加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

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論証の際に「条文の趣旨→規範」という形式に従う必要性

刑法の偽装心中の答案例について
サンプルには、いきなり反対説として「法益関係的錯誤説」の紹介がなされています。
しかし受験指導の中には、例えば、「たしかに、動機に錯誤はあったものの、自己の死そのものには誤認がなく、刑法上有効な承諾はあったとして、殺人罪ではなく、自殺関与罪が成立するようにも思える。しかし、202条が199条より軽く処罰される趣旨は、自殺の決意が真意に沿うものであることにより、法益保護の要請が低下し、違法性が減少するからである。とすると、動機に錯誤がある場合、自殺への決意は真意に沿わない重大な瑕疵ある意思によるものであり、この場合は法益保護の要請は低下していない。よって自殺関与罪ではなく、殺人罪が成立する。」というように、まずは形式論や原則論を貫き、その上で趣旨から記載するという指導があります。(私のこの論証は、調べて書いたわけではなく、あくまでイメージをお伝えするものですので、不正確かもしれませんが、そこに質問の真意がるわけではありませんのでご容赦下さい)。
加藤先生の他のサンプルを拝見する限り、全体として、趣旨からの論証という感じではないように思います。
たしかに、いちいち趣旨からの論証を作成していては、時間もかかりますし、論証自体も長くなってしまいます。今の司法試験は、論証自体の巧拙にあまり点が振られておらず、事案分析がその何倍も重要と考えると、私のようにいちいち気にするのはナンセンスで古い気もします。さらに、趣旨からの論証は学説を無視する面もあり、好ましくない気もします。
趣旨からの論証というのは、誰も事前準備していない論点に現場で対応するための手段かもしれません。
論証に対する加藤先生のご意見を伺いたいです。

総まくり講座のサンプルテキスト・論証集を参考にして頂きありがとうございます。

まず、趣旨→規範という論証形式についてですが、条文や制度の趣旨は解釈論における理由付けの1つにすぎませんから、現場思考問題を除き、そこまで「趣旨→規範」という形式にこだわる必要はないと思います。例えば、刑法242条における「他人が占有」の意味のように、242条の趣旨の捉え方(本権説VS占有説)が「他人が占有」の解釈に直結する場面であれば条文の趣旨に言及することは必須ですが、条文の趣旨から解釈を導くことはできない場面も多々あり、場合によっては「趣旨→規範」という論証が論理として繋がっていないこともあります。私の論証は、著名な基本書・解説書でのリサーチに基づいて作成したものであるため、著名な基本書・解説書にそう書いてあるから論証でも同じように書いていると、ご理解頂ければと思います。

次に、「刑法の偽装心中の答案例で、反対説として法益関係的錯誤説を紹介する際に、理由付けを飛ばしている点」についてですが、少なくとも令和1年司法試験設問2では反対説の理由付けは問われていないことと、三者間形式の問題の対策として最優先に理解記憶するべきことは「自説と反対説の対立が顕在化する典型事例、各説から帰結、自説の理由と規範、反対説の規範」までであり「反対説の理由付け」の優先順位は低いことにあります。勿論、法益関係的錯誤説の理由付けについては、被害者の承諾の箇所の論証でちゃんと取り上げているので、ご安心ください。


そして、法益関係的錯誤説(学説)と条件関係的錯誤説(判例)の対立は、殺人罪・自殺関与罪以外でも問題になる論点ですから、この論点における論証の理由付けとして各論における特定の条文の趣旨を用いることはできません。また、被害者の承諾が刑法上の明文規定を欠く超法規的違法性阻却事由であることから、刑法総論における特定の条文の趣旨を理由付けとして用いることもできません。このように、この論点では、特定の条文の趣旨から理由付けを展開することができません。一応、気になったので、説明させて頂きました。

仰る通り、「今の司法試験は、論証自体の巧拙にあまり点が振られておらず、事案分析がその何倍も重要」であるため、規範について正しく深く理解記憶することが大事であり、「条文の趣旨→規範」という形式は現場思考問題で重視される論述作法である、という理解が適切であると考えます。

参考にして頂けますと幸いです。

2021年06月01日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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