加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

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詐欺罪における不法領得の意思の要否・内容

いつも大変お世話になっております。
不法領得の意思についてのご質問です。
窃盗罪の場合は、使用窃盗との区別から権利者排除意思、毀棄罪との区別から利用処分意思が必要である、と整理されているかと思います。その上で、詐欺罪の場合に不法領得の意思が必要とされるのは、どのような理由からなのでしょうか?
また、詐欺罪の故意が認められれば、少なくとも権利者排除意思は当然に認められることになりますでしょうか?(詐欺罪の故意が認められるも、権利者排除意思が否定される場合はあり得るのでしょうか?)
宜しくお願い致します。

窃盗罪における不法領得の意思のうち、権利者排除意思は不可罰の使用窃盗と区別する(法益侵害が軽微であるケースを除外する)ために、利用処分意思は利欲犯的性格を基礎づけるために要求されるものです(大塚ほか「基本刑法Ⅰ」第2版145~147頁)。

詐欺罪においても、不可罰の使用詐欺と区別する必要性と利欲犯的性格を基礎づける必要性がいずれも妥当しますから、窃盗罪の同様の理由から、窃盗罪の同様の内容の不法領得の意思が必要とされます。

山口厚「新判例から見た刑法」第3版197頁では、「判例・通説である不法領得の意思必要説からは、詐欺罪においても、その内容は窃盗罪における場合と(基本的)に同じだと解される・・。このことは、財産上の利益に関する246条2項の利益詐欺罪についても、財産と財産上の利益という客体の相違に対応する修正はあるとしても、基本的に妥当する。」とあります。

例えば、甲が乙に対して、本当は2日後に返還するつもりだったにもかかわらず、「1時間後に必ず返還するから」と嘘をつき、乙から自転車を借り、2日後に自転車を乙に返還したという場合、甲には詐欺罪の故意はありますが、権利者排除意思が否定される可能性があります(窃盗罪に関する”自動車”の一時使用についての最高裁判例の立場からすると、”自動車”の事案であれば権利者排除意思が肯定されます)。したがって、詐欺罪の故意があれば当然に権利者排除意思が認められるということにはなりません。

なお、山口厚「新判例から見た刑法」第3版199~200頁は、2項詐欺罪における不法領得の意思の要否について、利益を取得する利益を図る意思は区別することができるし、区別するべきであるとの理由から、故意とは別に不法領得の意思も必要であるとの見解に立っています。

2020年11月24日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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