加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

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プレテスト設問3 乙の犯行関与を認める旨の甲の供述調書を犯行関与を否認する被告人乙の供述の信用性を減殺するための弾劾証拠として使用することの可否

司法試験プレテスト設問3では、甲乙両名について、「甲が乙からの指示に基づき、乙と2人で、Vに暴行を加え、傷害を負わせた」ことによるVに対する傷害罪の共同正犯を公訴事実として公判請求され、甲乙両名の被告事件が併合審理されるに至ったという事案において、乙の犯行関与を認めることを内容とする甲の供述調書(検面調書・員面調書)の証拠能力が問題となっています。甲の供述調書について、乙の被告事件との関係において、乙の犯行関与を否認する乙の供述の信用性を弾劾するための弾劾証拠(328条)として用いることは出来るのでしょうか。

確かに、乙の犯行関与を認めることを内容とする甲の供述調書(検面調書・員面調書)には、これと矛盾する乙の犯行関与を否認する乙の供述の信用性を減殺する力が認められる余地があります。しかし、この場合、乙の犯行関与に関する他者の矛盾供述を乙の否認供述の信用性を弾劾するために使うことになりますから、328条の「証拠」を自己矛盾供述に限定する判例の立場(最三小判平成18・11・7・百87)からは、328条の適用は認められません。甲の供述調書を乙の否認供述の信用性を減殺するための弾劾証拠として使用する場合には、甲の公判廷外供述の内容たる事実(乙が犯行に関与した事実)が真実であることを前提とすることになりますから、甲の供述調書は伝聞証拠に該当することになります(甲の供述中の乙の発言内容の真実性を問題にするわけではないから、再伝聞には当たりません)。したがって、仮に甲の供述調書を弾劾証拠として利用するのであれば、甲に供述調書は、321条1項3号の伝聞例外要件を満たさなければ、証拠能力が認められません。

それから、甲の供述調書により乙の否認供述の信用性を弾劾するという証拠の使い方は、少なくとも司法試験・予備試験では避けたほうが良いです。刑事訴訟法では、検察官が犯罪事実の存在について積極的に立証しない限り、「疑わしきは被告人の利益」の原則(=無罪推定の原則)が適用され、被告人は無罪となります。そうすると、検察官としては、有罪判決を下してもらうためには、犯罪事実の存在について積極的に立証する必要があります。そして、被告人の否認供述の信用性の弾劾に成功したからといって、検察官立証が成功するわけではありません。したがって、司法試験・予備試験では、検察官請求証拠を被告人の否認供述の信用性を弾劾する証拠として使うということは、まずあり得ません。

なお、司法研修所の刑事裁判起案では、有罪判決を導く際に、「検察官立証が成功していること→被告人の弁解供述が信用できないこと」という流れで論じますが、これは、検察官立証が成功していなくても被告人の弁解供述が信用できないのであれば被告人を有罪にすることができる、という趣旨ではありません。検察官立証の成否に言及することなく、「被告人の弁解供述は信用できないから、被告人は有罪である」という趣旨の論述をすることのないよう、気を付けましょう。

以上より、司法試験プレテスト設問3において、乙の犯行関与を認める旨の甲の供述調書を犯行関与を否認する被告人乙の供述の信用性を減殺するための弾劾証拠として使用するということにはなりません。甲の供述証書については、乙の被告事件との関係でも、弾劾証拠ではなく実質証拠として使用することになります。

2020年09月14日
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加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

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加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
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