。

これについては、土地区画整理事業計画決定の処分性を肯定した最大判平成20・9・10・百選Ⅱ152の判例理論を踏まえた検討をすることになります。この判例理論は、予備試験・司法試験で頻出です。

3つ目は、仮に本件通知と工事中止命令との間に「特段の事情のない限り、工事中止命令に至る」という強い連動性が認められないために、前倒し的な法的効果の読み込みにより「工事中止命令を受けるべき地位に立たされる」との直接具体的な法的効果を認めることができなかったとしても、権利救済の必要性から例外的に処分性を肯定することができるかという点です。

これについては、病院開設中止勧告の法効果性に明言することなく権利救済の必要を強調して処分性を肯定した最二小判平成17・7・15・百選Ⅱ160や、権利救済の必要にも言及した上で土地区画整理事業計画決定の処分性を肯定した最大判平成20・9・10・百選Ⅱ152の判例理論を踏まえて論じることになります。

この2つの判決の違いは極めて重要であり、これに関する「行政判例百選Ⅱ」第7版事件160の角松生史解説は、司法試験対策としても予備試験対策としても必読です。秒速・総まくり2021と秒速・過去問攻略講座2021ではちゃんとAランクの知識としてテキストに反映しているので、受講の方々はテキストを確認して頂ければ足ります。

なお、本件通知の直接具体的な法的効果の有無について、開発許可に係る公共施設管理者の不同意に関する最一小判平成7・3・23・百選Ⅱ156の判例理論の射程として論じる余地もあるかもしれません。例えば、平成20年司法試験憲法でも出題された通り、自主条例により都市計画法上の開発許可の要件を加重することも可能であり、本件条例4条における「事業者は、開発事業を行おうとするときは、あらかじめ、・・・協議しなければならない」という定め方からすると本件条例では事前協議を都市計画法上の開発許可の加重要件に位置づけているとみる余地もあります。このように、事前協議を都市計画法上の開発許可の加重要件に位置づけるのであれば、事前協議について、開発許可に関する手続における公共施設管理者の同意と同様の位置づけになると理解する余地があるため、開発許可に係る公共施設管理者の不同意に関する最一小判平成7・3・23・百選Ⅱ156の判例理論の射程を問題にする余地もあるわけです。

もっとも、協議条項違反の後に工事中止命令という不利益な処分が控えている事案では、平成20年司法試験や平成30年予備試験でもそうであったように、「前倒し的な法的効果の読み込みによる直接具体的な法的効果を認めることの可否(2つ目)⇒権利救済の必要から例外的に処分性を肯定することの可否(3つ目)」という構成で書くことが求められていると思われます。そのため、開発許可に係る公共施設管理者の不同意に関する判例理論の射程を論じるとしても、別途、「前倒し的な法的効果の読み込みによる直接具体的な法的効果を認めることの可否(2つ目)⇒権利救済の必要から例外的に処分性を肯定することの可否(3つ目)」について手厚く論じる必要があると考えます。

私の答案について

設問2では、「本件通知は、取消訴訟の対象となる処分に当たるか。Bの立場に立って、想定されるA市の反論を踏まえて、検討しなさい。」とあるため、Bの主張⇒A市の反論⇒自らの見解という流れで書いていますが、「Bの立場に立って」とあることから処分性を肯定したほうが無難であると考え、処分性を肯定する方向で書いています。

1つ目の論点(公権力性)については、法令の合理的解釈により法令上の根拠を肯定した労災就学援護費の不支給決定に関する最一小判平成15・9・4・百選Ⅱ157の判例理論を参考にして、条例4条の合理的解釈により「条例4条では、協議に関する手続として、事業者からの協議の申入れに対して市長がこれを受けるかどうかの通知をすることを予定していると解される。」として、公権力性を肯定しています。

通達・要綱など、上記の合理的解釈をする際の参考資料になるようなものが無いため、少し無理がある解釈かもしれませんが、処分性を認めるためにやむを得ず、上記の合理的解釈を行いました。

2つ目の論点(前倒し的な法的効果の読み込み)については、本件通知と工事中止命令との間に「特段の事情のない限り、工事中止命令に至る」という強い連動性が認められなければ、前倒し的な法的効果の読み込みにより「工事中止命令を受けるべき地位に立たされる」として直接具体的な法的効果を認めることはできません。

都市計画法及び条例を見る限り、「特段の事情のない限り、工事中止命令に至る」という強い連動性を認めることはできませんから、前倒し的な法的効果の読み込みによる直接具体的な法的効果を認めることは否定しています。

なお、2つ目に関連することとして、直接具体的な法的効果の有無の検討では、「協議を経ることができずひいては開発許可(法29条)を受けることができない」という意味で直接具体的な法的効果を認めることができるかについても言及していますが、これについては「法でも条例でも、協議を経ることは開発許可の要件とはされていない(法33条、条例4条等参照)から、本件通知には、協議ができないため開発許可の要件を満たさなくなり開発許可を受けることができなくなるという法効果は認められない。」として否定しています。もっとも、協議を経ることが開発許可の要件とされていると理解することも可能であり、仮にそのように理解したならば、開発許可に係る公共施設管理者の不同意に関する最一小判平成7・3・23・百選Ⅱ156の判例理論の射程を論じる実益が出てきます。

3つ目の論点については、処分性を認めるために、強引な当てはめをしています。

病院開設中止勧告の処分性を肯定した最二小判平成17・7・15・百選Ⅱ160は、一般化すると、法的効果を有しない行為(先行行為)であっても、㋐相当程度の確実さをもって不利益的な後続処分に至る、㋑㋐による不利益性の深刻さ、㋒㋑の取消訴訟による実効的な権利救済の困難性を要件として、実効的な権利救済を根拠として例外的に処分性が認められる、と整理することができます。

本問では、条例10条において指導・勧告の要否・内容の双方について効果裁量が認められており、条例11条でも命令の要否・内容の双方について効果裁量が認められている上、「協議条項違反の場合には勧告をし、勧告不服従のときは工事中止命令をする」旨の通達・要綱があるわけでもありませんから、「相当程度の確実さをもって工事中止命令に至る」(㋐)ことを認めるには無理があります。

もっとも、「Bの立場に立って」とあることから処分性を肯定したほうが無難であると考えたため、㋐について強引な認定をして、処分性を肯定しました。

 

参考答案

設問1

1.法律による行政の原理の下、行政活動には法律の根拠を要する。そして、自由主義的な見地からは、個人の権利を制約し、義務を課すような侵害行政について法律の根拠が必要であると解される。

 本件条項は、Bに対して、今後一切、Bは産廃物処理事業に係る開発事業をしてはならない旨の不作義務を課すものである。にもかかわらず、本件条項は、法や条例の根拠を欠くのだから、法律の根拠なくして個人に義務を課す行政活動として、法律による行政の原理に反し違法・無効になるとも思われる。

2.もっとも、本件条項は、行政が一方的に設けたものではなく、Bとの合意により定められた公害防止協定であるから、法律の根拠がなくても法的拘束力が認められるのではないか。

(1) 確かに、公害防止協定の実質が権力的作用の代替物であることに着目すると、法律による行政の原理の潜脱防止のためにその法的拘束力を否定するべきとも思える。しかし、行政契約においては国・公共団体といえども国民と対等な法主体として現れると解さざるを得ず、両者間に事実上の支配・従属関係が現れることがあるのは私人間での契約でも同様である。そこで、公害防止協定は、①行政機関の職務の範囲内で定められたものであること、②任意の合意に基づくこと、③当該義務に関する法令の趣旨や比例原則等の一般原則に反しないこと、及び④義務の内容が具体的に特定されていることを要件として、法的拘束力が認められると解する。

(2) 普通地方公共団体は、当該地域の生活環境の維持・向上を図ることもその責務の1つとしている。そのため、本件条項は、産業廃棄物処理施設から周辺地域の生活環境を守るというA市の職務の範囲内で定められたものであるといえ、①を満たす。また、Bは、当初難色を示していたものの、周辺住民との関係を改善することも必要であると考え協定の締結に同意したのだから、本件条項は任意の合意に基づくともいえ②も満たす。さらに、定められた義務の内容は、今後一切、Bは産廃物処理事業に係る開発事業をしてはならないというように、具体的に特定されており、④も満たす。

 確かに、法33条1項及び条例の定める基準には本件条項に関係するものは存在しないものの、本件条項は良好な都市環境の保全・形成という条例の趣旨に合致するものだから、条例、さらにはこれと共通する目的を有するであろう法の趣旨にも反しない。しかし、今後一切の例外を認めることなくBによる産廃物処理事業に係る開発事業を認めないというのは、あまりにも行き過ぎた内容であり、比例原則に反する。したがって、本件条項は、③を欠くため、法的拘束力が認められない。

設問2

1.「処分」(行訴法3条2項)とは、公権力の主体たる国又は公共団体の行為のうち、これによって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。これは、基本的には公権力性及び直接具体的な法的効果という要素によって判断されるが、例外的に権利救済の必要性が考慮されることもある。

2.Bは、本件通知は、市長が、協議について定めている条例4条を根拠とする優越的地位に基づき一方的に行うものだから、公権力性を有すると主張する。また、協議を経ることができずひいては開発許可(法29条)を受けることができないという意味で、あるいは開発許可後に中止命令(条例11条)が発令されて開発事業に係る工事を中止することを余儀なくされるという意味で、直接具体的な法効果性もあると主張する。

 A市は、条例4条は協議に関する手続までは定めていないから、本件通知は条例4条に基づくものとはいえず、公権力性を欠くと反論する。また、法でも条例でも協議を経ることは開発許可の要件とはされていないから本件通知には開発許可を受けることができないという法効果は認められないし、工事の中止を余儀なくされるのは中止命令の法効果であり本件通知自体の法効果ではないと反論する。

3.条例4条では、協議に関する手続について明記していない。しかし、協議は、一方からの申し入れがあり、他方がこれに応じることにより実施されるものだから、条例4条では、協議に関する手続として、事業者からの協議の申入れに対して市長がこれを受けるかどうかの通知をすることを予定していると解される。したがって、本件通知には条例4条の根拠があるから、公権力性が認められる。

 法でも条例でも、協議を経ることは開発許可の要件とはされていない(法33条、条例4条等参照)から、本件通知には、協議ができないため開発許可の要件を満たさなくなり開発許可を受けることができなくなるという法効果は認められない。また、事業者が協議をしない場合には勧告(条例10条)を経てから中止命令(11条)が発令される可能性があるものの、勧告ではなく「指導」にとどまり中止命令の要件を満たさないこともあるし、勧告後の命令が中止命令ではなく「必要な措置」に係る命令にとどまることもあるから、本件通知がなされた場合には特段の事情のない限り中止命令を受けるべき地位に立たされるとはいえない。そのため、法効果の前倒し的な読み込みにより中止命令を受けるべき地位に立たされるという直接具体的な法効果を認めることもできない。

 もっとも、最高裁判例は、病院開設中止勧告について、法効果性を否定しつつ、勧告の段階での抗告訴訟による救済の必要性を根拠として処分性を肯定している。条例4条、10条及び11条の関係からして、本件通知がなされれば相当程度の確実さをもって中止命令に至るという程度の連動性は認められる。また、工事の中止により、事業者は深刻な不利益を受ける。そして、仮に中止命令の段階で抗告訴訟を提起するしかないとなると、事業者は莫大な投資リスクを負担した上で開発許可申請をし、工事に着手せざるを得なくなる。そのため、本件通知の段階での抗告訴訟による救済の必要性が高い。したがって、本件通知には、権利救済の必要性を根拠として、例外的に「処分」性が認められると解すべきである。

※1. 参考答案は、2時間くらいで、総まくり講座及び司法試験過去問講座の内容だけで書いたものです。
※2. 答案の分量は「1枚 22行、28~30文字」の書式設定で4枚目の最終行(88行目)までで、文字数だと2400~2500文字くらいです。

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コメント

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    お世話になっております。先生の令和2年予備試験論文式試験の解説動画を視聴した上で質問がございます。
    加藤先生は解説の中でも答案の中でも、関税定率法21条3項に基づく輸入禁制品該当通知の処分性が問題になった最判昭和59年12月12日(百選「第7版]159)については言及なされていなかったと思うのですが、各予備校の解説を見ていると2社はこの判例を参考にして論じるようにと書いていました。加藤先生が今年の問題をこの判例の射程の問題として論じなかったのは何故でしょうか。
    ご回答いただけますと幸いです。宜しくお願い致します。

    • kato_admin

      最高裁昭和59年判決は、関税定率法21条3項に基づく輸入禁制品該当通知について、輸入禁制品該当通知がなされるとその後改めて輸入不許可処分がなされることはないという確立した実務の取扱いの存在を根拠として、輸入禁制品該当通知は「輸入申告に対する行政庁側の最終的な拒否の態度を表明するもの」であり「実質的な拒否処分(不許可処分)として機能している)」と理解することにより、同通知により輸入許可がなければ貨物を適法に輸入することができないという法律の規定による一般的・抽象的な作用が直接具体的な法律効果に転化変質することを認め、処分性を肯定しています。

      令和2年予備試験行政法設問1では、本件通知がなされた場合にはその後改めて開発不許可処分がされることはないという取扱いの存在が全く窺われないこと、後続行為として工事中止命令という不利益処分が予定されているため「前倒し的な法的効果の読み込みによる直接具体的な法的効果の肯定の可否⇒権利救済の必要性から例外的に処分を肯定することの可否」という平成20年司法試験設問1・平成30年予備試験設問1の問題意識に従って書くことが予定されていると思われることから、「実質的な拒否処分(不許可処分)」であるとして処分性を肯定することの可否については検討しておりません。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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