加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

試験本番で必要とされる読解・思考 その3

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「試験本番で必要とされる読解・思考 その3」では、「現場思考論点における問題の所在の把握と抽象論の構築」に必要とされる読解・思考のコツについて、令和1年司法試験民事訴訟法設問1を使って説明いたします。

令和1年司法試験民事訴訟法設問1

【事例】
 Xは、A県A市(以下「A市」という。)に住む会社員であり、夫と3人の小学生の子供がいる。X一家はキャンプ好きのアクティブな一家である。Yは、自動車製造会社であるS社の系列会社であり、S社の製造するワゴン車等をキャンピングカーに改造して販売している。Yは、本店がB県B市(以下「B市」という。)にあり、全国各地に支店を有する。
 Xは、ある日、A市内にあるYのA支店において、Yとの間で、甲というシリーズ名の新車のキャンピングカーを400万円で買うとの売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し、400万円を支払った。Xは、本件契約を締結する際、YのA支店の従業員から、甲シリーズのキャンピングカーは、耐荷重180kgの上段ベッドシステムがリビング部の上に設置されており、成人男性で言えばリビング部に3名、上段ベッドに2名の合計5名が就寝可能であるという仕様(以下「本件仕様」という。)を有しているとの説明を受けた。また、本件契約の対象となるキャンピングカーが本件仕様を有することは、本件契約の契約書にも明記されていた。
本件契約の契約書は、Yが用意したものであり、そこには他に「本件契約に関する一切の紛争は、B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との定め(以下「本件定め」という。)が記載されていた。B地方裁判所は、Yの本店があるB市を管轄する裁判所である。
 Xは、本件契約に定められた納入日にキャンピングカーの引渡しを受けた(以下、Xが引渡しを受けたキャンピングカーを「本件車両」という。)。引渡しを受けた当日、Xの子供3人が本件車両の上段ベッドに乗ったところ、この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段ベッドが落下した(以下、この事件を「本件事故」という。)。幸い3人の子供にけがはなかったが、本件事故により5名が就寝可能なキャンピングカーとして本件車両を利用することが不可能になった。XがYに本件車両の引取りと本件車両の代わりに本件仕様を有する別のキャンピングカーの引渡しを要求したところ、YのA支店の従業員は、子供が上段ベッド上で激しく動き過ぎたために仕様上の想定を超えた負荷が掛かり上段ベッドが落下したのではないかなどと主張し、これに応じなかった。そのため、Xは、以後、本件車両を自宅車庫にて保管している。
 Xの委任を受けた弁護士Lは、Xの訴訟代理人として、Xを原告、Yを被告とし、履行遅滞による本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行として支払済みの代金400万円の返還を求める訴えを、A市を管轄するA地方裁判所に提起し(以下、この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という。)、訴状において以下の①から⑦までの事実を主張した。
 …中略…
 Yは、本案について弁論する前に、A地方裁判所に対し、本件定めによりB地方裁判所のみが管轄裁判所となるとして、民事訴訟法第16条第1項に基づき、本件訴訟をB地方裁判所に移送するよう申し立てた。
 なお、Xの居住地、Lの事務所、YのA支店及びA地方裁判所は、いずれもA市中心部にあり、Yの本店及びB地方裁判所は、いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距離は、約600kmであり、新幹線、在来線等の公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かる。

 以下は、Lと司法修習生Pとの間の会話である。
L:Yの移送申立てに対して反論をする必要がありますが、反論にはどのような理由が考えられますか。
P:Yは、本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とすると解釈しているようですが、本件定めがそのような内容の定めではないという理由が考えられます。
L:そうですね。そこで、Yの解釈の根拠も踏まえつつ、本件定めの内容についてYの解釈とは別の解釈を採るべきだとの立論を考えてください。これを課題⑴とします。ところで、本件定めの内容についてのYの解釈を前提とすると、民事訴訟法第16条第1項が適用され、Xとしては、本件訴訟の移送を受け入れなければならないのでしょうか。
P:Xとしては何とかしてA地方裁判所での審理を求めたいところだと思います。
L:そうですね。本件定めの内容についてのYの解釈を前提とするとしても、本件訴訟はA地方裁判所で審理されるべきであるとの立論を考えてください。これを課題⑵とします。本件の事例に即して検討することを心掛けてください。

〔設問1〕
 あなたが司法修習生Pであるとして、Lから与えられた課題⑴及び課題⑵について答えなさい。

 

分からない問題でも合格答案を書くためのコツ


設問1では、管轄が出題されました。

設問1の課題(1)では、「本件契約に関する一切の紛争は、B地方裁判所を第一審裁判所とする」旨の本件定めの解釈(専属的管轄合意か付加的管轄合意か)が、課題(2)では、専属的合意であるとの解釈を前提とした場合にA地裁に提起された本件訴訟をA地裁で審理してもらうための法律構成が問われています。

受験者の方々の中には、専属的管轄合意・付加的管轄合意という用語を知らなかった方もいると思います。

課題(2)で何を書けばいいのか思いつかなかったという方もいると思います。

類似の出題が昭和61年旧司法試験第2問で出題されているとはいえ、マイナー分野からの出題に備えて旧司法試験過去問を網羅的にやり込む余裕はないという方もいると思います。

そこで、本記事では、分からない問題でも合格答案(さらには、上位答案)を書くための読解・思考のコツについて説明いたします。

そのコツは、問題文・条文・法解釈に対して忠実になる、ということです。

 

課題(1)


•  問題文から、状況設置と何がどう問われているのかを確認する(読解)

まず、問題文をちゃんと読み、どういう状況下で、何がどう問われているのかをちゃんと確認する必要があります。

本問では、「本件契約に関する一切の紛争は、B地方裁判所を第一審裁判所とする」旨の本件定めがあるにもかかわらず、「本件契約に関する」本件訴訟がA地裁に提起されています。

被告Yは、本件定めについて、「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とする」ものであると解釈しています。

この状況下で、「本件定めがそのような内容の定めではないという理由」、具体的には「Yの解釈の根拠も踏まえつつ、本件定めの内容についてYの解釈とは異なる別の解釈を採るべきだとの立論を考え」ることが問われています。

つまり、課題(1)で求められているのは、①「本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とする」「Yの解釈の根拠を踏まえつつ」、②「Yの解釈とは別の解釈」、すなわち本件定めが「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除する」ものではないとの解釈を立論することです。

•  問われている①・②に解答するための法律構成を考える(思考)

次に、問われている①・②に解答するための法律構成が脳内検索でヒットしないのであれば、六法を参照し、使えそうな条文を探します。

課題(1)では、管轄の合意の解釈が問われているのですから、とりあえず、六法の管轄に関する条文にざっと目を通します。

そうすると、民事訴訟法11条を見つけることができると思います。

本件定めが民事訴訟法11条の要件を充足することが分かります。

問題文で「解釈」が問われていることからしても、本件定めの有効・無効ではなく、有効であることを前提とした「解釈」が問われているということが分かります。

もっとも、これ以上のことは、民事訴訟法11条から導き出すことは出来ません。

そこで、もう一度、問題文に立ち返ります。

問題文には、㋐本件定めが設けられている「本件契約の契約書は、Yが用意したものであ」ること、㋑「Xの居住地、Lの事務所、YのA支店及びA地方裁判所は、いずれもA市中心部にあり、Yの本店及びB地方裁判所は、いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距離は、約600kmであり、新幹線、在来線等の公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かる。」という事情があります。

㋑は、Yの解釈を前提として本件定めが適用されると、民事訴訟法16条1項に基づき本件訴訟がA地裁からB地裁に移送されることになり、Aが多大な訴訟追行上の負担を負うことになることを意味しています。

㋐は、企業Yが一般消費者Aに押し付けている等しい本件定めにより㋑の負担が発生することになる、ということを意味しています。

そうすると、㋐・㋑により、Yの解釈を前提として本件定めが適用されるのでは訴訟当事者であるAY間の衡平に反する、という観点を導き出すことができます。

本件定めについて、①「Yの解釈の根拠を踏まえつつ」、②本件定めが「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除する」ものではないとの解釈を立論する際には、訴訟当事者間の衡平という観点を援用して、解釈論及び当てはめを展開することになります。

•  求められている当てはめから逆算して規範を定立する(思考)

これは、厳密には、思考だけでなく、書き方にも関係することかもしれません。

自分が知っている論点では「理由⇒規範⇒当てはめ」という思考の流れでも構いませんし、それが通常だと思います。

もっとも、現場思考論点を含め、自分が知らない論点では、「当てはめ⇒規範⇒理由」という思考の流れの方が使いやすいです。

問題文のヒントから出題者が求めている当てはめを把握し、その当てはめをしやすい規範を考え、それを導くための理由を考える、という流れです。

例えば、課題(1)であれば、問題文の㋐・㋑の事情から、Yの解釈を前提として本件定めが適用されるのでは訴訟当事者であるAY間の衡平に反するとして、本件定めが「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除する」ものではないと解釈することが、出題者が求めている当てはめです。

こうした当てはめをすることができるよう、例えば、「法定管轄裁判所が複数あるにもかかわらず、当事者間で特定の裁判所についてのみ合意している場合には、原則として、他の裁判所を管轄裁判所から排除する旨の合意がなされたものと解される。もっとも、当事者間の衡平の観点から、他の裁判所を管轄裁判所から排除するものではないと解釈されることもあると解すべきである」という抽象論を展開します。

上記の「 」内では、専属的管轄合意・付加的管轄合意という専門用語を敢えて使っておりません。

これらの専門用語を知らなくても、問題文のヒントから、状況設定、問題の所在、結論の方向性、及び当てはめの中身を読み取ることができれば、求められている検討の方向性と中身に合わせる形で上記の「 」内の抽象論を導き出すことができます。

あとは、問題文の㋐・㋑の事情を「 」内の規範に当てはめることで、本件定めが「A地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除する」ものではないと結論を導くだけです。

このように、問題文のヒントから検討の方向性と中身を読み取り、それに合わせる形で抽象論を導くというように、結論や当てはめ⇒抽象論、という流れで考えると、分からない問題でも合格水準の論述をすることができます。

法律の世界は、論理が結論に先行している物理数学等の世界とは異なりますから、書く流れと思考の流れは必ずしも一致しません。

論理的な思考力よりも、問題文のヒントから出題者が求めている結論や当てはめを読み取る読解力、その当てはめをしやすい抽象論を考えるための思考力、考えたことを文章化するための文章力が大事です。

 

課題(2)


•  問題文から、状況設置と何がどう問われているのかを確認する(読解)

再現答案を見てみると、課題(2)の解答として、問題文の㋑の事情を使って、民事訴訟法17条の適用要件である「当事者間の衡平を図るために必要があると認めるとき」の当てはめをすることができている答案は多いです。

もっとも、民事訴訟法17条を直接適用してしまっている答案も多いです。

ここでも、問題文をちゃんと読み、どういう状況下で、何がどう問われているのかをちゃんと確認する必要があります。

状況設定は以下の4つです。

㋒「本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とする」「Yの解釈を前提とする」
㋓「本件契約に関する紛争」に係る本件訴訟がA地裁に提起されている
㋔「Yは、・・民事訴訟法第16条第1項に基づき、本件訴訟がB地方裁判所に移送するよう申し立てた」
㋕移送が認められると訴訟当事者間の衡平に反する事態となる(前記㋑に対応する)

この状況下で、「本件訴訟はA地方裁判所で審理されるべきであるとの立論を考える」ことが求められています。

問題文では「Yの解釈を前提とする」と指示があるため、本件定めの無効という法律構成は求められていないことが窺われます。

本件定めが有効である以上、「訴訟がその管轄に属する場合」に該当せず民事訴訟法17が直接適用される場面ではないことと、本件「訴訟の全部・・がその管轄に属しない」として民事訴訟法民訴法16条1項の適用要件を形式的に満たすことが分かります。

そうすると、訴訟当事者間の衡平という観点から、民事訴訟法16条1項に基づく移送を制限することの可否が問われている、ということに気が付くことができると思います。

•  民事訴訟法16条1項に基づく移送を制限するための法律構成を考える(思考)

次に、訴訟当事者間の衡平という観点から民事訴訟法16条1項に基づく移送を制限するための法律構成を考えることになります。

いきなり㋑・㋕の事情を使って衡平の観点から民事訴訟法16条1項に基づく移送を制限するべきであると書くのは、乱暴すぎます。

論文試験の基本は、条文と法解釈による解決です。

条文の形式的適用による帰結(民事訴訟法16条1項の要件充足、同法17条の要件不充足ゆえ、本件訴訟がB地裁に移送されること)が訴訟当事者間の衡平に反するという原則的帰結の不都合性を踏まえて、訴訟当事者間の衡平を保つための法解釈を展開することになります。

法解釈を展開する際には、(ⅰ)条文を出発点として、(ⅱ)条文の趣旨に言及し、(ⅲ)条文の趣旨を反映した規範を定立するということが重要です。

分からない問題こそ、上記(ⅰ)~(ⅲ)という法解釈の作法に立ち返りましょう。

正解筋に乗ることができるかどうかよりも、上記(ⅰ)~(ⅲ)という法解釈の作法に従って対応する姿勢が試されていると考えるべきです。

例えば、仮に本件訴訟がB地裁に提起されていれば民事訴訟法17条1項に基づき本件訴訟がA地裁に移送されていた可能性が相当程度あります。

そうすると、本件訴訟がA地裁に提起されたかB地裁に提起されたかで本件訴訟がA地裁で審理されるかどうかの結論が変わるのはおかしいのではないか、という価値判断が生じます。

民事訴訟法17条1項を読むと、移送要件の1つとして「当事者間の衡平を図る・・」というキーワードを見つけることができます。

そこで、訴訟当事者間の衡平という観点から民事訴訟法16条1項に基づく移送を制限するための立論としては、(ⅰ)民事訴訟法17条1項を出発点として、(ⅱ)同条項の訴訟当事者間の衡平という趣旨に言及し、(ⅲ)「当事者間の衡平を図るため必要があると認める」ときは民事訴訟法16条1項に基づく移送が制限されるべきであるという規範を定立し、(ⅳ)問題文の㋑・㋕の事情を使って(ⅲ)充足性を説明する、というものが考えられます。

ここで、課題(1)と同様、結論や当てはめ⇒抽象論、という思考の流れになります。

•  何らかの法律構成を示す(書き方)

民事訴訟法17条1項を援用するという法律構成に気が付くことができなかったとしても、何らかの法律構成を示すべきです。

例えば、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)でも、移送申立てにおける権利濫用(民法1条3項)でも構いません。

その上で、訴訟当事者間の衡平という観点から規範定立をするべきです。

分からない問題でこそ、法的三段論法に忠実になりましょう。

 

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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