加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

試験本番で必要とされる読解・思考 その4

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「試験本番で必要とされる読解・思考 その4」では、「憲法の人権選択」の判断で必要とされる読解・思考のコツについて、平成23年司法試験憲法及び平成30年司法試験憲法を取り上げて説明いたします。

平成23年司法試験憲法

 インターネット上で地図を提供している複数の会社は、公道から当該地域の風景を撮影した画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図の任意の地点を選びクリックすると、路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り替わる。
 ・・・中略・・・
 インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して、会社側は、基本的には、公道から見えているものを映しているだけであり、言わば誰もが見ることのできるものなので、プライバシー侵害とはいえない、と主張している。特にX社は、以下のように、より積極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず、その情報は、ユーザー自身がそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので、ユーザーの利便性の向上に役立つ。また、それは、不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未然に防止できるなど、社会的意義を有する。
・・・中略・・・ Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。
 20**年に、国会は、「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律」(以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は、システム提供者に対し、Z機能画像をインターネット上に掲載する前に、A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参照)。また、法は、システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は、Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは、法に定める手続に従って被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。
 法が制定されてから、多くの会社は、法の定める遵守事項を守り、また個別の苦情に応じて必要な修正を施している。X社も、人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナンバープレートについてはマスキングを施し、車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しかし、X社は、家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については、法で具体的に明記されていないとして、修正しなかった。数件の申立てに応じて、X社に対して、そのような画像に必要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし、X社は、それらの修正を行わなかった。その結果、X社は、A大臣から、行政手続法の定める手続に従って、特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。

本問では、「公道から当該地域の風景を撮影したZ機能画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービス」を規制する法律の憲法21条1項適合性(法令違憲)及びX社に対する同法に基づく中止命令の憲法21条1項適合性(適用違憲)が問題となっています。

試験当時、設問1でX社に主張させる憲法上の権利として、「表現の自由」(憲法21条1項)ではなく、営業の自由(憲法22条1項)を選択した答案も相当数あります。

平成23年司法試験の出題趣旨・採点実感では、設問1で営業の自由を選択した答案について、次のように批判されています。

”  確かに、本問の法律によってX社は、営業の自由も制約される。とりわけ国家賠償請求訴訟も提起するならば、経済的損失に関わる営業の自由への制約の違憲性・違法性を主張することが理論的に誤っているとはいえない。しかし、本問でその合憲性が争われる法律は、許可制を採るものではない。そして、営業の自由とプライバシーの権利との比較衡量において、前者が優位することを説得力を持って論証することは、容易ではない。この点では、言わば「憲法訴訟」感覚が問われているといえるであろう。”(出題の趣旨)

”  X社の主張で「表現の自由」を記載せず、「営業の自由」あるいは「ユーザーの知る権利」のみを記載する答案が、相当数あった。原告にとってどちらを主張するのが望ましいかを検討する観点が欠けているように思われる。原告の主張としてわざわざ「弱い権利」を選択するセンスの悪さは、結局のところ訴訟の当事者意識が欠けていることに結び付くように思われる。”(採点実感)。

確かに、特に三者間形式の問題では、設問1の原告側の主張における権利選択の際には、「厳格な審査基準を導き得るか」という視点も重要です。

しかし、厳格な審査基準を導き得るのは、表現の自由に限られませんから、「厳格な審査基準を導き得るか」という視点では、本問で被侵害権利として選択するべき権利を絞り込むことができません。

しかも、厳格な審査基準を導き得るかという視点は、平成30年以降の法律意見書形式ではその重要性がやや低下しますから、法律意見書形式でも役に立つ権利選択の視点を身につけておく必要があります。

設問1でX社側に主張させる権利として「表現の自由」を選択する最も重要な根拠は、問題文のヒントにあります。

司法試験・予備試験の論文試験では、何について・どう論じるのかは、第一次的には、問題文のヒントを根拠として判断するべきです。

問題文には、『特にX社は、以下のように、より積極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず、その情報は、ユーザー自身がそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので、ユーザーの利便性の向上に役立つ。また、それは、不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未然に防止できるなど、社会的意義を有する。』というように、Z機能画像(規制対象)が受け手に奉仕するという事情に問題文にたくさん書いてあります。

そこで、X社としては、「報道機関の報道」について「国民の知る権利に奉仕する」ものであることを理由に憲法21条1項により直接保障されるとした博多駅事件決定・最大決昭和44・1・26・百Ⅰ73の判例理論を踏まえて、Z機能機能をインターネット上で公開することについても、受け手に奉仕するものであることを理由に憲法21条1項で直接保障することができると主張することになります。

本問における権利選択に関する思考過程をまとめると、次のようになります。

  • 確かに、理論上は「営業の自由」を問題にすることも可能である(憲法22条1項の保護領域と制約を満たす)(=理論的許容性)
  • しかし、三者間形式では違憲の結論に向けられた原告側の主張から論述が始まるにもかかわらず、「表現の自由」を問題にする余地がある事案でわざわざ負け筋の「営業の自由」の侵害を主張させるというのは、違憲の結論に向けられた主張を展開することが求められている原告側の論述としておかしい(=訴訟当事者としての視点)。
  • しかも、問題文には、原告側の言い分として、Z機能画像がこういった意味で受け手に奉仕するのだということが具体的に書かれており、受け手に奉仕するという観点から「表現の自由」としての保障について論じてほしいというヒントがあるのだから、「表現の自由」を飛ばしていきなり「営業の自由」で論じることは解答筋として予定されていない(=問題文ヒントから考える・空気を読む姿勢)


平成30年司法試験憲法

〔第1問〕(配点:100)
 20**年、A市では、性的な画像を含む書籍の販売等の在り方に対し、市民から様々な意見や要望があることを踏まえ、新たな条例の制定が検討されることとなった。この条例の検討に関わっている市の担当者Xは、憲法上の問題についての意見を求めるため、条例案を持参して法律家甲のところを訪れた。【別添資料】は、その条例案の抜粋である。法律家甲と担当者Xとの間でのやり取りは以下のとおりであった。

甲:新しい条例が検討されているのはどのような理由からですか。
 …中略…
X:…中略…青少年の健全な育成とともに、羞恥心や不快感を覚えるような卑わいな書籍等が、それらをおよそ買うつもりのない人たちの目に、むやみに触れることがないようにすることもねらいです。
甲:具体的にはどのようなものを規制の対象とするのですか。
X:規制の対象となる図書類は、この条例案の第7条に記載しています。日々発行される様々な出版物等を適切に規制の対象とするため、市長等が規制の対象となる図書類を個別に指定することとはせず、要件に該当する図書類が自動的に規制の対象となるようにしました。
 …中略…
甲:規制の内容、方法はどのようなものですか。
X:第8条に4種類の規制を定めています。まず、通常のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなど、市民が食料品などの日用品を購入するために日常的に利用する店舗に規制図書類が置かれていると、青少年の健全な育成にとっても、市民が性的なものに触れることなく安心して生活できる環境の保持という点でも、望ましくありませんので、そのような店舗に規制図書類が並ばないようにする必要があります。そのため、第8条第1項で、主に日用品等を販売する店舗における規制図書類の販売や貸与を禁止しています。次に、第8条第2項で、小学校、中学校、高等学校などの敷地から200メートルの範囲を規制区域とし、事業者が、その区域内において規制図書類の販売や貸与をすることを禁止します。規制区域では、事業者は、青少年に限らず、誰に対しても、店舗で規制図書類の販売や貸与をすることができないこととなります。児童・生徒らが頻繁に行き来する範囲にそのような店舗が存在することは望ましくないという市民の声に応えるためです。これらの規制の下でも、第8条第1項に当たらない事業者の店舗、つまり、日用品等の販売を主たる業務としていない事業者の店舗については、第8条第2項の規制区域の外であれば、規制図書類の販売や貸与ができます。そこで、第8条第3項で、青少年に対する規制図書類の販売や貸与を禁止し、さらに、第8条第4項で、規制図書類の販売や貸与をする店舗内では、規制図書類を壁と扉で隔てた専用の区画に陳列することなどを義務付けます。
 …中略…
甲:この条例によって、これまで規制図書類の販売や貸与をしていた事業者には、どの程度の影響が及ぶことになるのでしょうか。
X:市内には、小売店が約3000店舗あるのですが、そのうち、第8条第1項に該当する日用品等の販売を主たる業務とする店舗は約2400店舗あります。この第8条第1項に該当する店舗のうち、約600店舗が規制図書類を販売しています。もっとも、これらの店舗は、主に日用品等を扱っていますから、規制図書類の売上げが売上げ全体に占める割合は微々たるものです。また、第8条第2項によって規制図書類の販売や貸与をする事業が禁止される規制区域が市全体の面積に占める割合は20パーセント程度で、市内の商業地域に限っても、規制区域が占める割合は30パーセント程度です。市内の規制区域にある店舗は約700店舗で、そのうち規制図書類の販売や貸与をする店舗は約150店舗あります。しかし、その約150店舗のうち、規制図書類の売上げが売上げ全体の20パーセントを超えるのは、僅か10店舗に過ぎません。
 …中略…
甲:条例案の内容は分かりました。
X:いろいろな意見がありますし、規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが、条例でこのような規制をすることは、憲法上、問題があるでしょうか。
甲:規制の対象となる図書類の範囲や、規制の手段、内容について、議論があり得ると思います。図書類を購入する側と販売等をする店舗の双方の立場でそれぞれの権利を検討しておく必要がありそうですね。図書類を購入する側としては、規制図書類の購入等ができない青少年と18歳以上の人を想定しておく必要があります。また、販売等をする店舗としては、条例の規制による影響が想定される3つのタイプの店舗、すなわち、第一に、これまで日用品と並んで規制図書類を一部販売してきたスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗、第二に、学校周辺の規制区域となる場所で規制図書類を扱ってきた店舗、第三に、規制図書類とそれ以外の図書類を扱っている書店やレンタルビデオ店を考えておく必要があるでしょう。

〔設問〕 あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合、本条例案の憲法上の問題点について、どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が、いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にした上で、参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。

本問では、本条例案の合憲性について、「図書類を購入する側」と「販売等をする店舗」の双方の権利との関係で検討することが求められています。

そして、出題趣旨・採点実感によると、規制図書類の「販売等をする店舗」の権利としては、営業の自由(憲法22条1項)を選択することが解答筋として示されています。

平成23年司法試験における「厳格な審査基準を導きやすい強い権利を選択する」という視点からは、弱い権利である営業の自由ではなく、表現の自由を選択することになるはずです。

もっとも、問題文には、店舗側の不利益としては売上減少等の経済的不利益しか書かれていない上、規制図書類の販売等が「受け手に奉仕する」だとか「店舗側の思想・意見の発表としての側面がある」といったことも書かれていません。

店舗側の権利について、営業の自由ではなく、敢えて「表現の自由」として構成するべきことを窺わせるヒントが、問題文に一切ないわけです。

ここが、平成23年司法試験憲法との大きな違いです。

したがって、平成30年司法試験憲法では、店舗側の権利としては、「表現の自由」ではなく、営業の自由を選択することになります。

以上が、「憲法の人権選択」の判断で必要とされる読解・思考のコツについてです。

次回、「試験本番で必要とされる読解・思考 その5」では、「結論の方向性」を判断するための読解のコツについて、平成28年司法試験民法設問2(3)を使って説明いたします。

 

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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