加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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任意同行後の取調べの「強制の処分」該当性と任意捜査の限界における被侵害利益の違い

平成26年司法試験設問1における取調べ②(任意同行後の取調べ)について、私は、甲が最終的には取調べを受けることについて同意しているのだから意思を制圧して行動の自由を制約したとはいえないとして「強制の処分」該当性を否定する一方で、任意取調べの限界の当てはめでは行動の自由が相当程度制約されていたとして違法であると考えたのですが、これだと「強制の処分」該当性と任意取調べの限界とで事実評価が矛盾しているように思えました。

任意同行後の取調べの「強制の処分」該当性については、意思制圧説を前提として、「甲の意思を制圧してその意思決定の自由や行動の自由を侵害するものであるか」という観点から判断することになります。その根拠として、「第一段階の判断として、・・甲の意思を制圧するに至っているか、甲の行動の自由を侵害しているかという観点から評価することが求められる」、「第一段階においては、強制手段を用いることになっていないか、すなわち甲の意思決定の自由及び行動の自由を侵害していないかという視点から検討したのに対し、第二段階においては、強制手段による取調べには当たらないことを前提に、任意捜査としての相当性を欠くか否かという視点から検討するのであり、検討の視点が異なる以上、両者を混同することなく、段階を追った検討が求められる」とする平成26年司法試験設問1の出題趣旨が挙げられます。

任意同行後の取調べの任意捜査としての限界については、任意同行後の取調べについても法益侵害を観念することができるから捜査比例の原則が適用されるとする立場からは、捜査の必要性と「意思決定の自由・行動の自由の制約、精神的・肉体的疲労や苦痛」を内容とする法益侵害とが合理的均衡を保っているかどうかという観点から検討することになります。その根拠としては、「第二段階の判断として、任意捜査としての相当性を欠くか否かについて検討することになり、・・自らの立場により、捜査の必要性と甲の被侵害利益(意思決定の自由や行動の自由等)との権衡を失していないか・・等の視点を定め、それに即した検討が望まれる。」とする平成26年司法試験設問1の出題趣旨、及び「強制の処分」に該当しない任意同行後の取調べの法益侵害の内容として「行動の自由の制約、精神的、肉体的苦痛や疲労」を挙げる古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版52頁を挙げることができます。

平成26年司法試験設問1の出題趣旨・採点実感では、意思決定の自由・行動の自由に対する「侵害」と「制約」が区別されているように思えます。おそらく、意思決定の自由・行動の自由を意思を制圧するほどの態様で制約する場合が「侵害」に当たり「強制の処分」に該当する(意思制圧説の要件を満たし「強制の処分」に該当する)と考えているのだと思います。なので、「強制の処分」該当性と任意捜査の限界の双方で被侵害利益として意思決定の自由・行動の自由に言及するのであれば、上記の点に留意する必要があります。

2020年09月15日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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