加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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令和1年司法試験設問1 別件・逮捕勾留の適法性と余罪取調べの限界の関係

令和1年司法試験刑事訴訟法設問1に関する採点実感では、余罪取調べの限界について論じるのは不適切であるといった趣旨の記述があります。これは、設問1では「身体拘束の適法性について・・論じなさい」とあり、適法性の検討対象が「身体拘束」に限定されているからでしょうか。本問と異なり、「身体拘束」と「取調べ」の双方の適法性を論じるように指示がある場合に初めて、余罪取調べの限界まで論じることになるのでしょうか。別件逮捕・勾留の適法性と余罪取調べの限界に関する論点の見分け方について教えて頂けますと幸いです。

令和1年司法試験設問1でいう「逮捕、勾留及びこれに引き続く・・身体拘束」とは、逮捕・勾留(延長後の勾留を含む)及びそれに基づく身体拘束(逮捕、勾留、延長後の勾留という理解でも構いません)を意味しますから、逮捕・勾留とは区別される「取調べ」を含みません。したがって、究極的に問われていることは、「逮捕・勾留(延長後の勾留を含む)及びそれに基づく身体拘束の適法性」であり、「余罪取調べの適法性」は「逮捕・勾留(延長後の勾留を含む)及びそれに基づく身体拘束の適法性」に影響をし得る限度で問題とし得るにとどまります。

だからこそ、令和1年司法試験刑事訴訟法設問1に関する採点実感では、「逮捕・勾留中の被疑者の取調べに違法があったからといって、逮捕・勾留までもが直ちに違法となるわけではない。身体拘束の適否を問う本問において、余罪取調べの適否を論じるのであれば、なぜ余罪取調べが違法と評価されると身体拘束が違法と評価されるのかについて説得的な説明が必要となるが、この点まで踏み込んだ論述がなされた答案は多くなかった。」と書かれているわけです。

令和1年司法試験刑事訴訟法設問1と異なり、「身体拘束」と「取調べ」の双方の適法性を論じるように指示がある場合には、別件・逮捕・勾留及びそれに基づく身体拘束の適法性だけでなく、取調べの適法性も、直接的に(又は究極的に)問われていることになりますから、「取調べの適法性」の一環として、余罪取調べの適法性も論じることになります。なお、基本書・演習書では、余罪取調べの限界という論点が顕在化するのは別件逮捕・勾留が適法であると判断された場合であると説明されていますが(古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版94~95頁、川出敏裕「判例講座刑事訴訟法  捜査・証拠篇」初版98頁)、「身体拘束」と「取調べ」の双方の適法性を論じるように指示がある場合には、論点落としを防ぐために、別件・逮捕勾留が違法であるという結論になったとしても、「仮に別件・逮捕勾留が適法であったとしても」仮定して「余罪取調べの限界」の論点まで言及するべきです。

2020年10月03日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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