加藤喬の司法試験・予備試験対策ブログ

質問コーナー

0

承継的共同正犯の肯否は「共謀に基づく実行行為」という要件の充足性として論じるべきか

個人的に、条文の文言又はそれに関する解釈により導かれる要件に引き付けられていない論点については、論点が条文や要件から離れて浮いてしまっている気がします。そこで、承継的共同正犯の肯否については、「共謀に基づく実行行為」という要件の充足性の問題として把握しようと思うのですが、この理解は間違っていますでしょうか。

要件充足性に属する論点については、条文の文言又はその解釈により導かれる要件(条文の文言に対応する要件)に引き付けて論じることになります。例えば、実行共同正犯の成立要件に属する論点については、実行共同正犯における「二人以上共同して犯罪を実行した」(文言)=「共謀+共謀に基づく実行行為」(条文の文言に対応する要件)と整理するのであれば、「共謀」又は「共謀に基づく実行行為」のいずれかに引き付けることになります。

もっとも、論点には、要件充足性に属するものだけでなく、要件を充足した場合の法律効果の内容に属するものもあります。法律効果の内容に属する論点については、条文の文言に引き付けることも可能ではあるものの、それが困難である場合には、条文の文言に引き付けないで論じても構わないと思います。

承継的共同正犯は、後行者について、実行行為終了前に「共謀に基づき実行行為の一部を実行した」ことを根拠として、一部実行全部責任という効果としていかなる範囲で先行者の行為とそれにより惹起された結果を承継するか(=加功前の先行者の行為とそれにより惹起された結果も含めて共同正犯としての責任を負わせることができるか)という議論です(高橋則夫「刑法総論」第3版460頁)。そのため、少なくとも、「共謀+共謀に基づく実行行為」という要件を満たすことになります。このように理解した上で、承継的共同正犯の議論の仕方には2通りあると考えます。

1つ目は、「共同して犯罪を実行した」という法律要件レベルの論点に位置づける構成です。「共同して犯罪を実行した」の基本要件を「共謀+共謀に基づく実行行為」と理解した上で、共謀加担前の先行者の行為とこれにより惹起された結果を含む犯罪全体との関係で「共同して犯罪を実行した」というための加重要件として、承継的共同正犯を肯定することが必要である、と理解するわけです。

2つ目は、「すべて正犯とする」という法律効果レベルの論点に位置づける構成です。承継的共同正犯の事例でも「共同して犯罪を実行した」の要件は「共謀+共謀に基づく実行行為」であると理解した上で、共謀に基づき途中から実行行為を行ったことをもって「共同して犯罪を実行した」と認定し、「すべて正犯とする」の範囲として承継的共同正犯を論じるわけです。

どちらの構成が理論的に正しいのかは定かでありませんが、承継的共同正犯を否定すると後行者につき何らの共同正犯も成立しない場合(詐欺事案等)には1つ目の構成で書かざるを得ない一方で(この場合に2つ目の構成を採用すると、「共同して犯罪を実行した」という法律要件を満たすのに、法律効果が発生しない、というおかしなことになるため)、承継的共同正犯を否定しても犯罪の一部につき共同正犯が成立する場合(傷害事案等)には2つ目の構成で書くことも可能であると考えます。

大塚裕史ほか「基本刑法Ⅰ総論」第3版393頁では、「後行者は先行者の行為に関与することによって共同して結果(強取や喝取)を実現したといえるため、強盗罪や恐喝罪の責任を負うとされる」という記述からすると、犯罪全体との関係で「共同して犯罪を実行した」といえるかとして、法律要件レベルの議論に位置づけている(1つ目の構成)ように思えます。

2020年09月13日
講義のご紹介
もっと見る

コメントする

コメントを残す

コメントをするには会員登録(無料)が必要です
※スパムコメントを防ぐため、コメントの掲載には管理者の承認が行われます。
※記事が削除された場合も、投稿したコメントは削除されます。ご了承ください。

加藤ゼミナールは、加藤喬講師が代表を務める予備試験・司法試験のオンライン予備校です。

kato portrait
加藤ゼミナール代表取締役
加藤 喬かとう たかし
加藤ゼミナール代表取締役
弁護士(第二東京弁護士会)
加藤ゼミナール代表
青山学院大学法学部 卒業
慶應義塾大学法科大学院(既修) 卒業
2014年 労働法1位・総合39位で司法試験合格
2021年 7年間の講師活動を経て、「法曹教育の機会均等」の実現と「真の合格実績」の追求を理念として加藤ゼミナールを設立
質問コーナーのカテゴリ
ブログ記事のカテゴリ