論文試験では、知らない論点が出題されることもあります。現場思考論点が出題されることもありますし、自分が知らない既存論点が出題されることもあります。
知らない論点が出題された場合でも合格水準の答案を書くことができるように、”知識”以外の”技術”を身につけておくことが重要です。
短期合格を目指すためにも、上位合格を目指すためにも、知らない論点が出題された場合における対処法をしっかりと確立しておくことは重要です。
以下が今回紹介する対処法です。
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- 理由⇒規範という構造の”論証”を書く(法的三段論法の形式を守る)
- 問題文のヒントから出題者が想定している当てはめを把握し、その当てはめがしやすい”規範”を考える
- 頭の中にある条文・論点に関する知識を総動員して、規範を導く”理由”を考える
このように、当てはめ⇒規範⇒理由という思考過程を辿って、法的三段論法における全前提である論証を導くことになります。
論点によっては、理由⇒当てはめ⇒規範という思考過程を辿ったほうが論証を導き易いこともあります。
既存論点では、理由⇒規範⇒当てはめという思考過程を辿るのが通常だと思いますが、知らない論点では、「当てはめ⇒規範⇒理由」又は「理由⇒当てはめ⇒規範」という思考過程になります。
法律の世界は、論理が結論に先行している物理数学等の世界とは異なります。
書く流れと思考の流れは必ずしも一致しません。
論理的思考力よりも、問題文のヒントから出題者が求めている当てはめを読み取る読解力と、その当てはめをしやすい抽象論を考えて文章化するために必要な思考力と文章力が大事です。
以下では、令和2年予備試験民法設問1に関する2つの答案例を使って、知らない論点で合格水準の答案を書くための対処法について具体的に説明いたします。
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(問題)
【事実】
1.Aは、早くに夫と死別し、A所有の土地上に建物を建築して一人で暮らしていた(以下では、この土地及び建物を「本件不動産」という。)。Aは、身の回りのことは何でも一人で行っていたが、高齢であったことから、近所に住むAの娘Bが、時折、Aの自宅を訪問してAの様子を見るようにしていた。
2.令和2年4月10日、Aの友人であるCがAの自宅を訪れると、Aは廊下で倒れており、呼び掛けても返事がなかった。Aは、Cが呼んだ救急車で病院に運ばれ、一命を取り留めたものの、意識不明の状態のまま入院することになった。
3.令和2年4月20日、BはCの自宅を訪れ、Aの命を助けてくれたことの礼を述べた。Cは、Bから、Aの意識がまだ戻らないこと、Aの治療のために多額の入院費用が掛かりそうだが、突然のことで資金の調達のあてがなく困っていることなどを聞き、無利息で100万円ほど融通してもよいと申し出た。
そこで、BとCは、同日、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸すことに合意し、CはBに100万円を交付した(以下では、この消費貸借契約を「本件消費貸借契約」という。)。本件消費貸借契約締結の際、BはAの代理人であることを示した。Bは、受領した100万円をAの入院費用の支払に充てた。
4.令和2年4月21日、Bは、家庭裁判所に対し、Aについて後見開始の審判の申立てをした。令和2年7月10日、家庭裁判所は、Aについて後見開始の審判をし、Bが後見人に就任した。そこで、CがBに対して【事実】3の貸金を返還するよう求めたところ、BはAから本件消費貸借契約締結の代理権を授与されていなかったことを理由として、これを拒絶した。
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〔設問1〕
Cは、本件消費貸借契約に基づき、Aに対して、貸金の返還を請求することができるか。
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(答案1)最高裁平成6年判決を踏まえた論証を書いた答案
設問1
1.Cは、Bとの間で、BをAの代理人として、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸す旨の本件消費貸借契約(民法587条)を締結し、同契約に基づき100万円をBに交付した。BがAの代理人として100万円を受領したことをもって、要物性も満たす。したがって、上記契約が成立する。では、契約の効果はAに帰属するか。
2.Bは、Aから代理権を授与されていないのに、Aの代理人として上記契約を締結している。したがって、上記契約は無権代理行為となり、本人Aの追認がない限り、Aに効果帰属しないのが原則である(113条1項)。
3.もっとも、上記契約後、BはAの後見人に就任することで、上記契約の追認又はその拒絶をする権限を取得している(859条1項)。そこで、無権代理人Bは後見人として上記契約の追認を拒絶することができなくなり、その結果としてAに効果帰属するということにならないか。
(1) 後見人には、成年被後見人の利益のための裁量行使が要請される一方で、取引安全等の相手方の利益にも相応の配慮をすることが要請される。そこで、後見人が、後見人就職前に成年被後見人を本人として行われた無権代理行為について追認を拒絶することは、それが取引関係に立つ当事者の信頼を裏切り、正義の観念に反するような例外的場合には、信義則違反として許されないと解する。
(2) Bは、自らAの代理人として上記契約を締結し、100万円を受領しているから、無権代理行為への関与が極めて強い。また、Bは、Aの娘としてAと密接な人的関係にある上、後見開始の審判を申立てることで自らの意思で後見人に就任している。このようなBが後見人として追認を拒絶することはCにとっては全くの予想外のことであるから、Cの取引上の信頼を著しく害することになる。他方で、上記契約に係る利益が全てAに帰属しているため、追認拒絶を否定してもAの利益を害する程度は小さい。したがって、Bが追認を拒絶することは、それが信義則に反する例外的場合に当たるといえ、許されない。よって、上記契約の効果がAに帰属する。
以上より、「相当の期間を定めて返還の催告」及びその期間の経過があれば(591条1項)、Cの請求が認められる。
※(答案1)では、解説の便宜上、「事務管理者が本人名義でした法律行為の効果帰属」に関する論点は飛ばしています。
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(答案2)その場で論証を捻り出して書いた答案
設問1
1.Cは、Bとの間で、BをAの代理人として、返還の時期を定めずに、CがAに100万円を貸す旨の本件消費貸借契約(民法587条)を締結し、同契約に基づき100万円をBに交付した。BがAの代理人として100万円を受領したことをもって、要物性も満たす。したがって、上記契約が成立する。では、契約の効果はAに帰属するか。
2.Bは、Aから代理権を授与されていないのに、Aの代理人として上記契約を締結している。したがって、上記契約は無権代理行為となり、本人Aの追認がない限り、Aに効果帰属しないのが原則である(113条1項)。
3.もっとも、上記契約後、BはAの後見人に就任することで、上記契約の追認又はその拒絶をする権限を取得している(859条1項)。そこで、無権代理人Bは後見人として上記契約の追認を拒絶することができなくなり、その結果としてAに効果帰属するということにならないか。
(1) 確かに、自ら無権代理行為を行った後見人が本人を代理して追認を拒絶することは、無権代理人が本人と単独相続した場合と同様、信義則違反として許されないとも思える。しかし、後見人が本人の利益を図ることを内容とする善管注意義務を負う立場にある(852条・644条)ことからすれば、後見人による追認拒絶の余地を認めるべきである。そこで、本人の利益よりも相手方の利益を優先するべき事情がなければ、後見人による追認拒絶が認められると解する。
(2) Bは、自ら無権代理行為を行ったものである上、後見開始の審判を申立てることで自らの意思で後見人に就任している。このようなBが後見人として追認を拒絶することはCにとっては全くの予想外のことである。他方で、上記契約に係る利益が全てAに帰属しているため、追認拒絶を否定してもAの利益を害する程度は小さい。そのため、Aの利益よりもCの取引安全を優先するべき事情が認められる。したがって、Bによる追認拒絶は許されず、その結果、上記契約の効果がAに帰属する。
以上より、「相当の期間を定めて返還の催告」及びその期間の経過があれば(591条1項)、Cの請求が認められる。
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「無権代理行為に関与した後見人による追認拒絶の可否」という論点(最一判平H5・1・21・百Ⅰ36)を知らない場合、①論証を作る際の土台になりそうな関連論点の有無と、②問題の所在及び出題者が求めている当てはめについて考えます。
まず、①関連論点としては、「本人を単独相続した無権代理人による追認拒絶の可否」という論点(最二判S37・4・20・百Ⅰ35)があります。本判決は、本人を単独相続した無権代理人による追認拒絶は信義則上許されないとして、無権代理行為は相続とともに当然に有効になると解しています。
上記の論点及び判例の立場を想起したら、「本人を単独相続した無権代理人による追認拒絶の可否」と「無権代理行為に関与した後見人による追認拒絶の可否」の違いの有無・程度を踏まえて、前者の判例理論をそのまま後者に適用できるかについて考えます。
後者では、追認拒絶をしようとしている後見人が本人の利益を図ることを内容とする善管注意義務を負う立場にあります(852条・644条)から、無権代理人による追認拒絶を一律に否定する前者の判例理論をそのまま後者に及ぼすことはできません。
そうすると、論証では、㋐「確かに、自ら無権代理行為を行った後見人が本人を代理して追認を拒絶することは、無権代理人が本人と単独相続した場合と同様、信義則違反として許されないとも思える。」と書いた上で、㋑「しかし、後見人が本人の利益を図ることを内容とする善管注意義務を負う立場にある(852条・644条)」ということを理由として、後見人による追認拒絶を余地を認める、という流れになると考えることができます。
次に、②後見人による追認拒絶を肯否を判断するための規範定立ついて考えることになります。ここでは、問題の所在、及び問題文から窺われる出題者が想定している当てはめを踏まえて、これらが反映された形の規範を定立することになります。
問題の所在は、本人の利益と相手方の利益の優劣です。出題者が想定している当てはめについては、BがAの入院費用を調達するために無権代理行為に及びCから受領した100万円を全てAの入院費用に充てた(無権代理行為による利益が全てAに帰属しているため、追認拒絶を否定してAの返還義務を肯定しても、Aはさほど大きな不利益を被らない)、Bが自ら無権代理行為を行った上で自ら後見開始の審判の申し立てをした(このようなBが後見人として追認を拒絶することはCにとっては全くの予想外のことである)という事実に着目して、Aの利益よりもCの利益を優先するためにBによる追認拒絶を否定するべきである、と考えることができます。
そこで、上記の問題の所在と当てはめを踏まえて、「本人の利益よりも相手方の利益を優先するべき事情がなければ、後見人による追認拒絶が認められると解する。」という規範を定立することになります。
3の論点だけでなく論点に辿りつくまでの1・2も大事であることも踏まえると、1・2について正確に論じた上で、3について(答案2)のように書くことができていれば、予備試験論文でA評価に入るのは難しいとしても、B評価に入る余地はあると思います。
知らない論点が出題された場合における対処法として、参考にして頂きたいと思います。
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