加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

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令和3年司法試験刑法設問1における甲の罪責

いつもお世話になっております。
令和3年の司法試験刑法の解答例を読ませていただきました。
私は、先生が解答例を訂正する前の論述(甲による強盗罪の成立と同意による違法性阻却)を展開してしまったのですが、やはりダメージは相当大きいでしょうか?設問1で甲に強盗罪の成立を認めた場合、連鎖的に他の共犯者の罪責も間違えることになるため、かなり気になっております。
お忙しい中大変申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願い致します。

甲の罪責については、反抗抑圧手段性を欠くとして、強盗罪における「脅迫」が認められないとして、強盗罪の成立を否定するのが解答の本筋であると考えられます。

もっとも、司法試験論文式において点数がつく解答筋は1つではありません。例えば、甲の脅迫行為について反抗抑圧手段性を欠くと説明する際、行為者甲や相手方丙の主観面を考慮することになります。

甲の脅迫行為を準客観的に見れば丙の反抗抑圧の惹起に向けられているのですから、反抗抑圧手段性は準客観的に判断するべきであるとして、強盗罪における「脅迫」を肯定するという理論構成も、あり得ると思います。

その上で、占有の帰属について論じ、問題文の事実を曲解しない範囲で下位者丙の占有を認める当てはめをすることで丙の占有を認めた上で、被害者の承諾を論じているのであれば、理論的な矛盾はありませんから、合格水準に入ります。ただし、さすがに「強取」を認めることはできませんから、強盗既遂とすることはできません。

それから、仮に甲について強盗未遂罪の成否を検討したとしても、「強取」が認められない結果、腕時計を領得したことについては窃盗罪又は委託物横領罪の成立を認めることになり、丙については窃盗罪又は委託物横領罪の共犯の成否、乙については強盗未遂罪と窃盗罪又は委託物横領罪の共犯の成否も検討することになりますから、連鎖的に共犯者の罪責を間違えるということにはならないかと思います(強盗未遂罪についての共犯という、余計な論述が出てくるだけです)。

そして、司法試験論文式では、複数の解答筋があり得る上、「何を」書いたかよりも「どう書いたのか」が重視されていますから、大事なことは、どの筋で書いたかという「入口」ではなく、選択した筋についてどう論じたかという「中身」です。私自身、平成26年司法試験では正解筋からずれたことを書いた箇所がいくつかありますし、1位の労働法でも設問1における論点の1つで正解筋として挙げられていない理論構成を展開しています。私が受験者8000人の中で周りに圧倒的な差をつけた要因は、書き方にあります。

さらに、今年の司法試験論文式の問題は全体的に難化していますから、仮に解答筋が1つだけしかない問題で筋を外したとしても、相対評価においてはたいした失点にはならないと思います。

因みに、2000番よりも下の答案は、受験生の多数派が悩みもしない問題で解答筋を外す、Aランクの定義・規範すら正確に書くことができていないといったレベルですから、仮に反抗抑圧手段性を欠くとして強盗罪の成立を否定することが唯一の正解筋であったとしても、それを外しただけでD~E評価になるということはありません。

参考にして頂ければと思います。

2021年06月01日
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コメント

  • アバター

    ご回答くださり誠にありがとうございます。
    強盗罪の「強取」について、先生は講義の中で①実際に反抗抑圧されたことが必要であるという見解(多数説)、②畏怖で足りるとする見解(判例)、③畏怖さえ不要であるとする見解(少数説)を紹介されていたと思うのですが、仮に③の見解を採用するのであれば今回の事案でも「強取」を認めることができるのではないでしょうか?
    お忙しい中大変申し訳ありませんが、ご回答いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

    • kato_admin

      強盗罪における「強取」については、中間結果として現実の反抗抑圧も畏怖も不要であり、暴行脅迫があったから財物の占有が移転したという条件関係がありさえすれば「強取」を認めることができるとする少数説もあります(前田雅英「刑法各論」第6版188頁参照)。
      もっとも、この少数説も、暴行脅迫を受けた相手方が憐憫の情を抱いて財物を差し出すという事案で、暴行脅迫と占有移転との間に少なくとも条件関係があることを理由に「強取」を認めるだけであり、暴行脅迫と占有移転との間における条件関係すら不要とするものではありません。
      そうすると、本問では、丙は脅迫行為の前から腕時計を甲に手渡すつもりでいたわけですから、中間結果を不要とする少数説からでも、「強取」を認めることは難しいと考えます。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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