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令和2年予備試験刑法 欺罔による不動産賃貸借契約の締結について1項詐欺罪は成立するか

いつもお世話になっております。令和2年予備試験の刑法で質問があります。
仮に賃貸借契約の締結を1項詐欺罪と構成した場合、詐欺罪は成立しないのではないでしょうか。1項詐欺の欺罔行為は財物の処分行為(交付意思に基づく財物の占有の終局的移転)に向けられている必要があるところ、賃貸借契約の場合には賃貸人に間接占有が残る以上、賃貸不動産の占有の終極的移転を内容とする処分行為に向けられていないのではないかと思いました。そのため、2項詐欺罪と構成しなければ、詐欺罪は成立しないのではないでしょうか。
ご回答頂けますと幸いです。宜しくお願い致します。

不動産を客体とする詐欺罪については、①登記名義の移転により不動産の処分可能性を取得した場合には1項詐欺罪が成立し、②不動産の事実的支配を取得したにとどまる場合には、不動産の事実的支配の利益(居住の利益)を客体として2項詐欺罪が成立する、と理解されています(高橋各論310~311頁、山口各論246頁)。

移転罪における占有は事実的支配に限られているにもかかわらず、不動産の占有については、移転罪においても、事実的支配を内容とする占有ではなく、登記名義による法律的支配を内容とする占有として理解されているわけです。厳密には、「移転罪においては、不動産については、登記名義の保有をもって事実的支配ありとする」と理解するのだと思います(山口各論246頁参照)。そうすると、不動産を客体とする1項詐欺罪については、登記名義の移転を占有の終局的移転と理解することになり、ひいては、登記名義を移転することが処分行為であると理解することにもなります。

不動産賃貸借契約の締結により被欺罔者から欺罔者に移転するのは、不動産の登記名義ではなく、不動産の事実的支配の利益にすぎません。したがって、不動産の登記名義の移転を内容とする処分行為に向けられた欺罔行為を欠くとして、1項詐欺罪の成立が否定されることになります。

2020年12月25日
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コメント

  • アバター

    ご回答ありがとうございます。詐欺罪における不動産の占有の位置付けについては知らなかったため勉強になりました。
    私は本番で1項詐欺と構成し、詐欺罪の欺罔行為の検討で挙動による欺罔であること、交付の判断の基礎となる重要事項に関する欺罔であることを割と厚く認定した上で、しかし本件賃貸借契約では欺罔行為は終局的な占有移転の意思に向けられていないため、欺罔行為を形成しないとして詐欺罪不成立としてしまったのですが、かなり減点されるでしょうか。今になってかなり不安です。教えていただけますと幸いです。よろしくお願い致します。

    • kato_admin

      確かに、2項詐欺罪が成立することを指摘することができていないという点で、失点することになります。しかし、①1項詐欺構成と2項詐欺構成とで共通するメインの検討事項である「挙動による欺罔」と「重要事項性」に言及していること、②1項詐欺罪で書いている受験生も相当数いること(不動産を客体とする詐欺における1項と2項の棲み分けを知っている受験生は少ないため、少なくとも半数近くは1項詐欺構成だと思います)、③1項詐欺構成だと処分行為に向けられた欺罔行為を認めることができないという指摘自体は正しいことからすると、大した失点にはならないと考えます。
      参考にして頂ければと思います。

  • アバター

    ご回答いただきありがとうございます。心配していた点であったので少し安心しました。今後もどうぞよろしくお願い致します。

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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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