加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

不任意自白の派生的証拠の証拠能力の論じ方(その2)

いつもお世話になっております。
不任意自白の派生的証拠についての質問です。
秒速・総まくり147頁で、先生は2つの見解を挙げてらっしゃいますが、毒樹の果実論を用いる見解1は不任意自白の獲得手続の違法性を認めがたい場合に採用し、違法収集証拠排除法則を用いる見解2は自白の獲得手続に違法性が認められる場合に採用するものだと思っております。
そこで質問なのですが、①見解1において、不任意自白の獲得手続の違法性を認めがたい場合としては、具体的にどういった場合が想定されるのでしょうか?不相当な手段を用いているからこそ任意性を欠いた自白がなされている以上、獲得手続自体にも基本的に違法性が認められることになるのではないかと思っています。
また、②見解2は、虚偽排除説を採用している秒速・総まくりの見解からしても、人権擁護説的な問題提起になってしまっているのではないかと思うのですが、虚偽排除説でも黙秘権侵害を問題提起で使うことは迂遠ではないと考えてよいのでしょうか?
よろしくお願いいたします。

①人権擁護説及び違法排除説からは、不任意自白であるとの結論になった場合、その獲得手続にも違法性があるとの結論になります。これに対し、虚偽排除説からは、自白獲得過程における黙秘権侵害や他の法令違反に着目して不任意性を判断するわけではありませんから、不任意自白であるとの結論になったからといって当然にその獲得手続にも違法性があるとの結論にはなりません。

見解2の具体例と比較してみると分かると思いますが、見解2では虚偽の不起訴約束の場合には黙秘権や供述の自由の間接的侵害が認められるとしていることから、真実の不起訴約束の場合には黙秘権や供述の自由の間接的侵害を認めることは困難です。ちなみに、平成27年司法試験では、甲が不起訴約束に基づき自白をし、その自白(不任意自白)を起点とする捜査手続により乙丙に関する証拠(派生的証拠)が発見・収集され、その後、甲が起訴猶予処分となる一方で乙丙が正式起訴されているため、これは真実の不起訴約束の事案です。

②黙秘権侵害等があるとして自白の獲得手続の違法性を認定して違法収集証拠排除法則(違法性承継論)で処理する見解2では、要件事実的には、虚偽排除説から不任意自白であると説明することは不要です。虚偽排除説からは、㋐虚偽排除説から自白の不任意性を肯定、㋑黙秘権侵害等を理由に自白の獲得手続の違法性を肯定、㋒違法収集証拠排除法則の論証・適用という流れを辿ることになりますが、人権擁護説又は違法排除説に立てば㋑から書き始めることができるからです。そのため、虚偽排除説の立場から㋐⇒㋑⇒㋒という流れで論じるのは迂遠であるように思えます。もっとも、判例は虚偽排除説に立っているので、見解2を採用する事案では便宜的に人権擁護説又は違法排除説に切り替えるのではなく、虚偽排除説の立場から㋐自白の不任意性を肯定した上で、㋑虚偽排除説からは自白の任意性を欠くからといって当然に自白の獲得手続が違法になるわけではない旨を指摘してから、黙秘権侵害等を理由に自白の獲得手続の違法性を肯定し、㋒違法収集証拠排除法則の論証・適用に入る、という書き方が理想的であると思います。勿論、時間がない場合には、に人権擁護説又は違法排除説に切り替えて㋑から論じるというのもあります。

2020年12月16日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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