加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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令和3年司法試験刑法設問1で乙に犯罪が成立しないとの結論はあり得るか

令和3年司法試験の刑法設問1の乙の罪責についてご質問させていただきます。
私は、甲・丙について、業務上横領罪の成立を認めました。
そして、乙については、甲乙間の共謀は強盗、実行行為は業務上横領であるところ、甲乙間の共謀の因果性は実行行為たる業務上横領には及んでいないという構成で書きました。理由としては、乙は甲丙間の共謀についてそもそも知らなかったこと、強盗罪と横領罪とでは奪取罪か横領罪かという点で犯罪の性質が異なることなどを指摘しました。その上で、乙について犯罪は成立しないという結論で書きました。
予備校の解答速報を見ていると、私のような構成についての解説や指摘はなかったのですが、見当違いの構成なのでしょうか。
よろしければご回答よろしくお願いします。

令和3年司法試験設問1は、甲と丙とが①窃盗罪又は業務上横領罪と②①の隠ぺいするための狂言強盗について意思連絡をした後で、乙と丙が③強盗について意思連絡をし、その後、甲と乙が①窃盗罪又は業務上横領罪を実現した(いずれの犯罪が成立するかは、本件バッグの占有が丙に帰属していたかによる)という事案に関するものです。

本件バッグの占有が丙に帰属していると認定する場合、甲と丙とは、業務上横領罪の共謀に基づいて、業務上横領罪を実行したことになりますから、丙には業務上横領罪の共同正犯が成立し、甲には単純横領罪の共同正犯(※判例の立場からは業務上横領罪の共同正犯)が成立します。

乙については、共謀共同正犯の成立要件を㋐共謀㋑共謀に基づく実行行為(共謀と実行行為との因果性)㋒正犯性(ないし正犯意思)の3要件で整理した場合、異なる罪名を認識している者どうしに共謀が成立するのか(㋑)、共謀の因果性が窃盗罪又は業務上横領罪の実行行為に及ぶのか(㋒)、乙に正犯性(ないし正犯意思)が認められるか(㋒)が争点となります。

甲と乙に業務上横領罪の成立を認めた場合、乙は業務上横領罪の認識で、丙は強盗罪の認識で、意思連絡をしたことになります。強盗罪と業務上横領罪とでは、業務上横領罪の限度で構成要件が実質的に重なり合うとはいえないと思います。かといって、業務上横領罪よりも法定刑が重い窃盗罪の限度で構成要件の実質的な重なり合いを認めることもできません。そうすると、構成要件の実質的な重なり合いを認める余地があるのは、単純横領罪にとどまると思います。そうすると、甲乙と丙の間には単純横領罪の限度で共謀が成立するにとどまります(㋐)。したがって、仮に㋑及び㋒が認められたとしても、乙には単純横領罪の共同正犯が成立するにとどまります。

㋑共謀の因果性については、本問の事実関係からすると、共同正犯において要求されるだけの(共同惹起といえるだけの)因果性が認められないとして、否定するのはありだと思います。仮にそのように認定するのであれば、乙については、共同正犯は成立しません。もっとも、共同惹起といえるだけの因果性がないとしても、少なくとも狭義の共犯における間接惹起といえるだけの因果性はありますから、幇助犯が成立します。

したがって、因果性がないとの理由から乙については犯罪は成立しないという結論には、ならないと思います。

2021年08月07日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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