短答式試験の問題類型
短答式試験の問題類型は以下の3つです。
①短答知識重視の問題
②論文知識重視の問題
③思考読解重視の問題
①は、憲法であれば、論文対策として勉強する必要が乏しい判例の理由・結論、統治分野の条文知識等を正面から問う問題のことです。
②は、人権の保障の内容といった判例学説以前の教科書知識(のうち、論文対策として勉強する必要が高いもの)、論文対策として勉強する必要が高い判例の理由・結論等を正面から問う問題のことです。
③は、論文知識を前提とした思考・読解により正誤等を判断することができる問題のことです。見解問題・学説問題がその典型です。
令和2年司法試験の短答式憲法の問題を分析したところ、①②③に属する問題数は、①4問、②7問、③9問となりました。
①短答知識重視の問題 4問
5、15、17、18
②論文知識重視の問題 7問
2、4、7~9、13、16
③思考読解重視の問題 9問
1、3、6、10~12、14、19、20
憲法では、①②と③で、解法と勉強法が異なります。
①②では、必要とされる知識の細かさに違いがあるものの、表面的に記憶したことと選択肢を形式的に比較するだけで正誤を判断することができるという点で共通します。
③では、必要とされる知識の大部分が初学者レベルの基本的なものである一方で、知識に加えて思考・読解も必要とされるため、表面的に記憶したことと選択肢を形式的に比較するだけで正誤を判断することができないのが通常です。そのため、知識を増やすだけでは、思考読解重視の問題に対応することはできません。知識を増やすだけでは解くことができないので、思考・読解のコツを掴む必然があります。
なお、③では、思考・読解も必要とされますが、特別な思考力・読解力が必要とされるわけではありません。思考力・読解力を底上げするというよりも、思考・読解のコツを掴むという認識が正しいです。
短答式試験の傾向と対策
令和2年司法試験の短答式憲法では、論文知識だけで解ける問題と、論文知識を前提とした思考・読解により解ける問題がほとんどであり、短答固有の細かい知識を問う問題が20問中たった4問しか出題されていません。
学説問題・見解問題の大部分は、論文知識を使った思考・読解で解けるものです。
知識の幅と深さを試したいのなら、あそこまで親切に解答する際の条件を問題文で示しません。
細かい知識を問う問題も減りました。
短答対策として、過去問全肢について正誤を導く理由を正確に説明できるまでやり込むという意味で「過去問を完璧にする」という方法もあるようですが、できる人は僅かです。
憲法については、盤石な論文知識と思考・読解だけで6割程度取れる力を身につけたほうが、点数が安定します。
その後で、仕上げとして、短答固有の細かい知識も身につけることで、正答率をさらに上げる、という感じです。
短答固有の細かい知識を正面から問う問題が20問中たった4問しかないため、短答固有の細かい知識を増やしたところで点数はさほど底上げされないからです。
憲法・民法・刑法のうち、憲法・刑法において、過去問集や肢別問題集を何周もしておりこれらの正答率が90%を超えているにもかかわらず、初見の問題になると正答率が50~60%くらいにまで下がってしまうという方は、問題類型ごとの解法と勉強法を意識することなく丸暗記した知識を増やすだけという非効率な勉強をしてしまっている可能性があります。
科目特性を踏まえた効果的な勉強法と解法を知ることで、勉強量の割に点数が伸びないという事態を改善することができると思います。
思考読解重視の問題の解き方
確かに、思考力・読解力重視の問題のうち、「bの見解がaの見解の根拠となっているか」を問う見解問題については、「aの見解:判例の結論 bの見解:判例の理由」という関係の成否が問われているものであれば、判例の結論・理由に関する知識だけで解くことも可能です。
例えば、令和2年司法試験短答式憲法第1問の選択肢アについては、マクリーン事件判決の結論・理由に関する知識だけで解くことも可能です。
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〔第1問〕(配点:3)
外国人の人権に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[No1]から[No3])
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ア.a.国は、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくすることができる。
b.外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。[No1]
マクリーン事件判決(最大判昭53・10・4・百Ⅰ1)は、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。」として見解bと同様のことを述べた上で、「すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。」として見解aと同様の結論を導いています。
したがって、上記のマクリーン事件判決の結論・理由を知っていれば、第1問・選択肢アにおいて見解bが見解aの根拠になっているということを直ぐに判断することができます。
実際に、大部分の受験生が、論理ではなく、上記のマクリーン事件判決の結論・理由に関する知識だけで選択肢アを〇と判断したと思います。
しかし、それが出来たのは、マクリーン事件判決が受験生の大部分が論文対策として勉強する超重要判例(平成29年司法試験論文でも出題あり)である上、見解aとbの記述がマクリーン事件判決の要旨と酷似しているからです。
憲法の判例は、他科目の判例に比べて、要旨が長いです。
複数の論点が存在する判例も多いですし、論点ごとの要旨も長いです。
判例が元ネタになっている見解問題の全てについて、判例知識だけで対応しようとすると、記憶の負担がかなり大きくなりますし、正確に記憶できていない判例が元ネタになっている見解問題では正誤判断の正確性が安定しないことにもなります。
正誤判断をするための手段は多い方が良いですから、判例が元ネタになっている見解問題の過去問を復習する際には、そこに出てくる判例の結論・理由を知識としておさえておくのが望ましいですが、自分の知識だけでは解くことができない見解問題が出題された場合に備えるためにも、思考・読解で解くための訓練もしておいた方が良いです。
第1問・選択肢アにおいて、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。」とする見解bは、そこで「すぎない」という消極的な表現が用いられていることから、「外国人に対する憲法の基本的人権の保障」について控え目な見解であるといえます。
保障について控え目に理解するからこそ、「国は、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくすることができる」わけです。
判例知識だけで直ぐに正誤を判断することができる問題について、思考・読解重視で解いてみるなんて面倒だなと思う方もいるかもしれませんが、知識だけでは解けない見解問題が出題されることに備えるためにも、インプットの負担を軽減するためにも、思考・読解重視の解法も身につけておくべきです。
では、令和2年司法試験短答式憲法第6問はどうでしょうか。
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〔第6問〕(配点:3)知る権利に関する次のアからウまでの各記述について、bの見解がaの見解の根拠となっている場合には1を、そうでない場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからウの順に[No10]から[No12])
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ア.a.マス・メディアの報道に対して反論記事の掲載等を求める権利は、憲法第21条第1項が保障する表現の自由に含まれる知る権利の一局面であり、同項を直接の根拠として認められる。
b.インターネットの普及によって双方向的な情報流通が可能となり、誰もが自ら情報の発信者となることが容易になった。[No10]
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イ.a.日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に受信契約の締結を強制する放送法の規定は、憲法第21条第1項の保障する情報摂取の自由を制限するものであり,その合憲性は厳格に審査される必要がある。
b.国民の知る権利を実現するためにいかなる放送制度を採用するかは立法裁量の問題である。[No11]
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ウ.a.児童買春その他の犯罪から児童を保護すること等の目的のため、電子掲示板の運営者に届出義務を課した上、一定の書き込みに関する削除義務を課すことは、憲法第21条第1項に違反する。
b.インターネット上において表現の場を提供する行為は知る権利に資するものとして、憲法第21条第1項の保障を受ける。[No12]
選択肢アはアクセス権が問題になったサンケイ新聞事件(最二小判昭和62・4・24・百Ⅰ76)、選択肢イはNHK受信料制度の合憲性が問題となった事件(最大判平成29・12・6・百Ⅰ77)、選択肢ウはインターネット異性紹介事業届出事件(最一小平成26・1・16・百Ⅰ63)に関するものです。
もっとも、事案や論点が共通しているだけであり、見解aにおいて判例と同じ結論が示されているわけではありませんから、判例知識だけで解くことはできません。
論文知識を前提とした思考・読解により見解相互の関係性を判断することになります。
このように、知識だけでは解けない見解問題もあります。
選択肢アでは、「インターネットの普及によって双方向的な情報流通が可能となり、誰もが自ら情報の発信者となることが容易になった。」とする見解bからは、マス・メディアの報道に対してはインターネットを使って反論することができるのだから、「マス・メディアの報道」に対する反論の手段として「反論記事の掲載等を求める権利」を「憲法第21条第1項・・を直接の根拠として認める」必要はないという帰結になります。
したがって、見解bが見解aの根拠となっているとはいえません。
選択肢イでは、「国民の知る権利を実現するためにいかなる放送制度を採用するかは立法裁量の問題である。」とする見解bからは、違憲審査の厳格度と立法裁量を尊重する要請とが逆相関の関係にあるという論文知識を媒介として、「立法裁量の問題である」として立法裁量の存在が強調されているのだから違憲審査基準の厳格度が下がるという帰結になります。
したがって、立法裁量の存在を強調する見解bは、「合憲性は厳格に審査される必要がある」とする見解aの根拠になりません。
選択肢ウでは、「届出義務・・、・・削除義務を課すことは、憲法第21条第1項に違反する」という見解aを導くためには、少なくとも、「届出義務・・、・・削除義務を課す」ことにより制約され得る「インターネット上において表現の場を提供する行為」が「憲法第21第1項の保障を受ける」といえることが必要です。
したがって、「インターネット上において表現の場を提供する行為は知る権利に資するものとして、憲法第21条第1項の保障を受ける。」とする見解bは、「児童買春その他の犯罪から児童を保護すること等の目的のため、電子掲示板の運営者に届出義務を課した上、一定の書き込みに関する削除義務を課すことは、憲法第21条第1項に違反する。」とする見解aの根拠となります。
このように、選択肢ア~ウの全てについて、論文知識を前提とした思考・読解により正誤を判断することになります。
令和2年司法試験短答式を全て解説
本動画では、令和2年司法試験短答式の憲法の第1問から第20問までについて、私が「リアル解答企画」で問題を解いた際の思考過程を説明しています。
本動画を通じて、近年の傾向に合った効果的な勉強法と解法を身につけて頂きたいと思います。
※1.青文字は、問題を解いた際の思考過程と正誤判断の結果
※2.赤文字は、思考過程や正誤判断の結果が間違っていた場合に、それを修正したもの
※3.動画で表示されているメモ書きが反映された問題文はこちら
令和2年司法試験と秒速・総まくり憲法との関連性
「令和2年司法試験リアル解答企画」における短答試験の点数は、以下の通りです。
憲法40点 民法57点 刑法43点
合計140点(243位/受験者3703人)
私は、憲法・民法・刑法のいずれについても、秒速・総まくりテキストだけで準備をしました。
前述した3つの問題類型を踏まえて選択肢ごとに秒速・総まくりテキストと比較したところ、問題の9割近くを秒速・総まくりテキストの知識と思考・読解だけで解くことができることが分かりました。
刑法と民法についても同様です。
以下では、秒速・総まくりテキストと選択肢の対応関係を示します。
メモ書きの意味
- 秒速・総まくりテキストの記述を直接の根拠として判断することができる選択肢については、秒速・総まくりテキストの頁等、ランク、マーク・アンダーラインの有無を示す(緑文字)
- [論点]の枠内の知識を使う選択肢については、マーク・アンダーラインの指示がある箇所であっても、問題用紙にマーク・アンダーラインありとは表示しない
- 分野全体のランクと対応しない箇所については、ランクを表示しない
- リアル解答企画に向けた準備で用いたのは総まくり2020テキストであるため、総まくり2021テキストと下記の頁数がずれている箇所もある
第1問 思考読解重視の問題
肢ア 50頁[判例1] Aランク マーク
肢イ 57頁[判例6] Bランク アンダーライン
肢ウ 53頁[判例3] Cランク アンダーライン
第2問 論文知識重視の問題
肢ア~ウ 113頁[判例9] Bランク
第3問 思考読解重視の問題
肢ア 376頁[判例1] Bランク アンダーライン
肢イ 383頁[判例5] Bランク アンダーライン
肢ウ 390頁[判例8] Bランク アンダーライン
第4問 論文知識重視の問題
肢ア 87頁[判例1] Bランク アンダーライン
肢イ 160頁[判例4] Aランク マーク
肢ウ 40頁[判例2] Bランク マーク
第5問 短答知識重視の問題
肢ア 182頁[判例1] Bランク アンダーライン
肢イ 188頁[判例3] Bランク
肢ウ 191頁[判例4] Cランク アンダーライン
第6問 思考読解重視の問題
肢ア 245頁[判例1] Bランク
肢イ 掲載なし(思考・読解で解ける)
肢ウ 掲載なし(思考・読解で解ける)
第7問 論文知識重視の問題
肢ア 203頁・3(1) Aランク
肢イ 204頁・3(3) アンダーライン
411頁[判例1] Aランク マーク
肢ウ 205頁・6(2) Aランク
第8問 論文知識重視の問題
肢ア 328頁・1(1) Aランク マーク
肢イ 331頁[判例2] Bランク アンダーライン
肢ウ 340頁・2(2) ランクなし アンダーライン
第9問 論文知識重視の問題
肢ア 397頁[判例3] Aランク アンダーライン
肢イ 399頁[判例4] Aランク マーク
肢ウ 404頁[判例7] Bランク マーク
第10問 思考読解重視の問題
肢ア 462頁[判例1] Aランク アンダーライン
肢イ 掲載なし(思考・読解で解ける)
肢ウ 掲載なし(思考・読解で解ける)
第11問 思考読解重視の問題
肢ア~ウ 30頁・2(1) アンダーライン
第12問 思考読解重視の問題
肢ア~ウ Bランク
第13問 思考読解重視の問題
肢ア 356頁 Aランク
肢イ 359頁[判例3] Aランク アンダーライン
肢ウ 掲載なし(政見放送の削除に関する最高裁判例を知らなくても、私人間効力に関する間接適用説という立場から、「憲法第21条第1項に違反する」という結論が誤りであることを判断できる
第14問 思考読解重視の問題
肢ア 426頁・3(2) Cランク
肢イ 426頁・4(1) Bランク マーク・アンダーライン
肢ウ 427頁[論点1] Bランク アンダーライン
第15問 短答知識重視の問題
肢ア 445頁・3(2)Bランク
肢イ 31頁・3(2) Bランク
肢ウ 掲載なし(憲法4条との整合性から×と判断できそう)
第16問 論文知識重視の問題
肢ア 64頁[判例2]要点② Aランク
肢イ 192頁[判例5] Aランク
195頁[判例6] Bランク
肢ウ 354頁[判例1] Cランク
第17問 短答知識重視の問題
肢ア 掲載なし
肢イ 478頁[判例2] Bランク アンダーライン
肢ウ 474頁[論点1] Aランク マーク
第18問 短答知識重視の問題
肢ア 掲載なし
肢イ 436頁・5(2) Bランク
肢ウ 掲載なし
第19問 思考読解重視の問題
肢ア 495頁(ウ) ランクなし
肢イ 494頁[論点1] Bランク
肢ウ 495頁・イ ランクなし
第20問 思考読解重視の問題
肢ア 掲載なし
肢イ 493頁・ウ ランクなし
肢ウ 掲載なし
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