加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

令和2年最新重要判例の補講「刑法」の事例問題

「令和2年最新重要判例の補講 刑法」を聴かせていただきました。
「事例問題」において、乙の共謀加担前の暴行と共謀加担後の暴行のいずれによって生じたものか特定できていない傷害結果のうち、①「右第六肋骨骨折」については、乙の暴行がこれを生じさせる危険を有するため刑法207条の適用により乙に傷害罪が成立するが、②「上口唇切創」については、乙の暴行がこれを生じさせる危険を有しないため刑法207条の適用はなく、乙に傷害罪が成立しない、という帰結までは理解することができました。
「上口唇切創」については、その原因行為である暴行の限度で、乙に甲との共同正犯は成立するのでしょうか。

乙には、「上口唇切創」の原因である暴行に係る暴行罪の共同正犯は成立しません。

「上口唇切創」が乙の共謀加担前の暴行と共謀加担後の暴行のいずれによって生じたものかを特定できていないということは、「上口唇切創」の原因となった暴行が㋐乙の共謀加担前に行われたのか㋑乙の共謀加担後に甲乙間の共謀に基づき行われたのかを特定できないということです。つまり、㋐の可能性が残るということです。

㋑の場合、「上口唇切創」の原因となった暴行を甲と乙のいずれが行っていても、一部実行全部責任の原則(刑法60条)により、甲乙間に暴行罪の共同正犯が成立します。これに対し、㋐の場合、甲に暴行罪の単独正犯が成立するにとどまり、乙には暴行罪の単独正犯は勿論のこと共同正犯も成立しません。承継的共同正犯全面肯定説に立ったとしても、㋐の場合における「上口唇切創」の原因となった暴行は、乙の共謀加担前に実行されているため、この暴行との関係では乙は実行行為の途中から関与したとはいえない以上、共同正犯の成立を認めることはできません。

そうすると、㋐の可能性が残るということは、乙に暴行罪の共同正犯が成立しない可能性が残るということを意味します。にもかかわらず、乙について、「上口唇切創」の原因となった暴行に係る暴行罪の共同正犯の成立を認めると、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に抵触することになります。

したがって、乙には、「上口唇切創」の原因である暴行に係る暴行罪の共同正犯は成立しません。

2020年11月28日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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