加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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甲社が甲社取締役Aが全株を保有する乙社との間で取引をする場合における自己取引の成否

いつもブログ等拝見させて頂き、大変勉強させて頂いております。
会社法の利益相反直接取引(356条1項2号)の要件である「ために」について名義説を採った場合の処理方法についての質問です。
例えば、甲社が乙社(甲社の取締役Aが全株式を保有している会社)と取引をしたというような事例では、乙社とAとの経済的一体性から乙社とAを同一視することができるとして、Aが自己の名義で甲社と取引したのと同視できるとの理由から、「取締役」Aが「自己…のために」甲社と取引をしたと評価することは可能でしょうか?
自分なりに手持ちの基本書を調べて見たところ、その点につき明言している箇所を見つけることができなかったのですが、法学書院「司法試験予備試験論文式の問題と解説 平成26年度」の答案例では、まさに上記のような事例に対して、取締役と取引先企業は「実質的にみて、…同一視できる」と論じており、疑問に思いました。
大変ご多忙の中恐縮ですが、ご回答いただければ幸いです。

名義説の内部では、取締役が自己又は第三者の名義で(つまり、自己が取引当事者となり又は取引相手方を代理・代表して)取引をしたかについて、形式的に判断する見解と実質的に判断する見解とがあります。形式的に判断する見解は、直接取引としての規制範囲の明確化(あるいは、直接取引と間接取引の区別の明確化)を理由とします(例えば、髙橋美加ほか「会社法」第3版204~205頁)。

そして、「甲社取締役Bが甲社を代表して甲社取締役Aが全株を保有する乙社との間で取引をした、甲社の取締役はA・B、乙社の取締役はCのみ」という事案では、形式的に判断する見解からは、形式的には、甲社「取締役」が甲社の取引の相手方ではない上、取引相手方である乙社を代理・代表もしていない以上、甲社「取締役」Aが「自己又は第三者のために」甲社と「取引」したと認定することはできません。したがって、直接取引は成立せず、間接取引が成立し得るにとどまります。

これに対し、実質的に判断する見解からは、甲社「取締役」Aと乙社取締役との経済的一体性から、実質的な取引相手方が乙社ではなくAであると評価することにより、甲社「取締役」Aが「自己…のために」甲社と「取引」したとは認定することができます。

平成26年予備試験商法の事案は、X社が、X社取締役Bが90%の株式を保有するY社から、金融機関からの借り入れよりも若干高い金利で、5億円を借り入れており、その借入においてY社の唯一の取締役であるBはX社もY社も代理・代表していない、というものであり、ご質問の事案と共通しています。

平成26年予備試験商法の出題趣旨では、「解答に際しては,①直接取引(会社法第356条第1項第2号、第365条)又は間接取引(同法第356条第1項第3号)のいずれに該当するのか、…②…、③…について、設問の事実関係を踏まえて、正しく論述することが求められる。」とあります。これが、直接取引を否定した上で間接取引で認定するべきであるとの趣旨なのか、直接取引で認定してもいいという趣旨なのかは定かではありませんが、上記見解のうち実質的に判断する見解からは、直接取引で認定することができます。

もっとも、私としては、名義説について論じた後に、直接取引としての規制範囲を明確にするべきだから誰の名義であるのかは形式的に判断するべきであると論じた上で、直接取引を否定して、間接取引で認定するのが無難であると考えます。

参考にして頂けますと幸いです。

2021年04月23日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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