司法試験合格・予備試験合格を目指すうえで、現実的な合格答案をイメージすることは非常に重要です。
普段の勉強では、インプットでもアウトプットでも、現実な合格答案のイメージから導かれる「自分が目指すべき合格答案像」を意識して行います。
例えば、記憶が苦手であり、かつ、答案の分量も少ないのであれば、インプットでは論証をぎりぎりまでシンプルにして記憶する必要がありますし、場合によっては規範までシンプルにする必要があります。
また、アウトプットでも、現実離れした答案を目指すのではなく、「自分が目指すべき合格答案像」を目標として答案を作成し、添削することになります。
現実的な合格答案のイメージを掴んで頂くために、令和4年予備試験刑法設問1を使い、採点上のポイントと現実的な合格答案を示したいと思います。
刑法論文で重視すること
まず、①刑法論文では、罪名・論点の網羅性、規範定立→当てはめ、当てはめで問題文の事実を使うことの3点を重視しましょう。
そして、②規範はシンプルでも構いませんから、答案に書きましょう。シンプルにすることで正確性が下がりますが、試験的に許容される水準はさほど高くありません。例えば、間接正犯の要件であれば、「正犯意思と道具性」でも構いません。また、原因において自由な行為の理論など解釈重視の一部の論点を除き、論証の理由も飛ばして構いません。
さらに、③当てはめでは、問題文の事実を使いまくりましょう。予備試験刑法は、司法試験に比べて問題文の事実関係がシンプルであるため、問題文のママ抜き引用だけで合格水準の当てはめになることが多いです。事実ごとの評価(さらには事実群ごとの評価)、問題文の整理要約が難しければ、規範に関係しそうな問題文を丸々コピペしましょう。
①~③はいずれも初歩的なことですが、論点・理論偏重の勉強をしていると、インプット・アウトプットにおける最優先事項を見誤ってしまい、①~③レベルのことすらできなくなってしまいがちです。まずは、①~③レベルを死守できるようなりましょう。これができれば、特殊な出題でない限り、合格水準に到達します。
規範を省略しないで正しく書く、論証の理由も書く、事実ごとの評価(さらには事実群ごとの評価)、問題文の整理要約などは、その後で構いません。これらは、基本的に合格水準よりも上を目指す場合に必要とされることです。
令和4年予備試験刑法設問1の答案
【問題文】
【事例1】
1 甲(35歳、女性)は、A市内のアパートにおいて、長男X(13歳)及び長女Y(6歳)と3人で暮らしていた。
2 某月1日、甲は、Yと共に、Bが店長を務める大型スーパーマーケットC店に入り、果物コーナーを歩いていた際、陳列棚に置かれていた1房3000円の高級ブドウを手に取ってYに見せながら、「あんた、これ好きでしょ。」などと話したが、高額であったことから、Yの眼前でそのまま陳列棚に戻した。その後、甲は、何も買わずに店を出たが、Yに上記ブドウを万引きさせようと考え、C店の前において、Yに対し、「さっきのブドウを持ってきて。ママはここで待っているから、1人で行ってきて。お金を払わずにこっそりとね。」と言った。それを聞いたYは、ちゅうちょしたが、甲から「いいから早く行きなさい。」と強い口調で言われたために怖くなり、甲の指示に従うことを決め、「分かった。」と言って、甲から渡された買物袋を持って1人でC店に入っていった。Yは、約10分間掛けて店内を探したが、果物コーナーの場所が分からず、そのまま何もとらずに店を出た。甲は、上記ブドウの入手を諦め、Yと共に帰宅した。
3 ・・・略・・・
〔設問1〕
【事例1】における甲の罪責について、論じなさい(建造物侵入罪及び特別法違反の点は除く。)。
【現実的な合格答案】
予備試験過去問講座の模範答案に比べてだいぶ水準を下げていますが、ぎりぎり合格水準の答案であると考えます。
まずはこのレベルの答案を安定して書けるようになりましょう。そこから徐々に水準を上げていきます。
グリーン 問題文のママ抜き(又はそれに近い)部分
ブルー 規範
ピンク 自分で考えた評価
間接正犯の正犯性と「実行に着手」の当てはめは、ほぼ問題文のコピペです。
予備試験刑法は、司法試験に比べて問題文の事実関係がシンプルであるため、問題文のママ抜き引用だけで合格水準の当てはめになることが多いです。したがって、間接正犯の要件である道具性の当てはめでは、事理弁識能力を欠く…といった判例を踏まえた評価を明示しなくても、なんとかなります。
※ 利用者標準説は、被利用者の実行行為による結果発生の自働性・確実性に着目して定型的に利用行為の開始時に結果発生の危険性を前倒しすることにより「実行に着手」を認める見解ですから、実際に指示・命令行為の時点で結果発生の現実的危険性があったのかは問題にしません。指示・命令行為の時点で実際に結果発生の現実的危険性があったのかを問題にするのであれば、それは、指示・命令行為の時点で結果発生の現実的危険性が認められるとは限らないという被利用者標準説からの批判であり、また、個別化説を採用した場合における当てはめです(後者につき、大塚裕史「基本刑法Ⅰ」第3版263頁参照)。
規範定立をする際の理由付けは、すべて飛ばしています。間接正犯の実行の着手時期を除き、いずれも当てはめ重視の論点だからです。
間接正犯の実行の着手時期については、理論重視の論点に位置付けられますが、理由付けが重視されているのではなく、利用者標準説と被利用者標準説の帰結の理由が重視されているにすぎません。したがって、被利用者がYが窃盗罪の「実行に着手」していないという認定を前提として、自説から正しい帰結を導くことが重視されているため、論証の理由付けはさほど重視されていないと考えられます。
この答案でも合格水準です。それくらい、採点では、罪名・論点の網羅性、規範定立→当てはめ、当てはめで問題文の事実を使うことの3点が重視されています。
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