問題分析をする際の注意点
私は、出題趣旨・採点実感を読む前こそ、合格答案・上位答案を書くための実践的な読解・思考を把握するためのチャンスです。
出題趣旨・採点実感を読んだ後だと、どうしてもそこで示された完全理想解に引きづられてしまい、示された答えから書くべき答えを導いてしまいがちです。
こうした分析は、同じ問題がピンポイントに出題されない限り、役に立ちません。
出題趣旨・採点実感を使った問題分析
出題趣旨・採点実感を使った問題分析は、2つに大別されます。
1つ目は、定義、要件、科目・分野・論点・単位での答案の書き方に関する司法試験委員会の公式見解を学び、自分の理解をそれに合わせるということです。
例えば、処分証書の定義については、それによって証明しようとする「法律行為が文書によってされた場合のその文書」であるとする見解(司法研修所「事例で考える民事事実認定」21頁)と、それによって「証明しようとする法律行為が記載されている文書」であるとする見解があり、平成24年司法試験民事訴訟法設問1(1)の採点実感では司法試験委員会の見解として後者が明示されています。
要件については、共謀共同正犯の成立要件などが挙げられます。これについては、平成24年司法試験刑法の出題趣旨と平成28年司法試験刑法の出題趣旨・採点実感が参考になります。
科目単位での答案の書き方であれば、平成30年司法試験憲法及び令和1年司法試験憲法の出題趣旨・採点実感などが挙げられます。
分野・論点単位での答案の書き方であれば、例えば、原告適格の書き方について、『まず、「処分の根拠となる法令の規定」として、モーターボート競争法第5条及びその委任を受けた同法施行規則第12条、第11条の規定を確認し、次に、「当該法令の趣旨及び目的」として同法第1条等からうかがわれる同法の趣旨・目的を検討し、さらに、同法と目的を共通にする関連法令が存在するならば、その趣旨・目的を参酌することが不可欠である』、『用語に関する基本的な誤解が目立つ。例えば、・・行政処分の根拠法令に属する省令の規定をも、行政事件訴訟法第9条2項にいう「関係法令」の一つに挙げる答案・・』ということを明示した平成23年司法試験行政法設問1の採点実感などです。
こうした定義、要件、書き方については、出題趣旨・採点実感で示された司法試験委員会の公式見解を根拠として、試験対策として正しい(又は望ましい)理解を身につけておく必要があります。
2つ目は、論点抽出をはじめとする解答筋レベルのことです。
解答筋レベルのことは、既存論点の抽出とその重要度、現場思考論点における問題の所在の把握と抽象論の構築、憲法における人権選択、結論の方向性など、試験本番で考え、決断を下す事柄を意味します。
解答筋レベルのことについても、再び同種事案が出題された場合に備えるために、出題趣旨・採点実感で確認します。
出題趣旨・採点実感の中には、解答筋を導く際の読解・思考の過程についてまで指摘してくれているものもありますが、大部分は解答筋だけを示すにとどまります。
出題趣旨・採点実感に解答筋としてこう書かれているからこの筋で書くという、試験後に示された答えから書くべき答えを導くというやり方は、試験中の頭の使い方からかけ離れたものです。
これでは、過去問と異なる事案で異なる論点が出題された場合に対応することができません。
解答筋レベルのことについては、再び同種事案が出題された場合に備えるために出題趣旨・採点実感で確認するとともに、別事案でも解答筋又はそれに掠る筋を導くことができるよう、正解筋又はそれに掠る筋を導くための読解・思考の過程をしっかりと学んでおく必要があります。
以下では、正解筋又はそれに掠る筋を導くための読解・思考の過程についてお話しします。
試験本番で必要とされる実践的な読解・思考
既存論点の抽出とその重要度、現場思考論点における問題の所在の把握と抽象論の構築、憲法における人権選択、結論の方向性などについては、試験本番で自分で考え、決断を下すことになります。
そのため、こうした解答筋レベルのことについて、正解筋又はそれに掠る筋を選択することができるよう、読解・思考のコツを掴んでおく必要があります。
皆さんは、試験本番では、試験後に示される正解筋を見ることが出来ません。
試験当時に存在する「問題文」と「頭の中の知識」を使って正解筋又はそれに掠る筋を導こうとすることになります。
したがって、普段から、㋐「問題文にこう書いてある」からこれが問題になり、こういう筋で書くべきだという問題文の読み方や、㋑平均的受験生が有しているであろうこの知識を土台にしてこう考えることで、こうした論述になるという知識の使い方といった、実践的な読解・思考を鍛えておく必要があります。
こうした読解・思考は、試験後に発表された出題趣旨・採点実感を読んでいるだけは鍛えられません。
上位合格者のうち答案作成中の読解・思考の過程を分かりやすく言語化して説明することができる方による読解・思考の過程に関する説明が、とても参考になると思います。
それから、私は敢えて、「正解筋又はそれに掠る筋」という表現を用いています。
司法試験・予備試験の論文試験では採点上許容される筋が広く、出題趣旨・採点実感で正解筋として示される筋から外れても加点され、合格答案、さらには上位答案に入る余地が十分あるからです。
なので、「正解筋」から外れているが、合格答案・上位答案として評価されるという意味での「正解筋に掠る筋」で書くことができれば、足りるわけです。
現実離れした正解筋を探求しようとする正解思考から脱却し、何をどう書くべきかが悩ましい問題でも「正解筋に掠る」程度のことは書くことができる読解・思考のコツを身につけたほうが、合格にとっても上位合格にとっても近道であると考えます。
試験本番で必要とされる実践的な読解・思考については、1つの記事で伝えきることができないので、連載化し、2つ目以降の記事で、司法試験過去問を使って具体例を示しながら説明させて頂きます。
読解・思考のコツに加え、文章力も必要
今回の記事では、「何について、どう書くべきか」という解答の筋道レベルのことに絞ってお話ししていますが、試験本番では、解答の筋道を立てた後に、それを文章化して答案に反映することになります。
つまり、試験本番では、㋐問題文にこう書いてあるからこう考えたという読解と、㋑その時点で頭に入っている知識を使ってこう考えたという思考により、解答の筋道を立てて、㋒文章力により㋐㋑により導かれたことを文章化して答案に反映することになります。
今回の記事では㋐・㋑の段階に属する「解答の筋道を立てる」ことだけに言及していますが、脳内で考えたことを分かりやすく文章化して答案に反映するためには文章力も必要になるため、㋐読解と㋑思考を鍛えるだけでは足りません。
人によっては、㋐読解と㋑思考に加えて、㋒文章力も鍛える必要があります。
文書力については、「試験本番で必要とされる読解・思考」という記事の連載を終えたら、記事にさせて頂きます。
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