加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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違法収集証拠排除法則における違法性承継論と川出説の関係

秒速・総まくり2020刑事訴訟法では、大津事件型の事例について、違法性承継論で一元的に処理する構成と違法性承継論と毒樹の果実論を併用する構成を紹介した上で、前者の構成を奨励しておりますが、違法性承継論で一元的に処理する前者の構成は川出先生の見解とは異なるのでしょうか。仮に異なるのであれば、何故、川出先生の見解の方が処理が簡潔であると思われるのに、それと異なる前者の構成を奨励なさっているのかについてもお聞かせ願いたいです。

先行する手続に重大な違法が認められる一方で直接の証拠収集手続には重大な違法が認められないという事案における第一次証拠の証拠能力の判断方法には、①違法性承継論で処理する見解(最二小判昭和61・4・25・百91)と、②先行手続に重大な違法があることを前提に、先行手続と第一次証拠との間に将来の違法捜査抑止の観点からの証拠排除の相当性を肯定できるだけの関連性があるかどうかを検討する川出説(川出敏裕「判例講座刑事訴訟法  捜査・証拠篇」初版462頁)とがあります。なお、大津事件のように、先行手続に重大な違法が認められる一方で直接の証拠収集手続には重大な違法が認められない事案において、第一次証拠に基づいて発見された派生証拠(第二次証拠)まであるという場合については、㋐第一次証拠・派生証拠の双方について違法性承継論で一元的に処理する見解(古江賴隆「事例演習刑事訴訟法」第2版418頁)、㋑第一次証拠については違法性承継論で処理する一方で派生証拠については毒樹の果実論で処理する見解(大津事件・最二小判平成15・2・14・百92)、及び㋒先行手続に重大な違法があることを前提に先行手続と第一次証拠及び派生証拠との間に将来の違法捜査抑止の観点からの証拠排除の相当性を肯定できるだけの関連性があるかどうかを検討する川出説とがあります。今回のご質問は、①と②の対立に関するものであるため、①と②の違いについてのみ回答させて頂きます。

川出説は、違法重大性・排除相当性のうち、違法重大性を「直接の証拠収集手続」(判例でいう「証拠物の押収等の手続」)に要求せず、先行手続に重大違法があれば違法重大性の要件を満たすと理解した上で、当該証拠が重大な違法を有する手続(先行手続)により直接獲得されたものではないという点を、先行手続と証拠の関連性という形で、排除相当性の段階で問題にします。川出説では、構成と当てはめがシンプルである一方で、「証拠物の押収等の手続」に違法重大性を要求していた(当初の)判例理論(最一小判昭和53・9・7・百90、最二小判昭和61・4・25・百91等)との関係で、「証拠物の押収等の手続」に違法重大性がなくてもよいとする理由を説明をする必要があります。また、川出説では、先行手続の違法重大性が認められなければ、手続と証拠の関連性の検討に入ることができません(関連性が、排除相当性の段階に位置づけられているため)から、事案によっては当てはめで事実を拾い切ることができなくおそれがあります。以上の2つの理由から、①違法性承継論によるべきだと考えます。

2020年09月14日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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