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労働協約の一部解約の要件

加藤先生の労働法速修テキスト講義を受講しております。いつもお世話になっております。
労働組合法における「労働協約の一部解約」について、1点質問させていただきたいことがございます。
テキスト第3版334頁では、労働協約の一部解除の要件について、ソニー事件(東京高判H6.10.24)を基に、「①一部解約の対象が客観的に他の協約事項と分別できるものであり、かつ、②分別して扱われることを当事者が予想し得たと考えるのが合理的である場合を除き、労働協約の一部を一方的に解約することは許されない」としています。
他方、債務的部分の一部解約を認めた日本アイ・ビー・エム事件(東京高判H17.2.24)は、「(ⅰ)その条項の労働協約の中での独立性の程度、その条項が定める事項の性質をも考慮したとき、(ⅱ)契約締結後の予期せぬ事情変更によりその条項を維持することができなくなり、又はこれを維持させることが客観的に著しく妥当性を欠くに至っているか否か、(ⅲ)その合意解約のための十分な交渉を経たが相手方の同意が得られず、(ⅳ)しかも協約全体の解約よりも労使関係上穏当な手段であるか否かを総合的に考え合わせて、例外的に協約の一部の解約が許される場合があるとするのが相当である」[(ⅰ)〜(ⅳ)は引用者]と判示しています。
①は(ⅰ)に対応していると考えたのですが、②はどのように考えればよいのでしょうか?
お忙しいところ大変恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

労働協約の一部解約の要件については、速修テキスト講義334頁の通り、「㋐一部解約の対象が客観的に他の協約事項と分別できるものであり、かつ、㋑分別して扱われることを当事者が予想し得たと考えるのが合理的である場合」の2要件で理解するのが一般的であると思われます(例えば、山川隆一「プラクティス労働法」第2版282頁、西谷敏「労働法」第2版710頁)。著者である山川先生と西谷先生は、いずれも元考査委員です。

水町勇一郎「詳解 労働法」初版162~163頁では、「裁判例は、①協約条項のなかに客観的に他と分別できる独立した部分があり、かつ、当事者も分別した取扱いを予想し得たと考えられる場合には、一部解約が許されるとするものと、②独立性の高い条項であっても、協約締結後の事情変更によりその条項を維持することが困難になり、その合意解約のために十分な交渉を経たが相手方の同意が得られず、しかも協約全体の解約より労使関係上応答な手段であるといえるような場合には、一部解約は許されるとするものがある」として、①の見解に属する裁判例としてソニー事件を、②の見解にする属する裁判例として日本アイ・ビー・エム事件を挙げています。

このように、ソニー事件の2要件と日本アイ・ビー・エム事件の4要件とは、異なる見解を前提とするものであるため、日本アイ・ビー・エム事件判決の4要件をソニー事件判決の2要件により整理することはできません。

2021年01月04日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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