加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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平成30年司法試験設問2 本件メモについて自然的供述と捉えることで非伝聞証拠とすることの可否

平成30年司法試験設問2の採点実感では、甲のVに対する詐欺を公訴事実とする甲の被告事件において、検察官により「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」を立証趣旨として証拠調べの請求がなされた本件メモ(被害者Vが犯人が言った内容を記載したもの)について、伝聞証拠であり、非伝聞証拠とするのは誤りであるといった指摘がされています。私は、強制わいせつの被害女児が被害状況等について母親に伝えた事例に関する裁判例を参考にして、非伝聞証拠にすることもできると思ったのですが、このような考えは間違っているのでしょうか。

平成30年司法試験設問2の採点実感では、本件メモについて、「本件メモについて、まず、本事例で明示された立証趣旨を踏まえつつ、伝聞証拠該当性を論述する必要がある。本件メモは、Vが犯行時に犯人(被告人甲)から聞いたとする欺罔文言を自ら記載した書面(被害状況を記載した供述書)であり、その立証趣旨は、「甲が、平成30年1月10日、Vに対し、本件メモに記載された内容の文言を申し向けたこと」である。そこでは、Vが記載したとおりに、犯人(被告人甲)がVに対して本件メモに記載された内容の文言を言ったことが立証の対象となる(Vの供述の内容の真実性が問題となる)から、本件メモは伝聞証拠に当たる。この点を理解し、適切に結論を導いていた答案が多かったが、「内容の真実性が問題となる」という表現の意味をなお正確に理解できていないため、本件メモの全体を非伝聞証拠とした答案も少数ながら見られた。」とされています(なお、再伝聞証拠に当たらない理由については、こちらをご確認ください)。

ご質問で言及されている裁判例は、「法律学の争点シリーズ6  刑事訴訟法の争点」第3版の185頁(担当:大澤裕教授)でも取り上げられている、強制わいせつの被害女児(当時6歳)が被害直後からその後二・三日にいたるまで被害状況等について母親に伝えた(そして、母親が、被害女児から伝え聞いた内容を公判で証言した)という事案に関する裁判例(山口地萩支判昭和41・10・19)のことだと思います。この裁判例は、非伝聞証拠とする根拠として「所謂再構成を経た観念の伝達ではなくて、被害に対する児童の原始的身体的な反応の持続そのものである」と述べていることから、「とっさになされた自然的供述」に分類されています。自然的供述については、記憶・表現・叙述を欠き、知覚の正確性だけが問題として残るため、現在の心理状態の供述と同様、証拠の価値が証拠の危険性を上回ることを理由に、知覚の正確性の問題が残るという意味で要証事実との関係で公判廷外供述の内容の真実性が問題になるにもかかわらず例外的に非伝聞証拠であると理解することができます(同書184~185頁)。しかし、平成30年司法試験の事案では、Vによる本件メモについて、詐欺被害直後にとっさになされた自然的供述であるとして記憶・表現・徐述の正確性が問題にならないといえるような事情はありません。そうすると、「犯人(被告人甲)がVに対して本件メモに記載された内容の文言を言ったこと」という要証事実(本件メモの直接の立証事項)との関係で、甲がVに対して何を言ったのかということについてのVの知覚・記憶・表現・叙述の正確性が問題になります。したがって、本件メモは伝聞証拠に該当します。

2020年09月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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