加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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伝聞法則 供述の存在自体から主要事実を推認することが許される場面

秒速・過去問攻略講座2020刑事訴訟法の平成22年司法試験設問2の解説では、甲乙間で拳銃譲渡に関するものであることが窺われる会話を内容とする甲乙間の会話部分及び甲乙間で拳銃譲渡があったことを窺わせる会話を内容とする甲丙間の会話部分について、会話の存在自体(甲乙間・甲丙間でそのような内容の会話がなされたこと自体)を要証事実にすることで、非伝聞としています。もっとも、加藤先生のASK(現:質問コーナー)で、供述の存在自体から被告人の犯人性を立証することは許されないといった趣旨の回答を目にした記憶があるので、どうして平成22年司法試験設問2では供述の存在自体から乙による拳銃譲渡の事実を推認することが許されるのか、疑問に思いました。

ご質問中のASKの回答(現:質問コーナーに反映済み)は、「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述(供述調書等)について、要証事実(=直接の立証事項)を「甲がVを刺した」旨のWの供述が存在すること(=間接事実)と捉え、Wの供述の存在自体(=間接事実)から存在するWの供述の内容通りに甲がVを刺したという主要事実を推認するという形で、非伝聞として使用することは、信用性テストを経ない供述証拠による不確かな推認による事実認定の誤りを防止するという伝聞法則の趣旨に抵触するため、許されないというものです(詳細は、こちら)。

公判廷外供述(証拠)から供述の存在自体という間接事実を直接立証し、立証された供述の存在自体という間接事実からある間接事実又は主要事実を推認することが全面的に禁止されるのではなく、この推認過程のうち、信用性テストを経ない供述証拠による不確かな推認による事実認定の誤りを防止するという伝聞法則の趣旨に抵触するものが禁止されるということです。この観点から禁止される推認過程の例が、㋐「甲がVを刺した」旨のWの公判廷外供述(証拠)⇒「甲がVを刺した」旨のWの供述の存在(間接事実)⇒甲がVを刺した(主要事実)という推認過程と、㋑「私がVを刺した」旨の甲の公判廷外供述(自白)⇒「私がVを刺した」旨の甲の公判の存在(間接事実)⇒甲がVを刺した(主要事実)という推認過程です(他にもあります)。いずれも、「甲がVを刺した」という公判廷外供述の内容たる事実を要証事実にすることができるにもかかわらず(この場合は、直接証拠型)、これだと伝聞法則の適用を受けることになってしまうため、非伝聞として伝聞法則の適用を免れるために便宜的に、証拠と主要事実との間に「主要事実を内容とする供述の存在自体」という間接事実を介在させているわけです。脱法目的での迂回融資のようなイメージです。

被告人の犯人性(主要事実)を立証するための被告人供述の使い方には、①被告人供述(自白/不利益事実の承認)の内容の真実性を問題とする場合(伝聞)と、②供述の存在自体を間接事実とする場合(非伝聞)に分類されます。②の例としては、事件後の犯行告白という間接事実から、自分に不利益な嘘をつかないのが通常であるという経験則に基づき、犯人性を推認する方法や、秘密の暴露(事件に関与した犯人でなければ知り得ないであろう秘密の暴露)という間接事実から、そのような秘密を暴露できたのは犯人だからであるという経験則に基づき、犯人性を推認する方法なども挙げられます。

平成22年司法試験設問2のように、③被告人がけん銃譲渡を窺わせる会話をしていたという間接事実から、被告人によるけん銃譲渡という主要事実(罪体と犯人性が結合された主要事実)を推認するという方法もあります(間接証拠型)。また、④証拠から直接に証明できる会話自体がけん銃譲渡を構成するものである場合(例えば、平成22年司法試験設問2の事案と異なり、拳銃というキーワードも録音できている場合)には、被告人・相手方間の会話を録音したテープを反訳した会話部分(証拠)から、被告人がけん銃譲渡を構成する会話をしたという主要事実(罪体と犯人性が結合された主要事実)を直接に証明することも可能です(直接証拠型)。

2020年09月14日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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